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 話を一段戻そう。

 新たに訪れた素晴らしい日々を満喫すれどそれを失う日を恐れない人も、中にはいる。この両極端の一方は母さんのような大聖者が担当し、真逆の一方は「失って初めてその真価が解る」の該当者が担当している。いや、これを例として挙げるのは落第点か。一方を大聖者にしたせいで正反対のもう一方が、九割越えの人達に当てはまる条件になってしまった。大聖者と比較したら九割越えの人達は、大差なく愚か者だからね。よって別の例を挙げ、「今を生きる人」と「今さえ良ければいい人」を両極端にしよう。すべての人を見ている創造主は「君の成長に今最も役立つのはこれだよ」という意志のもと、新たな環境にその人を置くことが多い。それを十全に理解している人もしくは無意識に理解している人は、創造主がもたらしてくれた今を精一杯生きようとする。それ故に、新たに訪れた素晴らしい日々を満喫すれどそれを失う日を恐れないという精神状態に、なりやすいのだ。その正反対が、未来を度外視し今しか見ず行動する人達。今さえ良ければいいという享楽的な人も、今を生きる人と表面上似た精神状態に、なりやすいんだね。

 という訳で、話を二段戻そう。

 4歳から5歳の子竜達は冬期休暇中、俺にもう二度と会えないかもしれない恐怖に苛まれていた。仮にこれが人間の4歳や5歳ならまだ知性が追いつかず、二度と会えないかもしれないなんてそもそも考えなかっただろう。その正反対にいたのが、おこがましいが俺。人として欠けている部分を脇に置き知性のみに着眼するなら、正反対は俺になる。それなりに知性を鍛えてきた40歳越えの俺は、冬期休暇が終われば再会できることを知っていた。よって二度と会えない云々を恐怖せず、かつそれは表面上、人間の4歳や5歳の子供と同じだったんだね。つまり子竜達は知性が育っていたからこそ恐怖し、そしてその「知性が育っていた」という要素により、「善心と悪心は同時に育つ」の該当者に子竜達はなったということ。俺の訪問によってもたらされた楽しく充実した日々を素晴らしいと感じるほど、俺が訪問を止めた時を、子竜達は想像してしまったのである。

 という訳で話を三段、つまり最初に戻そう。

 幼稚園前の広場に降りるや、子竜達は泣きながら俺に抱き着いてきた。その様子がいじらしくてならず、俺は楽器練習の件を洩らしそうになった。もちろん寸前で阻止できたが、それは自制のみで成されたのではない。鈴桃のテレパシーのお陰で、人として欠けている部分が自分にあることを今までで最も強く意識したことも、阻止を大いに助けてくれたのだ。正確には、強く意識したことにより虎鉄と美夜の今際の言葉である、


  一般的には普通のことを

  翔は忘れている


 へのある種の予感を得られたのである。虎鉄と美夜の今際の言葉を解明するためなら努力や苦労を惜しんだことなど無かったのに、解明は一向に進んでいないのが現状。今回得た予感も解明には遠く及ばないが、それでも最初の一歩を踏み出せたことに変わりはない。それへの感謝も、楽器練習の件を洩らす寸前だった自分を阻止してくれたんだね。では、その予感とはどのようなものなのか? それは、


「散山脈諸島への毎日の訪問を止めたとき、虎鉄と美夜の今際の言葉を理解できる」


 という予感。繰り返すが、これはあくまで予感にすぎない。しかし確信ではなく予感であることに、強固な信憑性を俺はむしろ感じていた。この件は不確定要素が多く、しかもかなめとなるのが4歳から5歳の子竜達であるため、確定した未来を感じている方が「それってただの思い込みなんじゃない?」と疑念を抱くってことだね。

 ちなみに竜族もアトランティス人同様、人生初の元日を1歳とする数え年を採用している。ただ人と異なり竜族の出産は2月と3月に集中しているため、数え年でもさほど差は出ないそうだ。幼年学校に入学すべく2歳6カ月で親元を離れた昇と3歳2カ月で親元を離れた奏のような差は、竜族にないということ。再度ちなみに鈴桃達20頭が4歳から5歳なのは幼稚園の制度ではなく、抜きんでて優秀な子がこの二年間に集中して生まれたかららしい。優秀な子が集中して生まれるという緩やかな傾向は周知されていたが、これほど極端なのは有史以来初めてとのこと。創造主の意向を感じざるを得ない、俺だった。

 話を戻そう。

 俺に抱き着き泣いていた子竜達が、次第に泣き止んでいく。しかし泣き止んだからと言って、20の輝力俺の解除はまだできない。年明けの初授業で、冬期休暇中の訓練の成果を見てあげる事になっていたからだ。その空気を察知したのだろう鈴桃が音頭を取り、冬期休暇中の成果を子竜達は一斉に見せ始めた。一斉だろうと俺も同数いるから、落ち着いて審査してゆく。その結果、


「皆、熱心に訓練したようだね。全員、合格!」

「「「「キュル―――ッッ!!」」」」


 大喜びの子竜達に20の輝力俺は再び抱き着かれ、ひとしきり甘えられたのだった。


 散山脈諸島を夕方に訪問し子竜達を指導することは、それ以降も変わらず続いた。変わったのは、年に二度の一泊が可能になった事くらいだろう。年二回ある竜達の長期休暇が始まる前日に、それぞれ泊まれるようになったんだね。それ以外はとんと変わらず、ということは子竜達も飛行スキルや輝力工芸スキルを身に付けず、子竜達に進捗が見られないことを山風にこっそり謝られたが、それは見当違いというもの。気が遠くなるほど昔に失った飛行能力や、竜族初となる輝力工芸能力を獲得するにあたり最も重要なのは、「焦らないこと」と「継続すること」の二つだからだ。松果体を介して流入する力は焦っても増えないし、継続する以外に制御力を高める方法もない。己の愚直さに笑ってしまうほど毎日ひたすら同じ訓練を繰り返すしか、方法は無いのである。

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