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四十三章 竜族、1

 昇と奏の結婚生活は、勇と舞ちゃんの結婚生活とピッタリ同じになった。夫達は同じ基地に勤務し、妻達も住み込み保育士という同じ職業に就いているのだから、それで当然だね。具体的には「妻達が保育士をしているあいだ夫達は基地で寝泊まりし、長期休暇になったら軍が所有している夫婦用の宿舎へ夫婦揃って移り、そこで暮らす」といった感じだ。それはどういうことかと言うと、


「美雪お待たせ。期間限定だけど二人きりの暮らしに戻れたよ!」「うん、戻れたね!」


 ということ。数年ぶりの二人きりの生活が夏に始まったこともあり、俺と美雪は可能な限りサマーバカンス気分で過ごした。そうはいっても名家巡りと土地神巡りがあるから、午後5時以降しかバカンスできないんだけどさ。

 しかし、この星の技術とカレンの性能を侮るなかれ。キャンプ用の反重力板とバストイレ室をカレンに牽引してもらい避暑地へ飛べば、夕焼け色に染まる大自然の中でロマンチックな時間を美雪と二人きりで楽しめたのである。美雪はご機嫌で笑顔を常に振りまき、美雪がご機嫌なら俺はそれだけで幸せになり、俺が幸せなら美雪は益々ご機嫌になるといった感じの夕刻から晩を、俺達は基本的に過ごしていた。

 俺達が今年の夏ハマったのは、散山脈諸島と呼ばれる赤道直下の島々だった。高波が来たら島全体を洗い流されてしまうようなサンゴ礁系の島ではなく、標高の高い山を中央に有する屋久島のような島が密集している、異世界感の溢れる諸島だったのである。ちなみに散山脈とは、山脈を千切って散りばめたような島の形状を指している。諸島の平均標高が屋久島最高峰の宮之浦岳の倍以上高い5千メートルだったのも、溢れる異世界感に一役買っていたと言えよう。恐竜やキングコン〇がいたら文句なしだったけど、この星の動植物は地球と驚くほど似ているのでそれは望めなかった。残念の極みである。

 が、例外はどこにでもあるもの。その中で最も心躍るのは、緑竜と呼ばれる大トカゲで間違いないだろう。地球のコモドドラゴンが全長3メートルの体重100キロ、ワニが全長6メートルの体重1トンなのに対し、緑竜は全長こそワニと大差ない7メートルだが、体重は比較にならない6トンもある。これは地球における、雄のアフリカ象と並ぶ体重だ。というのも緑竜は日本の竜のような蛇の形状ではなく、西洋のドラゴンに酷似した体格をしていたのである。よって元地球人(特にゲーム好きの男)はウインドドラゴンもしくは風属性竜と大興奮するのが常で、勇と舞ちゃんは新婚旅行先から散山脈諸島が近かったこともあり、二人で緑竜を見に行った時のことを以前から興奮して話していた。それを度々聞いていた昇と奏も興味を覚えたらしく新婚旅行の日程に取り入れ、掛け替えのない想い出の一つになったと瞳を輝かせていた。こうなると元ゲーム好きの地球人男としては一度見ないと気が済まなくなり、美雪に事情を説明し「俺達も行ってみない?」と誘ったところ、


「行く行く! バンザ――イ!!」


 みたくやたら喜んでもらえた。そのあまりの喜びように、ひょっとして俺は美雪を新婚旅行に誘ってしまったのではないかと、背筋をほんのり寒くしたものだ。まあ美雪だから、ほんのりだったんだけどさ。

 当然だが緑竜は、凄まじい熱意でもって保護されている。AIが浸透した民度の極めて高い社会なので密猟等は無くとも、緑竜が本来の生活を快適に送れるよう様々な措置が設けられているのだ。これが普通の動物だったらその措置の中に「唯一の生息地である散山脈諸島への旅行を禁ズ」を必ず設けたはずだが、散山脈諸島への旅行は、人数制限こそあれ禁止まではされていなかった。理由は緑竜が、非常に知的で温厚だったからだ。緑竜及び自然に害をなさない人間が緑竜のプライバシーを侵害しない限り、威嚇すら決してしなかったのである。これについては無数の研究がされていたけどカンニング的に俺が妖精に尋ねたところ、


「緑竜族は土地神様の筆頭代行者なの」


 と返って来た。土地神は物質肉体を持たないため、自然界の物質面に働きかける代行者を、最も知性の高い動物の中から選ぶのが慣例になっている。その筆頭代行者を、緑竜は種族全体として担っているというのが真相だったんだね。この星の人々は自然を大切にし、破壊を極力抑え汚染は一切しないから、筆頭代行者たる緑竜は人間を「良き隣人」と認識しているという。願わくばこの関係が、未来永劫続きますように。

 エメラルドグリーンの鱗に覆われた緑竜は、神秘的かつとても美しい。頭部を含む体高は6メートル、尻尾を含まない全長は7メートル、尻尾を含むと14メートルになる。この尻尾のお陰で泳ぎがとても巧く、50kmほどなら海を難なく泳ぐらしい。主食は、果物と木の実と一部海藻。南国ゆえ果物が多く、山に登れば木の実も多く、島なので海藻にも事欠かない。肉を食べないため緑竜を恐れる動物はなく、また果物や木の実の種子を含む糞は栄養豊富で、緑竜が糞をすれば果物か木の実を実らせる若木が必ず芽吹くと言われている。エメラルドグリーンに煌めく鱗は観光客に人気がありお土産として売られ、散山脈諸島全体の保護の資金になっている。また平均寿命300歳の緑竜は長寿の象徴ともされており、鱗は両親や祖父母の長寿を願うお守りとしても好まれていた。昇と奏も両親と祖父母、そして小夜子さんに、お守りとして鱗を一枚ずつ購入していたな。

 その緑竜を、初めて直接見たときの感動は忘れられない。抽選に当たり散山脈諸島へすっ飛び、到着した午後5時すぎ。高度1千メートルでホバリングするカレンから反重力板へ飛び移り、管理AIの許可を得て緑竜の生息地へ降下して行った。汚染物質も騒音も出さない反重力版の所有者は抽選に当たりやすいと言われているとおり俺は外れたことが一度もないのだけどそれは置き、降下中の俺と美雪の傍らに散山脈諸島全体を管理する土地神ならぬ諸島神が現れた。どこぞの振袖娘と異なり男とも女ともとれぬ中性的な容姿の諸島神に白銀云々と呼ばれたのは再度置き、


「竜族のおさが対面を希望しています。いかがなさいますか?」

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