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 実際は俺が一方的に話したのではなく、ほとんど対話形式で成された。妖精長の言葉をまとめると、だいたいこんな感じになるだろう。


『星母様が特定の少年つまり翔さんと親しくしていることを、私は最初期から知っていました。また私は人族の社会を最も詳しく知る妖精でもありますから、いかに星母様の意向だろうと、軍人の翔さんがたった一人の基地に配属される不利益の多さを危惧していました。それもあり妖精長たる自分がこの地の土地神になることを、私は快く引き受けました。妖精族全体の長が管理する土地であることは、司令長官の心証へそれなりの効果を及ぼすことを、人族に詳しい私は知っていたのですね。ここまでは翔さんの推測と実情に齟齬はなく、とりわけ容姿変更にうっかり者が関わっていたのを見抜いたことは驚嘆しましたが、容姿変更の最重要事項が抜けているのも事実です。妖精は各々に個性があり、中にはうっかり者もいます。そのうっかり者が翔さんのいる場で私を長と呼ぶ寸前になったことを危ぶみ、これ幸いと自分の容姿を私は変えた。この「これ幸い」が最重要事項で私は率先して容姿を変えたのですから、どうか負い目に感じないでください。最も親しい人族の友人に振袖娘と呼ばれているこの容姿を、私はたいそう気に入っているのですから』


 ご希望なら「これ幸い」の詳細を説明しますと追加した妖精長に、俺は即答できなかった。以前母さんに妖精長の振袖について尋ねたら「この世には知らない方が良いこともあるのです」と返されたことを、思い出したのである。あの時点では裏で母さんが暗躍していたことを知られるべきではなかったため、返答を濁されたのか? それともまこと知ってはならないことがこの宇宙にはあり、仮にあるならそれは如何なる分野に属するのか? 宇宙の神秘なのか妖精の禁忌なのか、それとも・・・・


「翔さん」「はい、いかがしましたか」「練習している器楽曲を竜族の次に聴かせるのは、私にしてくださいませんか?」「もちろんいいですよ。ただ、最短でも1年は待ってもらうと思いますが」「妖精種にとって1年は1週間と変わりません。楽しみにしています」


 子供妖精達が輝力製のお茶とお菓子を早く食べたくて文句をブーブー垂れていたのは、子供だからなのかな? との疑問を呑み込んだ俺に、妖精長は振袖娘に戻って微笑んだ。人族で最も親しい友人と言ってもらえたことが思い出され、胸がポカポカになっていく。その温かさを愛しみつつ、友人との会話を俺は楽しんだのだった。 


 その日の夕方。散山脈諸島を訪問し子竜達と43日振りに再会した俺は、嬉しさのあまり楽器練習の件をもらしそうになってしまった。でも、そうなっても不思議はないと思う。再会した子竜達が、いじらしくて堪らなかったからだ。

 幼稚園前の広場に俺が降り立つや、子竜達は泣きながら俺に抱き着いてきた。輝力俺に抱きしめられギャン泣きする子竜達を、最初はうれし泣きしているのだろうと考えていたが、暫くするとハテナマークが脳を飛び交い始めた。うれし泣きも含まれるがそれだけでは無いと、思うようになったのである。その変化をあたかも感じたかの如く鈴桃がギャン泣きからシクシク泣きに変わったので背中をポンポンしつつ訊いてみたところ、


「先生にもう二度と会えないかもしれないと思うと、怖くて仕方なかったんです」


 に類するテレパシーが返ってきた。俺はそのとき以上に、人として欠けているところが自分にあると感じたことは無い。鈴桃のその気持ちを、理解することなら俺にも可能。けれどもその気持ちが、胸に自然と湧き上がって来ることがおそらく俺にはない。子竜達の冬季休暇が終わったら散山脈諸島をまた毎日訪問すると、俺は約束した。まことの心で真の言葉を紡ぎ、俺はそう約束した。その真を子竜達は正しく感じ取り、感じ取ったことを俺も正しく感じ取るという真心のやり取りをしていたから、子竜達に会えない43日間に「二度と会えなくなる」系の恐怖と俺は無縁でいられた。が、子竜達は恐怖した。俺の言葉を信じても尚、会えなくなるかもしれない恐怖に震えたのだ。これは、


  善心と悪心は同時に育つ


 の現れの一種と言えよう。俺の訪問は子竜達に、これまで以上に楽しく充実した日々をもたらした。その楽しさや充実を善心とするなら、悪心はいかなるものなのか? 子竜達にとってそれは鈴桃の言った、「先生にもう二度と会えないかもしれないと思うと怖くて仕方なかったんです」として現れた。新しくもたらされた日々が素晴らしければ素晴らしいほど、それを失う日を想像し恐れてしまう。心には、そういう性質があるんだね。

 言うまでもなくこの性質は、人によって差がある。新たに訪れた素晴らしい日々を満喫すれどそれを失う日を恐れない人も、中にはいるのだ。これには、


  両極端は似ている


 が作用している。ほぼ全ての日本人は誤解しているが「両極端は似ている」は、「バカと天才は紙一重」と同義。真の天才の隔絶した知性は、一般人には決して理解できない領域へ天才を導く。一方バカは知性が低すぎるため、なぜああも愚かなことをするのかという意味の理解できない存在になっている。このように知性の両極端にいる天才とバカは「一般人には理解できない存在」という共通項を持ち、そして残酷だが一般人の知性では、真の天才の知性を逆立ちしても理解できないのである。かくなる理由により、ほぼ全ての日本人は「バカと天才は紙一重」を誤解しているのだ。

 話を一段戻そう。

真の天才の知性は、数百年から数千年先の領域に到達しています。


並の天才でも、理解は絶望的なのが現実ですね。

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