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 その日は夕飯終了に合わせ、俺と美雪は幼稚園を去る予定だった。いつもより早いけど、今日は親がいるので平気だろうと予想していたのだ。が、それは見事に外れた。「「「「お正月休みで明日から43日間も会えないのに帰るなんて酷い~」」」」と、子竜達がギャン泣きを一斉に始めたのである。ちなみに竜族は太陽暦を採用しており、大晦日は冬至。そして冬至の翌日が新年、つまり1月1日だね。このお正月の決め方は、地球やこの星のそれよりしっくり来るのが俺の本音なのだがそれは置き、子竜達の冬期休暇はお正月を中心とし前後に3週間ずつの43日間、夏季休暇は夏至の翌日を中心とし前後に3週間ずつの43日間と定められている。閏年はお正月休みが一日増えるため、子竜達に大歓迎されるらしい。美雪によると、妖精達と一緒に造った竜族の太陽暦は驚くほど正確とのこと。地球にも驚きの正確さを誇るこよみを用いていた古代文明があったけど、あれは妖精と協力したのではなく、集中法の賜物なのが真相なんだよね。

 話を戻すと、というか結果を述べると、俺と美雪は予定を変更しいつもどおりの時間に幼稚園を去った。親達は恐縮していたが、43日間も会えなくて寂しいのは俺達も同じと説明したら納得してくれた。それは良いのだけど、酔っ払い共が「そうでしょうそうでしょう、さあお一つどうぞ」と酒果を勧めてきたのは、お約束とはいえゲンナリした。言うまでもなく、全員まとめて返り討ちにしたけどね。ただ、酒果でほんのり上機嫌になって聴いた子竜達のお礼の歌はやたら胸に染みたから、そこは素直に感謝している。


 竜達に見送られ、いつもの時間に幼稚園を去った。その道中、歌を聴きつつ閃いたことを美雪に尋ねてみた。


「美雪なら、竜族が好みそうな地球の歌や音楽に、当たりを付けられる?」「うん、付けられるよ」「子竜達へのお礼にそれを二人で歌うか、もしくは美雪が歌を担当して俺が楽器を担当するとか、できるかな?」「翔、それ最高!」


 思いがけず美雪が抱き着いてきた。宇宙一好きな香りに包まれふにゃふにゃになった俺の脳を「好きな男性と一緒に同じことをするのが女性は大好き」という、前世で読んだ漫画のセリフが真一文字に貫いていった。ふにゃふにゃが一気に冷め、己のアホさ加減に呆れる気持ちが湧き上がってくる。これほど喜ぶなら、もっと早く同種の提案をしておくべきだったと落胆したのだ。でも美雪の喜びようを見るに、遅すぎるということは無いらしい。俺は輝力圧縮400倍を発動し時間を20倍速にして、美雪が次々挙げていく歌と音楽を精査した。その過程でピンと閃き美雪に断りを入れ、アカシックレコードを見に行ったところ、己のアホさ加減に再び呆れることになった。俺は肉体に戻り、アカシックレコードで判明したことを美雪に伝えた。


「さっき提案したことは、想像以上の大事だった。俺と美雪の披露する歌と音楽が、未来の竜族の歌と音楽の方向性を、決定するみたいなんだよ」「エエエ―――ッッ!!」


 正確には、歌は竜族にもあるので声楽曲は「地球風」という音楽の一分野を築くだけに留まったが、器楽曲はヤバかった。竜族は楽器を持たないため、楽器だけで演奏される器楽曲に凄まじい衝撃を受けたのである。幸い器楽曲は竜族の社会と文化をより豊かにし、はっきり言うと悪い影響は皆無だったのだけど、小心者としては影響力の大きさに尻込みせずにはいられなかったんだね。といった具合に俺が尻込みしたのは当然でも、美雪もヘタれたのは正直気になる。美雪、なぜなのかな?


「えっとですね」「うんうん、何かな」「子竜達に先日、意見を求められたの。『自分達独自の翔の呼び方を三つ考えました。この三つの中に、翔や人族を不快にしてしまうものはありますか』って」「エエエ―――ッッ!!」


 三つの候補を聞く前にエエ――ッとのけ反ってしまった理由は、親竜達の過大評価にある。ここ数日間の過大評価攻勢により、精神疲労を俺は覚えていたんだね。だが呑兵衛共に苦労させられたからといって愛らしく健気な子竜達も同列に扱うなど、未熟にも程があるというもの。俺は気持ちを切り替え、三つの候補を美雪に尋ねた。するとあろう事か、


「叡智をもたらしてくれたから智神、技術をもたらしてくれたから技神、とにかく自分達を慈しんでくれるから慈神、の三つね」


 などと返ってきたではありませんか。カレンが基地に着陸するまで、俺は頭を抱えて前のめりになっていたのだった。


 翌日、ふとした拍子に「今日は散山脈諸島に行かないから急ぐ必要ないんだ」との気づきが脳裏をよぎり、こみ上げてくる寂しさに俺はそのつど俯いていた。散山脈諸島へ赴くべく1秒たりとも無駄にしない日々を送っていても、神話級の健康スキルに助けられ悪影響を受けていないのだと俺は考えていた。だが、それは間違いだった。健康スキルのお陰で悪影響が無かったのではなく、


  愛らしい子竜達


 に助けられ、俺は心身を健康に保てていたのである。知らないことだらけの阿呆と思っていたが、実際はそれを超えるド阿呆だったらしい。かくして子竜達に会えない寂しさと己のド阿呆っぷりの二重苦に、俺は朝から苛まれ続けていた。

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