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15

 機体と同化した俺によると、大風と慈雨は心拍数増加と呼吸数増加が見られるも、許容範囲内とのこと。それを元頭と伴侶達に伝えて安心してもらったのち、夫婦ごとにグライダーを次々飛び立たせていった。日没が迫っているため、悠長にはしていられなかったのである。現長夫婦で1機、元頭夫婦で8機、次期長夫婦で1機、幼稚園の保育士と用務員の夫婦で5機の、計15機の離陸を全て終える。一安心したいところだけど、油断厳禁。俺は精神を研ぎ澄まし、空を翔る15機のグライダーを見守った。

 そうそう昨日の時点では、次期長夫婦および幼稚園関連の夫婦は空の散歩の対象外にしていたけど、「頑張りなさい翔」の母さんの一言により対象となった。反論など元々できないのに尻拭いをしてもらったとくれば、俺に選択肢などないのである。とはいえ皆さん凄まじく喜んでいたから、これが最善だったんだな。

 それも含めて今回の反省点は多岐に渡り、その中には熟達していたはずのグライダーに関するものもあった。安全を真に最優先するなら、グライダーの各機に美雪も乗ってもらうべきだったのである。サイコロほどの機械があれば美雪の搭乗が可能だったと知った時は、落胆したものだ。美雪がいれば乗客の健康管理は一段上がり、グライダーの航路安全性は数段上がる。上空のカレンと協力し美雪は今も航路計算をしてくれているけど、遠方からの光学測量に頼っているのが現実。グライダーごとに美雪が1人ずつ乗ってくれていることと比べたら、数段落ちてしまうのだ。輝力グライダーに俺以外の人間を乗せるのは法律違反でも、人間でないなら合法。今日こうして竜族が乗客になったように、別の種族が乗客になることもあるかもしれない。機械の耐用年数も百年以上あるようだし、数個買っておきますか。夕焼け空を飛ぶ15機のグライダーを見つめつつ、俺はそう決めた。

 大気の妖精の力を借り3000メートルまで上昇することを二度行ったグライダーが、砂浜に次々着陸していく。一機も漏れず無事着陸し安堵したのも束の間、降りて来た竜達が「思い残すことは何もない」的な表情をしていることに頭を抱えた。ヤバい忘れてた、こんなふうに考えるのが年寄りだったんだ。どうすっかな・・・・

 とアタフタしたのは、杞憂だった。鈴桃を始めとする子竜達がドッと押し寄せて来て空を飛んだ感想を尋ね、老竜の語る空の描写に瞳を輝かせるのを見るにつれ、老竜の瞳にも輝きが戻ってきたのである。この機を逃すな、と俺は子竜達に語りかけた。


「次に空を飛ぶのは、皆だ。空を自在に飛ぶ様子を、長や元頭たちに見てもらおう」

「「「「はい、先生!!」」」」


 未来の希望にはち切れんばかりの子竜たちの声が砂浜に響いた。その声に老竜たちも、一族の悲願をこの目に焼き付けてみせるという、未来への希望を蘇らせたみたいだ。安堵した俺は、母さんに体ごと向けた。


「母さん、この度は俺の失敗の後始末をしてくださり、ありがとうございました。同種の失敗を二度とせぬことと、子竜達の授業にいっそう励むことを、誓います」

「翔、覚えておきなさい。子の成長は親を喜ばせると同時に、悲しませもします。今日は久しぶりに翔の役に立てて、母は嬉しかった。翔、失敗を恐れず果敢に挑戦しなさい。母の手に掛かれば大抵の失敗は、帳消しできますからね」


 前世の俺も部下の失敗を、数えきれぬほど帳消しした。若手社員には修復不可能な仕事上の失敗も俺のコネと経験なら修復でき、泣いて感謝されたものだ。そんな若手社員達に、俺も母さんとピッタリ同じことを毎回言っていた。「もしもの時は俺が何とかするから、これからも失敗を恐れず挑戦を続けるんだよ」と、真心で言っていたのである。俺は胸に手を添え、温かな想いをかみしめていた。

 老竜と子竜のこころ温まる交流が一段落するのを待ち、母さんは大風と慈雨を長の島へテレポーテーションさせた。続いて己の分身を20体出し、子竜達の頭を愛情たっぷり撫でてゆく。テレポーテーションを目の当たりにしただけでも子竜達は興奮していたのに、星母様に直接撫でられたらどうなってしまうのだろうと焦るも、俺はつくづく未熟だった。3歳や4歳の子供にとって母親に優しくされることは、ただただ嬉しい事だったのである。親元を離れ、寮生活をしているとくれば尚更だろう。子竜たちははしゃぎ、母さんに甘え、そして「見守っています頑張りなさい」との母さんの言葉に全身で頷いていた。母さんは慈母の笑みで頷き、元の次元に帰って行く。それは感動せずにはいられない光景だったけど、その後がいけなかった。親を思い出した子竜たちが、一斉にすすり泣きを始めたんだね。幸い俺には輝力があったので20頭の子竜を輝力で持ち上げ、輝力製の板の上に仲良しの4頭ずつを乗せていったところ、子竜たちは仲良し同士で抱き合いワンワン泣きだした。ここは好きなだけ泣かせるのが最善と判断し、板ごと持ち上げて移動を開始する。ふと思い立ち、板の二隅に俺の分身を配置して反重力を発生させてみたら、反重力の発生率は五割に留まった。グライダーと同化させたら十割だったのに、こちらはその半分だったのである。それに興味を覚えた俺は、仕組みと改善案を美雪と考察しつつ幼稚園へ続く坂道を上っていく。夢中で考察するあまり気づかなかったが、子竜たちはいつの間にか泣き止んでキャッキャし、保育士夫婦と用務員夫婦は土下座せんばかりの面持ちになっていた。推測するに、20頭の子竜たちを輝力で楽々運ぶ様子が保育士の目に革命として映った、といったところだろう。よって試しに「皆さんも輝力を訓練してみますか?」と問うたところ、


「「「「よろしくお願いします先生!!」」」」


 という事になった。「必要は発明の母」ならぬ「必要は上達の推進剤」に皆が浴することを、俺は切に願ったのだった。

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