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「翔には、変身した星母様に当てがあるのか?」「ううん、ないよ。ん? 当てがあると思われていたとか?」「星母様は容姿を変え、お忍びで人間社会を訪れることが稀にある。ということをかけ兄は知っているから、あのメールを送って来たのかと俺達は考えたんです」「俺の知る限りないし、可能性も限りなく低いと思う。ケーキやお茶を人間社会で楽しんでいる素振りは無かったしね」「仮にお忍びをしていたら、人としてのIDがあるはずなので結婚式に労さず呼べた。お忍びをしてなかったとしてもIDを簡単に作れるなら問題ないが、マザーコンピューターを依り代にしていようと、架空のIDを簡単に作れるものなのだろうか?」「それとも星母様にはIDの有無など、そもそも関係ないのか。かけ兄、知っていますか?」「いえ、何もかも全然知りません。俺は考えなしのバカでしたごめんなさい」


 とんでもない監視社会と地球人は感じるだろうが、この星では人類全員の所在地をAⅠが常時把握している。これは裏を返すと、IDを持たない人が街中を歩いている等々の一切が、この星には無いってこと。そんな一般常識を失念していた己の愚かさに、俺は背中を丸めた。のだけどそれは数秒で終わり、俺は思い出したことを勇と昇に伝えた。

 母さんはかつて一度だけ、実体化を口にしたことがある。俺と翼さんの結婚の可能性が極大になるのを防ぐべく実体化し、深森邸での冬合宿を助けると言ってくれたのだ。屋内ならIDなしでも平気なんてことは無いから、母さんは架空のIDを作って実体化できると考えてよいのではないか? 俺は二人に、そう述べたんだね。

 二人はそれに同意した。というかそもそも母さんがマザーコンピューターを依り代にしているのは、架空のIDの製作等で不自由しないためではないかと勇と昇は考えているという。己のバカっぷりに、背中を再び丸めずにはいられなかった。けど毎度毎度のことながら、俺は甘かった。女組も参加し深夜に開いた準四次元の会議で、俺は三度目の背中丸めをしたのだ。しかも三度目は、一度目と二度目より立ち直るのに時間が掛かった。四十年以上生きて、初めて知ったのである。まだ俺は容姿にこうも影響される人間だったのだな、と。

 準四次元の会議冒頭、女組は俺に頼んだ。「星母様が変身された姿をイメージしているなら、それを見せてくれないかな」 二つ返事で了承し、地球人で言うところの20歳の白人女性を輝力で創造していく。身長は鈴姉さんや小鳥姉さんと同じ、189センチにした。そしてこの身長だけが、変身した母さんの一般的な要素だった。美形ばかりのアトランティス人の中にあってさえスタイルと顔は超絶級、ストロベリーブロンドの髪は超級、といった具合だったのである。女組は溜息こそつかなかったものの「想像以上に重症だったわ」「何から話せば良いのでしょう」「理解してもらう項目が沢山あって悩みますね」などと小声でゴニョゴニョしたのち、舞ちゃん、翼さん、奏の順番を守って俺と会話した。


「20歳の容姿にした理由を、一応教えて」「バレないためには、人数の最も多い容姿が一番って思ったんだよ。この星の人達は、110歳まで老けないからさ」「それは同意しますが、これほどの美女は学年に1人いるかいないかだと思いますよ」「どわっ、そうか! むむ、でもこれ以上・・・」「変身された姿であっても、星母様の容姿を1千万人に1人以下に劣化させるのは忍びないのかな、お兄ちゃん」「うん、そうみたい」「翔君は、10代だった頃の星母様を見たことある? 私達と勇と昇は見てないけど、翔君なら機会があったかなって思ったの」「十代後半の母さんを見せてもらったことが、一度だけあるな」「どのような人でしたか?」「ん~、そう言われてもなあ」「自分で言うのは恥ずかしいけど頑張って言うから、お兄ちゃんも頑張って。同年齢の私と比べて、どちらが綺麗だった?」「同年齢の奏より綺麗だったよ。改めて考えると、この星一の美少女と謳われた奏より綺麗だなんて、とんでもなかったんだな母さんは」「ちなみに、翔君はどう感じた?」「母さんにも同じことを訊かれたよ。縁が無かったら興味ないし、縁があったら妹として可愛がっていたと思う」「無自覚の方が重症、という最悪の分岐に入ってしまいました」「え? 翼さんそれどういうこと?」「お兄ちゃん、そこは武士の情けで掘り下げないであげて。それよりも!」「わかった。それよりも?」「翔君、心して聴いて」「はい、心して聴きます」「バレないことを最優先するなら容姿のみならず」「うんうん、容姿のみならず」「能力も凡庸と人々に印象付ける必要があるというのが、勇お兄ちゃんと昇も含めた私達の結論なの」「・・・・ごめん、少し時間をください」「「「ごゆっくり」」」


 どうやら俺は、容姿だろうと能力だろうと母さんを劣化させるのが堪らなく嫌みたいだ。しかし俺は、その気持ちをねじ伏せねばならない。皆の結論は正しいって、俺も納得しているんだね。また気持ちをねじ伏せるには、劣化が嫌な理由を解明するのが手っ取り早い気がするけど、「それは後回しにしな」と本体がしきりと主張している。ここは本体の顔を立て、従うとしますか。

 そう結論し、俺は聴く姿勢を整えた。女組は再度順番を守り、俺と会話した。

 それによると容姿と能力以外にも、「誰の関係者にするか?」という難問があるらしい。バレないことを最優先するなら誰の関係者でもないボッチとして式に参加させ食事させるのがベストだが、それだけはしてはならない。5万年振りに招待してもらえた結婚式でボッチを強要するなど、あまりにも可哀そうだからだ。よって誰の関係者が最善なのか候補を一人一人挙げてシミュレーションしたところ、一周回って俺になったという。その理由を、女組は順番を守り説明してくれた。


「奏にだけ恥ずかしい思いをさせる訳にはいかないから私もぶっちゃけると、私達は全員、この星の要人と言って差し支えないのよ」「ですから変身された星母様を誰の関係者にしても、星母様は衆目を集めてしまうでしょう」「むしろ、容姿も能力も凡庸だからかえって篭絡しやすいって誤解されるのではないかって、私達は案じています」「私達への最高の足掛かりを見つけたぞ! みたいにね」「私達は議論を重ね、篭絡しやすいという誤解は避けられないと結論しました」「ならば、別の方法で星母様を守らねばなりません」「その方法の一つに、最も恐れられている人のそばにいてもらう、というものがある」「この人を怒らせたら自分だけでなく一族全体が不利益を被る、と震え上がってしまう人の隣に星母様がいれば良いのですね」「その最も恐れられている人は、お兄ちゃんなの」「それに翔君の隣にいるのが、星母様も一番楽しいでしょうし」「翔さん、つらいでしょうが直視してください」「星母様を守り、そして楽しんで頂くなら、お兄ちゃんの隣にいるしかないということを」「・・・・ごめん、二度目で悪いけど時間をください」「「「ごゆっくり」」」

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