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「キュルル」「おや、どうしたんだい鈴桃」「キュルキュルル」「ほほう、鈴桃も瓜二つの自分を創れるようになりたいんだね」「キュル?」「う~む、『私にもできますか?』か。よし、始めに残酷なことを言おう。瓜二つの自分を創れる種族もいれば、創れない種族もいる。緑竜はどちらなのかを俺は知らないから、調べてみるよ」「キュル~~」
輝力で創った瓜二つの俺に猫可愛がりされた鈴桃はそれ以降、こんなふうにキュルキュル話しかけてくるようになった。テレパシーを併用しているのでキュルは不要なのだけど、キュルキュル鳴く鈴桃はとても可愛く、話しかけられる度に俺は目尻を下げてしまう。それを見越し、キュルキュルとやたら可愛く話しかけてくるのが、3歳とはいえ女の子なんだよね。緑竜の3歳は人の4歳半ほどでも鈴桃は抜きんでて賢く、人の5歳は軽く超えているはず。おませな幼稚園児と会話している気になるから、鈴桃は人の6歳児くらいじゃないかな。
などと二分割した心の一方で考えつつアカシックレコードを見たところ、ぶったまげた。なんと緑竜は、人類絶滅後に新たな人類となるべく創造主が用意した種族だったのである。創造主の分身である本体を有する種族がいれば、先行人類と遺伝的繋がりがなくとも、その種族が次の人類となる。この「本体を有していれば」の箇所を組織で習った俺はそれを理解しているつもりだったけど、つもりでしかなかった。闇族との戦争で人類が滅亡した場合、創造主が介入することによって緑竜は本体を有する生物になるのである。鈴桃、貴重な気づきをもたらしてくれて、ありがとな。
余談だが、「地球人は宇宙人によって造られた」と主張する自称宇宙人や真正宇宙人がいたら、その者達は遺伝子族と考えて間違いない。本体を創るのは絶対不可能でも肉体は遺伝子操作で容易に造れるし、またあの者達の説明とは異なれど現行地球人の祖先を、正確には本体をまだ持っていなかった頃の先祖を、宇宙人が遺伝子操作したのは一部正しいからだ(因みに遺伝子操作後も本体は入らず、入ったのは別の要因だった)。石竜人が「地球は我々のもの」と主張するのも、遺伝子を根拠にしている。石竜人と最初期の地球人は、対を成して誕生した。最初期の地球人は絶滅したが石竜人は生存し、かつ現行地球人と最初期の地球人に遺伝的つながりは無いもしくはほぼほぼ無いため、地球は我々のものと主張しているのである。
話を部分的に戻そう。
闇族との戦争に負けても、優秀な子供達を宇宙へ逃がすことで人類は種の絶滅を回避する計画を立てている。その計画が成功しても、この星を再び取り戻すことは叶わないのかもしれない。この星の先行人類が、この太陽系のどこにもいないようにね。
俺のバカげた空想なのかもしれないが、俺がそうだったように先行人類にも、緑竜に飛行能力を再獲得させる機会があったのではなかろうか? ひょっとすると再獲得させていれば、先行人類はこの星に今でもいたように感じる。言うまでもなくそれは、俺のバカげた空想なのかもしれないけどさ。
部分的ではなく、話を戻そう。
俺たち人類が絶滅したら緑竜は次の人類になり、そして緑竜が築く文明は機械文明ではない。並行世界の俺の一人が暮らしている、輝力文明とでも呼ぶべき文明を緑竜は築くのだ。科学文明は初期段階でどうしても星を汚染するけど、輝力文明にそれは無いから俺としては賛成の気持ちしかない。よって協力を惜しまず、そして嬉しいことに、俺にはかなり大きな助力が可能。緑竜の頂点の鈴桃に、輝力を教えてあげられるからさ。
ただ巨大な懸念もあり、それは「宇宙計画に沿うのかな?」ということだ。飛行能力再獲得は沿うことが判明していても、輝力工芸スキルの伝授は判らないんだね。幸い俺には判断能力があるから鈴桃に待ってもらい、明日答えることにしよう。さあでは、鈴桃にそれを伝えますか。という決定を心の中でしたところ、
我の愛する竜族に、
輝力を教えてあげてほしい
創造主が直接語り掛けてきた。鈴桃を待たせなかったことと、許可をもらえたことの二つの感謝を創造主に捧げる。そして、
「鈴桃、創造主が許可してくれたよ。さっそく授業を始めよう」
そう呼びかけた考えなしの俺は懐に飛び込んできた鈴桃を受け止めるべく、瓜二つの自分を再び創ることになったのだった。
鈴桃の二度目の抱き着きは、うやむやになることで回避できた。うやむや化は、こんな具合に成された。
創造主の「我の愛する竜族に、輝力を教えてあげてほしい」との言葉を山風に伝えたところ、どんちゃん騒ぎお祭りが急遽始まった。それは子供達が寝ても終わらず俺が帰っても終わらず、翌日聞いたところによると朝方まで続いていたという。山風と園長を含むほぼ全ての成竜達は二日酔いになり、唯一の生存者(笑)の新米保育士が、今日は平地での自主練のみにするよう子竜達に命じた。すると子竜達の脳裏に、ある光景が映ったらしい。鈴桃を始めとする子竜達がキュルキュル可愛く教えてくれたところによると、自分達が熱心に自主練する様子に成竜達は二日酔いを恥じ、鈴桃の叱責を誰もできなくなるという光景だったそうだ。それは現実になり、俺が訪問した夕方の時点で鈴桃は叱られていないという。胸を撫でおろした俺は、初授業の初内容を子供達に告げた。
「輝力の勉強の第一歩として、輝力で創った俺に触ってみよう」




