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 母さんを侮るヤツがいると想像するだけで、はらわたが煮えくり返るのを抑えられなかった。その気持ちに忠実な方が母さんを守れるのは嬉しいけど、容姿も能力も凡庸にした母さんをすぐそばで見続けることに、俺は耐えられるだろうか? 耐えられる、と勘は囁いている。でも囁きはもう一つあり、そしてそれこそが「容姿に影響される自分に気づき落ち込むことになる」だったんだね。

 その日はもう少しだけ話し合い、変身した母さんは「俺のちょっとした知り合い」という設定にした。決まった事をまとめると、こんな感じだろうか。


1、容姿は凡庸な20歳。能力も凡庸と印象付けることが大切。

2、基本的に俺のそばから離れない。トイレ等には、女組の誰かが必ず付きそう。

3、俺のちょっとした知り合い、という設定にする。


 言うまでもなくこの三つになった理由を母さんに説明し、本人の意向を尋ねることにした。尋ねるのは早いに越したこと無いが俺にも色々あるだろうから焦るなよ、と脅迫まがいの念押しを皆にされてしまった。つくづく、優しい奴らである。

 それもありやはり可及的速やかに処理すべきと考え、会合が終わり肉体に戻るや再度意識投射して、母さんと話し合いを持った。母さんは皆の理解と配慮に感謝しつつも、年齢を変えたいと主張した。まずは真摯に耳を傾けるとの原則に従ったところ、眉間に縦皺を刻むことになった。母さんの「変えたい」というのは「悩んでいるから一緒に考えて」という意味であり、そして何を悩んでいるかと言うと「妹として俺に甘えたいけど体が小さすぎると食事を少ししか食べられないからどの年齢が良いのかな?」という、しょうもない事だったのである。ただ眉間に深い皺を刻みつつも、同種の出来事がかつてあったことを俺は思い出した。よってそれを口にしてみる。


「鈴姉さんと小鳥姉さんが一時期しきりと、俺の子供になりたいと言っていました。俺が奏を可愛がる様子に、自分もあんなふうに可愛がられたいと思ったそうです。自覚ありませんが、俺ってそうなのですか?」「私からも質問。翔は可愛がることと甘やかすことを、区別している?」「もちろん区別しています。怒りを抱いた腹いせに子供を叱ることと、子供に間違いを教えるために叱ることを区別するのと、同じですね」「同じですねと翔はサラっというけど、翔の前世の祖国でその二つを習得している人は、10人に1人もいないわよ」「前世のことながら、母さんにお詫びします」「前世の翔は、苦労しどおしだったものね」


 母さんによると、俺はこの二つを習得した上で奏を可愛がり、そして叱っていたらしい。身近にいるそういう人を、心の成長度の高い子ほど「自分を愛してくれる大切な人」と認識し、大好きになるのだそうだ。奏はその子に含まれ、またその様子を見ていた二人の姉は俺に感謝すると共に、自分もあんなふうに育てられたいと願ったという。三人にそう思われていたのはこの上なく嬉しく、眉間の縦皺は霧散したのだけど、その後がいけなかった。


「翔に可愛がられることを優先するなら1歳や2歳がベストだけど、それだと小さすぎて食事を全然楽しめないわ。かといって20歳だと、可愛がられたいという気持ちをまったく満たせなくなる。ねえ翔、私は何歳になれば良いのかな?」「あ~、メンドクセ~」「翔ったら酷い、真剣に相談にのってよ!」「わかった。じゃあ今の記憶を無くした、3歳ということにしよう」「翔のバカ!!」「はいはい、俺はバカですよ~~」


 面倒なのは事実でもやはり楽しく、奏と鶴を参考に年齢を絞っていった。アカシックレコードで様々な年齢の奏と鶴を見に行き、俺が可愛がる様子を観察したんだね。そんな事にアカシックレコードを使う是非は脇に置き、どうやら13歳が最善ということになった。あくまで俺限定だが13歳は小学生気分で可愛がっていたのに、14歳つまり中二になるとそれが急にできなくなっていたのである。そんな俺に俺自身首を捻ったものだが、母さんには明白だったようだ。訊いちゃダメと本能が叫んでいたから、訊かなかったけどさ。

 年齢が決まったから次は本命の容姿だ、と俺は考えていたのに、何と拒否された。地味にショックを受けていたら、母さんがここぞとばかりに問いかけてきた。


「13歳にしては胸が大きすぎるとか小さすぎるとか、これは13歳の胸や腰のくびれではないとかを、翔は的確に助言できるのかな?」「無理です絶対不可能です! どうか忘れてくださいお願いします!!」


 光の速さで土下座した俺にコロコロ笑い、13歳の容姿は舞ちゃんと翼さんと奏に協力してもらうと母さんは述べた。全身で安堵した俺の前に座り、母さんは俺の頭を撫でる。不可解な表情を作るのが精一杯で尻尾は心のままブンブンさせていたところ、この撫で撫では小夜子さん絡みの感謝とのことだった。今なら答えてくれるかもしれない、と問うてみる。


「来世の小夜子さんは、組織に入れますか?」「五分五分ね」「むむう。入る確率を少しでも上げる講義を、全力で考えます」「ふふふ、翔は前提を間違えているわ」「といいますと?」「この星の卒業を選んだら次の星では入らないし、卒業できるのに戻って来たら組織の一員になるのよ」「なるほど納得です」「まったく、それ一知半解よ」「失礼しました。愚考しますに、戦士が関わるような」「詳しく話して」「小夜子さんは5歳で戦士になる夢を諦め、戦闘訓練をそれ以降まったくしてこなかったそうです。それでも来世の早い段階で俺と関われば戦士になるでしょうが、ネガティブ生命体と命がけで斬り結ぶ来世の小夜子さんを俺はどうしても想像できません。小夜子さんの心は、戦士に向いていないんですね。本人もそれを知っていますから、次の星へ行った方が良いように感じていますが、戦士への憧れも・・・」「臆さず話してごらんなさい」「了解です。未だ推測の域を出ませんがこの星は」

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