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 このように大風と慈雨は泳いでも来られず、飛行車による輸送も無理だった。俺が輝力気球を創り呼び寄せるのは技術的には可能でも、母さんならいざ知らずその光景の誤魔化しは、俺の光学迷彩では無理。俺の技術では、光学迷彩の専門家の目はまだ欺けないんだね。ただ、気球ではなく輝力潜水艦を創り、その上に乗って泳いでいる振りをするなら「たぶん翔でも可能」との言葉をもらえた。大義名分を得た俺は輝力潜水艦を創ることに、闘志を燃やしている。

 話を戻そう。

 山風が教えてくれたところによると、現長と次期長のどちらかが長の島にいなければならないという掟の主目的は、情報管理らしい。テレパシーの得意な緑竜は鉄の掟を設けなければ、情報があっという間に拡散してしまう。気球とグライダーを例に挙げると、この島以外でその二つを知っている緑竜は、大風と慈雨の二頭だけしかいない。この島の情報を外部へテレパシーで伝えられるのは山風のみ、受け取れるのは大風のみ、大風がそれを相談できるのは伴侶の慈雨のみ、というのが掟だからだ。もう少し詳しく言うと、グライダーによる空中散歩が成功したことを山風が大風に伝え、大風と慈雨が話し合い、その情報を一族に公表して良いと結論して初めて一族の者達は、気球とグライダーの件を知ることが出来るのである。「テレパシーの得意な我々が無用な混乱を避けるには、このような情報管理体制を敷かねばならないことを、数十万年に及ぶ実体験で学んだのです」 山風は俺に、そう話していたな。

 かくして昨日の時点で、気球による輸送が成功したことと、グライダーによる空中散歩を俺が計画していることを、大風と慈雨は知っていた。輝力の授業が始まったことも知っていた大風と慈雨は、非常に喜んだ。しかし同時に、羨ましくて気が変になりそうでもあったという。とは言うものの、打てる手など無い。仮に今が体力の全盛期だったとしても、「そちらの島に到着するのは三日後ですから空中散歩を三日延期してください」なんて口が裂けても言えないのだから、諦めるしかないのだ。大風と慈雨は落ち込む自分に、そう言い聞かせていたそうだ。

 それを、母さんは憐れんだ。しかも大風と慈雨を落ち込ませる原因を作ったのは、自分のバカ息子なのである。母さんは二頭の夢枕に立ち、明日の夕刻(つまり今日の夕刻)は公務を早めに終え、私室に籠るよう伝えた。「私があなた達をこっそりテレポーテーションさせます。考え足らずのバカ息子を、どうか許してあげてください」 そう言って頭を下げた母さんに、大風と慈雨は俺がいかに優れた息子であるかをまくし立てたという。いやあの、自己嫌悪が限界突破しそうなので勘弁してください。

 そんなバカ息子は放っておいて話を進めると、母さんは大風と慈雨をテレポーテーションでこの島に連れて来てくれた。更に加えて島西端の崖を中心に、半径5キロの光学迷彩の半球を創造してくれたのである。昨日の気球はAⅠ観測システムを操作するだけで済んだが、十五機のグライダーを飛ばすとなると人目も考慮せねばならず、光学迷彩が必須だったそうなのだ。バカ息子で、重ね重ねゴメンナサイ―――ッッ!!

 と心の中で土下座したバカ息子は再度放っておいて話を進めると、母さんの助力に報いるためにも、俺は渾身の意識分割をした。昨日の8分割を二倍する、16分割を成したのだ。訓練が実り8分割までは、前世に譬えるなら自転車に乗る程度の精神力消費量で済むようになったが、16分割は桁が違う。直径1センチのロープの上をバランスを取りながら進むくらいの精神力を、消費するんだね。そこに輝力グライダーの維持と操作も加わるとなると、総消費量は膨大になる。もっとも精神力の追加流入技術を習得しているし神話級の健康スキルも助けてくれるから、5分も休めば復活できるけどさ。

 という訳で16分割した心の15を使い、翼幅よくふく40メートルの輝力製グライダーを15機創った。続いて意識投射し、15機のそれぞれと15の俺を一体化させていく。緑竜二頭の命を預かるのだから、これくらい真剣に臨んで当然なのだ。15機のすべてから、準備完了の報告が届いた。俺は、15機のまとめ役として体に残していた1つの心を使い大風と慈雨に近づき、話しかけた。


「大風さん、慈雨さん。さっき説明したように並んでください」


 慈雨を前、大風を後ろにして二頭は縦に並んだ。グライダーの1機が機体を透過性にし、崖の岩の中に潜る。そして慈雨と大風の下に移動し、ゆっくり浮上する。後部座席の床と大風の足の裏が接触するや、その部分だけ透過性を解除。機体の上昇に合わせて、大風も上昇していく。「「「「オオッッ!!」」」」の声が後方から聞こえると同時に、前部座席の床と慈雨の足の裏が接触した。同じ作業をして、慈雨も機体とともに上昇していった。グライダーが岩からすべて出たところで、停止。俺は自前の飛行器で浮き上がり、大風と慈雨をベルトで機体に固定する。「キツクないですか?」「平気です」「私も平気です」 とのやり取りをし、俺は機体から離れる。続いて「良い旅を!」と声を掛け、それを合図に機体が崖の先端へ滑り始めた。一段低い前部座席の慈雨と、一段高い後部座席の大風が、元頭と伴侶達に「「お先に!」」と声を揃える。みんな仲が良いのだろう、「抜け駆けしおって!」「小便チビルなよ!」「「「「行ってらっしゃ~~い」」」」系の言葉が降り注いだ。それを翼で受け止めたが如く、機体がフワリと上昇する。空母から戦闘機が離陸すると戦闘機は一瞬降下し、次いで上昇するのが地球ではお馴染みで、グライダーも本当はそうなるのだけど、見守る竜達の安心を最優先し崖の前で上昇させることにした。大気の妖精が、風を吹かせてくれたんだね。崖の先端の手前で上昇を開始したグライダーが、先端に近づいていく。そしてそこを超え、


 フワワ~~~~


 夕暮れ色に染まった空へ、舞い上がって行ったのだった。

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