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 物質を特定したから次は物質化した経緯だ! と意気込みアカシックレコードを見に行った俺は数分後、手を合わせて創造主に感謝していた。本来なら輝力壁は九次元体になるはずだったのに、創造主が気を利かせてこの星の建材にしてくれたというのが、真相だったのである。

 五次元存在のティペレトは、三次元に出現することができない。さっきもかろうじて「ティペレトの光」が、ドームを形成する輝力壁の中から結婚式場を照らしただけだったのだ。光も極度に弱められていて、結婚式の出席者があの光と容易く調和できた仕組はそれ。母さんが以前チラリと言ったところによると、大半の地球人はティペレトの光どころか本体の光を浴びただけで、エネルギーに差があり過ぎ肉体が耐えられず死んでしまうという(人体発火現象の理由の一つはそれとのことだった。割合は少ないみたいだけどね)。ドーム最上部に現れたティペレトの光は極度に弱められていたことと、この星には輝力が浸透していることと、1万4千人が共鳴し波長を高め合っていたことが功を奏し、死亡者や体調不良者がたまたま出なかっただけなのである。

 繰り返すがティペレトの光は、輝力壁の中に出現したにすぎない。輝力は三次元物質ではないから、かろうじて光を降ろすことが出来たのだ。しかしたとえ弱められていたとしても、本来ならあの光は輝力壁を数段バージョンアップさせ、九次元体に変えてしまったという。地球のアトランティス本国には九次元体で造られた建造物があったから本国ならそれでも良かったかもしれないが、この星に九次元体はなく、かつ忘れられて久しい。加えて九次元体は漆黒であり、結婚式の建物に不適切と言える。あらゆる光を吸収する九次元体は漆黒というより暗黒空間を想起させるから、さもありなんだね。かくなる理由により創造主が気を利かせて、この星の建材で物質化してくれたということ。ただ制約を設け、建材に選んだのは俺が理解している物質のみにした。幸い俺は反重力エンジン絡みでアレを理解していたが、理解していなかったらどれが選ばれたのだろう。まさかエンジン本体に使われる、超硬オリハルコン合金が選ばれたのだろうか? 超硬オリハルコン合金で帽子堂を造ったら材料費だけでも、日本の貨幣基準で十兆円を軽く超えると思う。いやはやホント、アレを原子レベルで理解していて良かった良かった。

 とまあこんな感じに謎を解明し、そして創造主に感謝を伝えた俺は、満足して肉体に戻ってきた。心の10%を肉体に残していたお陰で不都合なく振る舞っていたみたいだし、こちらも良かった良かった。などとお気楽に考えていた浅はかな自分を、肉体に戻った数秒後に俺は叱った。どういうことかと言うと、


「翔さん、夕子に概要だけ聴きました。意識投射で判明したことを、すべて教えてください」


 席順を変え隣席に座っていた翼さんが、そう言って俺に詰め寄って来たのである。今日の翼さんは一段と芳しいから巧みに避けてきたのに、これでは台無しだ。双球ユサユサ等をしなければ絶世の美女がすぐそばにいても平静を保てるようになっていたけど、芳しさは未だ無理。翼さんと夫婦になった異なる世界線ですら生涯無理だったのだから、こちらの世界線でどんなに努力しても俺はこの変態性を治せないのだろう。う~む俺って、つくづく変態だな! 

 というように己の変態性を直視することでフニャフニャになる寸前だった顔を引き締め、意識投射で判明したことを翼さんに話していった。輝力を霧散させさえすれば消えるはずだった帽子堂が物質化してしまったのだから、筆頭当主への説明は必須だったんだね。とはいえ、悪い予感はしなかった。翼さんは帽子堂をとても気に入っていたし、あの建材で造られた帽子堂の耐用年数は5千年を下らないからだ。予感は的中し、翼さんは「なんて素晴らしいのでしょう!」とお目々をキラキラさせ、帽子堂のあちこちへしきりと視線をやっている。天風半島の最高責任者にこの眼差しをさせたのだから、第一関門突破として良いはず。続いて第二関門を突破すべく、俺は語りかけた。


「帽子堂が天風一族の本拠地にあることと、人類軍が帽子堂建設に多大な助力をしていたこと。この二つは、物質化による混乱を防ぐと俺は思う。帽子堂の物質化は外見だけでは判断つかないから、ここにいる1万4千人はそれに気づいていない。よってこのままお帰り頂き、物質化したことは天風一族だけの秘密にする。天風一族は結束力が強いから、外部に漏れることは無いだろう。別ルートから漏れて質問してくる人がいたとしても、軍が大々的に関わっていたことを利用し『軍機により話せません』と突っぱねることが可能。そこら辺は、鷹さんと綾乃さんの腕の見せどころだね」


 天風一族の結束力の強さを称えた箇所で翼さんは益々上機嫌になり、鷹さんと綾乃さんの腕の見せどころの箇所で翼さんは全幅の信頼を寄せている顔になった。うむここまでは、順調として良いだろう。ならば次は、帽子堂の物質化によって変更を余儀なくされたことに関する意見のすり合わせ。まずは、翼さんの意見を傾聴しますか。


「とはいえこれほどの巨大建造物に変更が生じたからには、今後の計画に影響が及ぶのは避けられない。咄嗟に思い付いたのは、帽子堂を子供達の卒業制作にする計画だ。それについての翼さんの意見を、聞かせてくれないかな」

「承知しました。現時点での私の意見は・・・」


 翼さんによると、卒業制作にする計画は今のところ変更しないつもりらしい。理由は大半の若者にとって、現在の実力を客観的に知ることは最高の学びになると翼さんは考えているからだそうだ。若者に待ち受けている最も恐ろしい落とし穴は、己を過大評価することによる慢心。それを防ぐ教材として帽子堂は、物質化していようとしていまいと最高の教材であることに変わりはない。輝力工芸スキルを磨き、反重力エンジンの勉強で更に磨き、そこに息吹スキルを加えようと、帽子堂の創造は遠すぎる。その圧倒的実力差を若い内に知り、己を鍛え上げる長期計画を立てて欲しい。これが、翼さんの考えだったのである。

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