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「う~ん私も、翔にその表情をさせる何かを早く発見しないと」


 という、胸中がバレバレにも程がある発言をしたのだ。しかも恥ずかしさで混乱するあまり母さんと美雪を交互に見つめて「えっとあの、隠せていなかったのでしょうか?」と、ご丁寧に訊いたものだからさあ大変。


「「まさか翔は、隠せてるって思ってたの?!」」 


 なんて感じに、二人に心底呆れられてしまったのである。この世の終わりの如く俺が落ち込んだのは言うまでもない。幸い冴子ちゃんが助けてくれて、ヘタレの俺としては格段に早く立ち直ることが出来た。いやはやホント、友とは有り難いものだなあ。

 それはさて置き、講義終了時刻まで残り5分あれば質疑応答が可能なのではないかという事となり、母さんに改めて質問の有無を問われた。質問に該当するかは微妙だが、ダメもとで尋ねてみる。


「思い付きと閃きの区別を、僕は前世からしていました。二つの区別は、思考の密度と速度を比較すれば容易にできます。思い付きは顕在意識と同等か大差ない範囲に収まりますが、閃きの密度と速度は桁外れだからです。一瞬でやって来た閃きを文字にしたら、400字詰め原稿用紙800枚ぶんになったことも、ありましたね」


 実は趣味で小説を書いていたんです、文章力向上にとても役立ちました、と何気なく明かしてやっと気づいた。なんて巨大な墓穴を、俺は掘ってしまったのかと。

 そしてそれは、嫌というほど的中した。


「「母さん、前世の翔の小説を読める?!」」

「まったく、声をピッタリ揃えて大声で訊くんじゃありません。こういうのはこっそり訊いて、三人でこっそり読んで、三人そろってニマニマするのが一番なのですよ」

「「は~いごめんなさい。では読んで、ニマニマしましょう!」」

「そうね、一緒にニマニマしましょうね!」


 こんな具合に、心臓発作を招きかねない会話を三人が始めてしまったのだ。俺はそれこそ死にもの狂いで懇願し、俺のあずかり知らぬ場所で小説を読みその際の表情を俺に見せないという譲歩を、どうにかこうにか引き出すことに成功した。それは嬉しかったけど、質疑応答の時間を使い切ってしまったことは、後悔してもしきれなかった。


 でもまあ、そこは母さん。続きは夕食の席でしましょう、と母さんは提案してくれた。しかも、俺が愛してやまない和菓子セットを食後のデザートとして食べさせてくれたのだから、母さんはまこと母神様なのである。酒饅頭と黒ゴマ串団子とクリーム餡子(あんこ)どら焼き等々に舌鼓を打ちつつ、俺達四人は夕食のテーブルを、質疑応答の場に替えた。


「さっき話したように、僕は思い付きと閃きの区別を前世でできるようになりました。地球ではそれ以上の感覚を得られませんでしたが、輝力を鍛えるにつれ初めての感覚が二つ訪れるようになりました。一つは、思い付きと閃きは、どちらも二種類ある気がしたこと。もう一つは、閃きは多少の迂回をして脳に届けられる気がしたことです。母さん、一つ目から質問させてください。二種類の思い付きがあるのは、顕在意識由来と明潜在意識由来の二種類があるから。閃きの二種類は、本体由来と創造主由来の二種類があるから。こう推測したのですが、どうでしょうか」

「そのとおりです、訂正箇所はありません。よく気づきましたね」


 パチパチパチ~っと拍手が鳴り響くも、心に引っかかりを覚えた。こういう場合、拍手と歓声を上げるのが美雪と冴子ちゃんの常なのに、聞こえてきたのは拍手のみだったのだ。今はデザートの時間なので推測は容易だったが顔を左右に向けたところ、案の上の光景が目に映った。和菓子を頬張り過ぎたせいで歓声を上げようにも上げられなかった美雪と冴子ちゃんが、両隣にいたのである。けどその代わり、飛び切りの笑顔で拍手してくれていたので文句などあろうはずがない。二人に負けない飛び切りの笑顔を左右に向けてから、俺は二つ目の質問に移った。 


