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 その後は母さんと協力し、妖精達に振舞う輝力製のお茶とお菓子を100万食造った。その様子にも子竜達は驚喜し、中でもとりわけ注目を集めていたのは、果物をてんこ盛りにしたフルーツケーキだった。輝力製ゆえ食べられなかろうと、果物をこよなく愛する竜族にとって、見たことのない果物をふんだんに使ったフルーツケーキは無限の魅力を湛えた芸術作品だったのである。掴みはバッチリと判断した俺は、「は~い注目!」と声を張り上げた。


「今から皆に、嬉しい知らせを三つしよう。1、夢で会合を開けるようになったら、皆も輝力製のお茶とお菓子を楽しむことが出来る。2、皆の選んだ選択肢1には、豊かな食文化が花開く。竜族は300歳の長寿を誇るので、生きている内にこのケーキを味わえる可能性は十分ある。3、選択肢1は輝力工芸が最も得意だから皆は知らず知らずのうちに、このケーキへの最短ルートを選んでいた。どうだい、喜んだかな?」

「「「「喜びました、バンザ~イ!!」」」」


 子竜達は一斉に万歳した。未来への希望に全身を輝かせる子供というものは、大人の涙腺を容易く決壊させるらしい。山風らの成竜および元頭らの成竜達は、目元をひっきりなしに拭っていた。その様子が霞んで仕方ない俺も、そうとうなんだけどさ。

 という涙もろい年長者達はさて置き、妖精用の100万食のお茶とお菓子が完成した。仮に100万の人々に100万食のお茶とお菓子を配膳するなら途方もない労力と時間を強いられたはずだけど、妖精相手にそれは無い。1千の長老が空を飛んでやって来て、母さんと俺に挨拶とお礼を述べたのち、重さ(ゼロ)の1千食を楽々運んで行ったからだ。挨拶とお礼は平均すると1秒に付き10述べられ、眼前の100万食はざっと100秒で消えた。長老が持って行った1千食も100秒あれば各妖精に配られたから、計200秒で配膳が終わってしまったのである。繰り返すが俺と母さんはその間、にこやかに相槌を打っていただけ。今更だが、まったくもって非現実的だな。

 かくして妖精達のお茶会と、子竜達の昼食会が始まった。特別な果物と木の実を用意してもらった子竜達は、今日と明日の二連続で豪華昼食を堪能することが出来ると知り、たいそうご満悦だ。本当は散山脈諸島に自生していない果物をサプライズで用意し子竜達に食べてもらおうとしたが、外来種排除法に抵触しそれは無理だった。同法律の観光客の項目に阻まれ鈴姉さんと小鳥姉さんが参加できなかったのも、悔やまれた。母さんによると姉達が軍人で半年前から根回ししていれば、誤魔化しに誤魔化しを重ね掛けしてどうにか連れてこられたらしい。当人達にそう伝えたところ「「来世は絶対行く!」」と、闘志を燃え上がらせたという。それまでに俺もいろいろ権力(笑)を得て、姉達の目標を助けられるようになっておかないとな・・・って、あれ?


「翔、どうしたの?」「今更の極みだけど、なぜ俺は散山脈諸島で好き勝手できているのだろう。美雪は仕組を知ってる?」「ふふふ。好き勝手って、例えばどんなこと?」「そりゃ毎日訪問したり、こうしてお弁当を食べたりすることだよ。たしか島での食事も、本来は厳禁だったよね」「うん、厳禁。ちなみに竜達が自ら追熟させた酒果アルコールフルーツを食べたのは、5万年に及ぶこの星の歴史で翔が初めてよ。知ってた?」「どわ! 知りません知りません全然知りません!!」「ナノドローンを駆使して追熟方法を調べ、研究室で再現した酒果を食べた人すら、ほんの一握りの研究者だけなの。『この美味しさが知れ渡ったら大規模な窃盗団が現れ、竜族から酒果を強奪するかもしれない。厳秘すべし』って5万年前に当時の研究者達が主張し、法律が整えられたのね。翔は竜族に誘われたお酒の席で、竜族が手ずから用意した酒果を食べたから、法の裁きを受けなかったのよ」「ヒッ、ヒエエエ―――ッッ!!」


 美雪によるとあの宴席の前、山風が俺のアルコール耐性を美雪にこっそり尋ねたという。「神話級の耐性があります」との美雪の答に喜んだ山風はアルコール濃度最高の酒果をかき集め、俺をもてなしたそうだ。言われてみれば酒を共にした山風と園長は酷い二日酔いになっていたし、また山風の心遣いは純粋に嬉しかったけど、犯罪者になるギリギリだったなんて小心者としては心臓に悪かったぞ!


「まったく、翔ったら何を言っているのよ。子竜達を明日迎えに来る親竜達は翔がとんでもない酒豪と知っていて、故郷の選りすぐりの酒果を全員持ってくるわ。翔なら問題ないから、完食してあげてね」「わかった、完食するよ。ええっとですね美雪、俺は自分では知らないだけで、他にも色々やらかしてたりする?」「散山脈諸島に存在しない病原菌やウイルスへの子竜達の耐性を、翔は飛躍的に高めたわ。それは宇宙的には善行でも、法的にはアウトなの。例えば地球の南極では、親とはぐれた赤ちゃんアザラシが死にかけていても、助けてはならないって決められているよね。自然への一切の干渉を禁じる地球の規則は、この散山脈諸島も同じなの。翔の場合は土地神長がこの星の環境省に翔の無罪を説き、加えて帰省した子竜達が疫病の宿主にならないことを母さんが保証し、それを環境大臣と法務大臣が認めたから、罪に問われなかったのよ」「ウギャ―――ッッ!!」


 健康な人も、無数の病原菌やウイルスを体内及び体表に保有している。疲労等で抵抗力が著しく低下したら保有するそれらによって病気が発症することもあるし、またそれらへの耐性を持たない遠い地域の人達が、その人と接触することで病気を発症することもある。俺も無数の病原菌やウイルスを体内及び体表に保有しているけど、病原菌やウイルスの状態が一般とはかけ離れているらしい。神話級の健康スキルと膨大な青色輝力によって病原菌やウイルスは徹底的に弱められ、天然のワクチンになっているのだそうだ。子竜達が飛行器活性訓練と輝力工芸スキル習得訓練を熱心に行っていたのも、耐性獲得に寄与したという。加えて母さんが子竜経由の疫病の蔓延を否定したから、特例として処理されたとの事。俺の知らぬ間にそんな大事になっていたなんて、小心者としては以下同文。

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