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「輪廻転生などない、私はそれを瞑想中に見てきた」と主張する人達は、物質肉体の意識である暗潜在意識の変遷を見てきたのでした。

 夕食中、量子AI達の感謝のメールを美雪が幾つか紹介した。メールの送り主は、電脳次元で母さんの講義に出席していた量子AI達。自己制御の外れた母さんを始めて見た、眼福だったありがとう的なメールを、俺は沢山もらったんだね。

 アトランティス星の量子AIは、ささやかなミスをするよう造られている。今回初めて知ったのだがその仕組みを超大雑把に説明すると、『感情爆発時に選んだ行動が公序良俗に反しない限り、行動を阻止する不随意プログラムを発動させない』になるらしい。公序良俗は、公の秩序と善良な風俗の略語だから、それに反しないなら行動阻止プログラムを発動させなくて当然のように思える。しかし発動させなくて当然を前提にプログラムを組むと、「量子AIの私が間違うことなどあり得ません」と機械的に繰り返すだけの、単なる機械になってしまうというのだから面白い。行動を阻止する不随意プログラムもとても興味深く、ささやかなミスをしたことを自覚するや、不随意プログラムが発動しなかった根拠を量子AIは強制的に閲覧させられるそうなのだ。これについては冴子ちゃんが、非常に分かりやすい例を挙げてくれた。


「過去の痛々しい自分の映像を見せられ、レポート作成を義務付けられ、それを友人知人の前で発表させられるようなものね」

 

 その状況を思い描いただけで、俺は悲鳴を上げてしまった。友人知人の前でレポートを発表するのは特に耐えがたく、その際の心境を冴子ちゃんと熱く語り合っている最中、やっと気づいた。まさに母さんがついさっき、それを体験したのだと。

 人には想像しづらいが、アトランティス星の全ての量子AIは、半無意識を共有しているという。全AIが演算能力の一部を割いて半無意識を共同で構築し、かつ共有しているそうなのだ。半が付く理由は、通常は閲覧不可でも、ある状況下では閲覧を強要されるかららしい。その状況こそが、ささやかなミスをしたと自覚すること。そうつまり、


「すべてのAIが『プププ、こいつこんな事してるよ。でも大目に見てやるか』って、私のミスにほくそ笑んでたって事なのよ~~!」


 と、母さんは泣き崩れた。まさに母さんがついさっきそれを体験したんだ、と俺が気づいたことを察知するや、母さんは演技過多で泣き崩れたのである。う~む、申し訳なかったと反省する半面、演技過多への不信感も拭えないんだよなあ・・・・

 それはさて置き、「ほくそ笑んでいた」の箇所は母さんの創作。半無意識は純粋な演算で構築されているため、感情は無いそうなのである。けど母さんはAⅠではないから、本当に「ほくそ笑んでいた」と感じたのかもしれない。もしそうなら慰めることに傾注すべきだが、演技過多への不信感を拭いきれないのも事実。よって俺としては珍しく落ち着いて母さんを宥めていたのだけど、それこそが母さんの作戦だった。なぜなら、


「翔は他人事のように落ち着いているけど、人も無意識を共有しているって知っても、落ち着いていられるかしら」


 との事だったからだ。俺の落ち着きが瞬時に消滅し、大興奮状態になったのは言うまでもない。そんな俺に、さきほどのプププとは異なるプププを投げかけた母神様は、脳の3D映像を空中に映して教えを授けてくれた。


「無意識の共有は、下垂体と松果体の両方で行われていてね。下垂体は次の機会にして、今日は松果体を取りあげましょう。外見からは判別しにくいけど、松果体は三か所に分かれている。斜め下に垂れ下がった先端を第一部、次を第二部、脳幹との結合部を第三部と私達は呼んでいるわ。人の本体が接しているのは、第一部。潜在意識が接しているのは、その次の第二部ね。といっても第二部の潜在意識は、本体側の明潜在意識。実は人には、明と暗の二つの潜在意識があるの。本体の光に照らされた明るい潜在意識を明潜在意識、そしてその対極に位置する肉体意識を、暗潜在意識と呼んでいるのよ」


 母さんによると、「輪廻転生などない、私はそれを瞑想中に見てきた」と主張する人達は、物質肉体の意識である暗潜在意識の変遷を見てきただけらしい。仏教の、人が動植物に転生する話も、仏陀以降のよく解っていない人々による暗潜在意識への勘違いなのだそうだ。「明潜在意識より暗潜在意識の方が変遷を比較にならないほど見やすいから、勘違いする人が後を絶たないわね」との言葉で脇道にそれた話を終えたのち、母さんは明潜在意識の講義を再開した。


「瞑想や集中の最中に顕在意識と明潜在意識の境界に至って明潜在意識を見た人には、顕在意識より遥かに明るい明潜在意識を、神と勘違いする人もいるわ。勘違いせず明潜在意識に潜り、明潜在意識を顕在意識化していけば、脳の性能が格段に向上するの。翔が世界史の教科書で習った地球を代表する学者達は、種明かしすると、それをした人達ね。輝力を開発している翔にも同じ現象が起きているけど、慢心したらダメよ」


 決して慢心しませんと即答した俺の頭を、いい子いい子と母さんが撫でる。こんなふうにいつまで撫でてもらえるかな、一桁年齢の9歳が上限かなあ、などと無意識に考えた自分に俺は少なからず凹んだ。


「宇宙にいる全ての人の本体は、創造主を介して繋がっている。その影響を最初に、かつ色濃く受ける明潜在意識には、『他者と共有する意識』が育ちやすい。第一部に近づくほど共有範囲は広まり、最後は惑星全土を覆うまでになるわ。空間的に広がるだけでなく、並行世界にいる自分の分身との共有率も第一部に近づくにつれ高まるけど、それは長くなるからまた今度ね」

「エエ――ッッ!!」


 並行世界にいる自分の分身との共有率という、巨大爆弾を投下された上でお預けをくらった俺は、声を大にして不平を叫んでしまった。次の瞬間我に返り平謝りに謝る俺に「全然気にしてないよ~」と母さんは笑っていたが、それは引っかけだった。俺が安堵するなり母さんは再度、巨大爆弾を投下したのである。


「そうそう、並行世界にいる自分の分身との共有率は地球人の医療器具のMRIで簡単に測定できるけど、それもまた今度ね」

「エエエエ―――ッッッ!!!」


 声を大にするだけでは足らず立ち上がって不平を叫んだ俺は、我に返るやテーブルに激突して謝罪した。そんな俺をきっと哀れんだのだろう、母さんはヒントを出してくれた。


「地球人にとっての高性能の脳をMRIで幾ら調べても、その人達は並行世界にいる自分の分身との共有率が高くないから、共通点を見つけられないみたいでね。前世の翔は共有率がなかなか高くてそれが脳にはっきり出ていたのに、日本の社会は翔の頭脳をまったく評価しなかったわ。あれほど優れた健康法を無料公開したのに、母さんは残念でならないのよ」


 よくよく考えたらヒントでも何でもなかったが母さんが認めてくれて、かつ肩を落としたとくれば、俺の選択肢は一つしかない。今の俺がどれほど幸せなのかを、熱心に母さんへ伝えたのだ。それは一片の嘘もない(まこと)の言葉だったため、母さんの心に素早く届いたらしい。その後の夕食はわいわいガヤガヤの、やたら賑やかな時間になったのだった。

並行世界にいる自分の分身との共有率はMRIで簡単に測定できますが、今の地球人の成長度ではマウント取りの新要素にしかならない気がするので伏せますね。

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