「では二つ目の、閃きの迂回についてお聞きします。松果体から吹きいずる輝力は、吹きいずるという表現のとおり風のイメージがあります。対して閃きには電気放電のイメージがあり、しかしイメージが異なるだけで松果体から眉間へ放たれることに変わりはないと以前は思っていたのですが、今は違います。電気放電は、眉間にまっすぐ放たれていない気がするんです。放電は後頭部側へ一旦降り、そこで電圧を若干下げて松果体の上部に戻り、脳の中央やや右寄りを通って眉間に届けられる。そんな気がしきりとするのですが、どうでしょうか」


 そう訊くや母さんはテーブルに身を乗り出し、俺の頭を両手で撫でまくった。仮に俺が年頃男子だったら髪をグチャグチャにされたと怒るレベルの、頭皮マッサージを受けているかの如き撫で撫でに見舞われたのである。いや怒ると言っても正確には、怒る演技をしているだけなんだろうけどさ。

 なんてどうでもいい事は脇に置き、母さんは頭皮マッサージ撫で撫でを継続しつつ、凄い凄いと俺を褒めちぎった。俺への褒め言葉よりお菓子を優先していた美雪と冴子ちゃんも、今回ばかりは自制して母さんと一緒に凄い凄いを連発していた。それでも、心ここにあらず的な空気を隠し切れていない二人にお菓子を楽しんでもらうべく、母さんに「可能なら詳細を教えてください」と頼んでみる。母さんは「食いしん坊の娘達でゴメンね」と、俺の左右へ視線を向けて演技たっぷりの溜息をついてから、願いを叶えてくれた。


「わかりやすいよう、脳の図を見ながら説明しましょう。翔の言った、電気放電が後頭部側に一旦降りて向かうのは、小脳なの。そうそう翔は、小脳の機能を知ってるかな?」

「小脳は、意識して行っていたことを、意識せずとも行えるようにする脳ですよね。例えば自転車に乗る練習を始めた当初は、自転車のバランスを必死になって保っていても、乗れるようになって暫く経つと、意識せずともバランスを保てるようになります。これは楽器の演奏や外国語の発音も同じで、最初は必死に意識していたことが、いつの間にか無意識にこなせるようになってゆく。このように意識必須の困難な事柄を意識不要の容易な事柄にし、それによって自由自在に操る楽しさをもたらしてくれるのが、小脳だったと記憶しています」

「正解ね。少し脱線するけど、小脳のこの能力を人類は過小評価していたの。過小評価に気づいたのは、二足歩行ロボットの開発中だったわ。二本足でバランスを取りながら歩くという、人の無意識の動作をロボットで再現するためには、極めて高度かつ大量の計算をしなければならないことを開発者達は初めて知ったの。コンピューターの性能が低かったころは、その計算を瞬時にこなすコンピューターは大きすぎて、ロボットに載せられないほどだったのよ」


 二足歩行巨大ロボットアニメの全盛期を小中学校で過ごした俺は大興奮し、ロボット関連の様々な質問を母さんにして講義の脱線に拍車をかけてしまった。しかし女性達はその時間を利用してお菓子を満喫できたのだから、結果オーライと考えて良いのだろう。かくして後顧の憂いがなくなり講義再開の目途が立ったにもかかわらず、母さんは一見無関係な話を再び始めた。


「翔は先日、『面白くて美味しいお店』を紹介してくれたわよね。あの番組が、私は大好きなの。創造主の意図に沿う非常に深い真理を、何でもない事のように店主や従業員さん達がニコニコ話すのが、母さんは嬉しくてたまらないのよ」

「はい、僕も大好きです。それと母さんにそう言ってもらえて、僕も嬉しくてたまりません」

「ふふふ、ありがとう。さてでは、少し考えてもらいましょう。『創造主の意図に沿う非常に深い真理を、何でもない事のように店主や従業員さん達がニコニコ話す』に類似する働きをしているのは、脳のどこかな?」


 ピカゴロドッカ――ンと、雷が直撃したかのような衝撃が脳に走った。そうか、そういう事だったのか、と超絶大興奮した俺は理解したことをまくし立てた。

「地球卒業を決めた人の特徴を挙げます」的なタイトルを、ネットやユーチューブで無数に見かけます。しかし、内容に同意したことが私は一度もありません。今回載せた大聖者の問いを、一人でも多くの人が理解しますように。


「さてでは、少し考えてもらいましょう。『創造主の意図に沿う非常に深い真理を、何でもない事のように店主や従業員さん達がニコニコ話す』に類似する働きをしているのは、脳のどこかな?」

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