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3

 大風と慈雨はそれから暫く、支え合うように互いを抱きしめ子供のように泣いていた。平均寿命を超える310余歳ということは、親を亡くして久しいはず。寿命を持つ者にとってそれは当然のことでも、数十年ぶりに感じた親の無償の愛に、大風と慈雨は泣きじゃくるしかなかったのだろう。母さんありがとうと、俺は空を見上げて呟いた。

 散山脈諸島初となる星母の来訪を泣いて喜ぶ大風と慈雨を、そっとしておきたかったのだろう。大風と慈雨の死角から、十数頭の緑竜が辞を低くして近づいて来た。次期長じきおさの風格漂う先頭の雄が、星母と俺への感謝を全身で表現している。俺への過大評価はいただけないが、母さんを正しく評価しているのは好感が持てる。次期長たちを大風と慈雨の死角内に留めるべく、俺は次期長たちへ宙を飛んで近づいて行った。

 すると、次期長らに大注目されてしまった。みんな目を見開き尻尾を左右に揺らして、小さな翼をせわしなく動かしている。背中から生える小さな翼は学術的にまだ解明されていない、緑竜最大の謎の一つとされていた。生物学の素人の俺がド素人的に予想するなら「かつて緑竜はもっと小さく自らの翼で空を飛んでいたが、体重増加に伴い飛べなくなり、翼が退化した」となる。大抵の人はそう予想し、もちろんそこに学者達も含まれていた。が、肝心の化石が発掘されていないのだ。体がもっと小さく空を飛んでいたころの緑竜の化石を、人類はまだ発見していないのである。地中掘削AⅠドローンが見つけるのは、今と大差ない緑竜の化石ばかり。現時点で最古とされている化石の翼も、今の五割増しに相当する3平方メートルの面積しかないという。そしてそれは、


「そもそも緑竜はどの動物から進化したのか?」


 も未解明にしている。前世の中二病を未だ引きずる俺としては、「未発見の先行人類が緑竜を遺伝子操作で造った」という説を断固推したい。もっともこちらも遺跡等が発見されていないので、トンデモ説にされているみたいだけどさ。

 話を戻そう。

 次期長を先頭に近づいて来た緑竜達の前に降り立った俺は、初対面の自己紹介をした。緑竜たちも自己紹介してくれて、それによると先頭の雄が次期長という見立ては間違っておらず、名は山風とのことだった。ただこの山風と、現長の大風は、代々襲名していく名らしい。竜族の長に就任したら大風を、次期長に就任したら山風を、襲名するんだね。そのどちらにも「風」という字が使われていることと、俺が反重力器官を活性化させて宙を飛ぶ様子を興奮して見ていたことから、ある推測が脳裏をよぎった。という頭の中の出来事を、どうも次期長に読み取られたらしい。テレパシーに優れる竜族全般の特性なのか、それとも次期長独自の能力なのかは定かでないが、


「白銀王への感謝の一環として、我が一族の神話をお話ししましょう」


 次期長は己が翼を愛おしげに見つめつつ、竜族の神話を講義してくれた。

 それによると、根源神によって創造されたこの星の大陸は当初、平坦な土地がどこまでも広がっていたという。それは長閑で平和な陸地だったが内陸部の砂漠化は避けられず、かつ多種多様な生物を自然発生させるのにも適していないと判断した根源神は、超山脈を創造した。それにより超山脈を水源とする大河が複数形成され、不毛な内陸部に緑が次々芽吹いていった。根源神はその変化に満足したが、困ったことも少々あった。練習なしのぶっつけ本番で超山脈を造ったため、陸地から少しはみ出てしまったのだ。しかし神はまことおおらかな性格をしていて、少々困る自分を面白いと感じ、それを基に「少々面白い地形も造ってみよう」と閃いた。根源神は超山脈のはみ出た部分をもぎ取り、雨の多い海域に持って行き、細かく千切って海に散りばめた。かくして、散山脈諸島が誕生したのである。

 竜族の神話によるとその頃は、生物の進化を促進する根源神の力が今の数千倍もこの星に降り注いでいたという。これは俺が組織で習ったことと合致し、合致するのは大陸が平らだったことも同じなので非常に興味深かったのだがそれは置き、1千年もすると竜族の原型となった種族が散山脈諸島に誕生することとなった。原竜族と呼ばれるその種族は自らを軽くする技に優れ、今より少し大きかった翼で大風や山風を受け止めて、島から島へ自由に飛び回っていたらしい。大風と山風は、その時代への憧れとして襲名されることになったそうだ。

 原竜族はこの星で最も体格に優れた動物の一つだったがとても温厚だったこともあり、大陸に進出しようとしなかった。大陸の動物とのいざこざを避けたというのもあるがそれ以上に、原竜族は散山脈諸島を愛していたのである。海流の影響で諸島の北端と南端では気候が若干異なり、それにより繁殖している果物と木の実にも差が生じていて、それも飛ぶことを原竜族が愛した理由の一つだったらしい。食べることは、かくも偉大なのだ。

 竜族はその時代を、楽園期と呼んでいるという。そして楽園時代は、いつか必ず終わるもの。竜族の楽園期もそれに漏れず、突如竜族は飛べなくなってしまった。自らの体を軽くすることが、できなくなったのである。それについて山風は、こう述べていた。


「それが起こったのは、この星の裏側に住むネガティブ種族がこちら側へ初めて攻め入ってきた時代の、遥か前です。遥か前なのは間違いありませんが伝承によると、この星の裏側にネガティブが出現した時期と、我々が飛べなくなった時期は一致しているとのことでした。我々は、ネガティブの出現に関するいかなる知識も持っていません。白銀王、可能なら教えて頂けませんでしょうか」

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