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 とはいえ緑の屋根は、建設担当組の半数を泣かせもした。壁を設ける当初の計画では照明ドローンを室内に浮かせる計画だったが、その壁が無くなった。すると照明ドローンに頼るのではなく自然光を利用しようという意見が出て、もっともだという事になりアレコレ実験した結果、遮光率を変更することになった。が、それは建設担当組に知らされなかった。遮光率を変えられない半数の建設組が遮光率100%を習得すべく邁進している最中だったため、それを最優先したのだ。一カ月の猛特訓が実り遮光率100%を習得してみせた50人に「おめでとう! でも遮光率は100%ではなくなったんだ」と伝えた時のことは、今でも忘れられない。地に膝をつき項垂れ「俺の一カ月間の猛特訓は何だったんだ」系の呟きをしていた奴らが、


「「「「翔コノヤロ―――ッッ!!」」」」


 と、俺に八つ当たりしたのである。野郎共が本気で怒っていたなら締め技とクスグリを甘んじて受けたが、こいつらは青春を共に過ごした仲間。アホ猿どもが演技しているのは一目瞭然で、ならば付き合う道理などないと上空へ逃げようとしたのだけど、勇と昇が裏切りやがった。羽交い絞めの不意打ちを両側からくらった俺は逃亡に失敗し、気絶寸前までくすぐられてしまったのである。

 後に聞いたところによると、100%をまず目指し続いて微調整に挑戦するという訓練手順は正しいので「そのまま100%を目標に励んでくれって」「皆さんに説明していたのです」との事だった。それは理解できるけどなぜ俺がくすぐられなければ・・・・との反論はしなかった。社会人としての責任を背負う大人にとって青春時代に戻れる瞬間は超貴重であり、そしてアイツらがその超貴重な時間を楽しんでいたことは、それこそ一目瞭然だったからだ。かくいう俺も、楽しかったしさ。

 とまあこんな感じに、建設部門ももてなし部門も順調に仕事をこなしていた、6月中旬。結婚式を一か月後に控えた某日、待ちに待った日が訪れた。集まった106人を代表し、責任者の舞ちゃんが声を張り上げた。


「ただ今より皆さんお待ちかねの、試食選定会を始めます。ではせえの!」

「「「「いただきます!!」」」」


 結婚式後の披露宴でお客様達に振舞う料理の試食および選定をする会を、ミニチュアの帽子堂の下で俺達は始めた。いやほらこの宇宙は実際にしてみないと「分からない」兼「解らない」兼「判らない」ように予め出来ているから、大切なお客様達に食べて頂く料理も実際に食べてみないと、何もわからないからさ。アハハハハ~~!

 という大義名分のもと、俺ら106人は絶品料理と絶品スイーツを軍事予算で食べまくった。成長期は終わっていても、そこはハードトレーニングを続けている戦士達。皆で飯を食うという懐かしさもあり、試食選定会は超絶盛り上がった。幾ら食べても無料というのも、盛り上がりに大きく貢献したといえよう。みんな高給取りでお金に困ってなくても、前代未聞の試みをしている俺達への褒美として人類軍がお金を払ってくれるというのは、やはり嬉しいものだからだ。聞くところによるとこの会を提案したのは綾乃さんで、司令長官が長官権限で採用を即決したという。俺達は満場一致で二人の司令官へ、試食のスイーツセットを送ったものだった。

 言うまでもなく馬鹿騒ぎをしただけでなく、仕事もキッチリした。繰り返すが実際に食べてみないと分からないのが、この宇宙だからだ。本当は幅広い年齢層のお客様に合わせて試食選定者も年齢をバラケさせるべきだったのだけど、どうにか解決した。小鳥姉さんの好意により、地球レストランのメインAIが助言してくれる事になったのである。助言の精度だけに着目するなら、料理のプロ中のプロである小鳥姉さんに直接助言してもらうのが最善なのは間違いない。けどそれは、新郎新婦の願いにより却下された。新婦の母親である小鳥姉さんは、最もおもてなししたいお客様の一人だったからだ。その願いを知り、俺と勇と舞ちゃんと翼さんがやる気を爆発させない訳がない。とりわけ舞ちゃんは、小鳥姉さんの料理の筆頭弟子を名乗っていることもあり気合いが半端なく、試食用の料理を準四次元で連日作っていたとう。翼さんもそれに毎回必ず付き合ったので、料理の腕がすこぶる上がったらしい。


「翔さんに、夏の長期休暇で振る舞いたく思っています。食べて頂けますか?」


 数十年ぶりにグイグイ来た翼さんが良い香りすぎて心臓が破裂しそうになったこと、きっとバレバレだったんだろうな・・・

 でもそういえば、なぜだろう? 舞ちゃんと翼さんと奏は、体香が似て来ていないのだ。ママ先生と鈴姉さんは体香が非常に似ていて、大人になってから調べたらそれは住み込み保育士最大の特徴の一つらしいのに、この三人にはそれがまったく現れていないのである。ぶっちゃけると三人の体香が俺は大好きだから今後も似ず、それぞれの個性に合った素晴らしい香りのままでいて欲しいんだけどな。 

 などと数十年ぶりに己の変態性にもグイグイ来られたことは置き、住み込み保育士の舞ちゃんと翼さんと奏も試食選定会に参加できていた。軍の肝いりで進めている事業の主要人物なため、半日の公休をもらえたんだね。ということに表向きはなっているが、ある取引に応じねば舞ちゃんと翼さんは公休を取ることができなかった。その取引とは、「二人の幼年学校の子供達も結婚式に招待すること」だ。これは妖精と親達が絡む少々複雑な話なので、整理してみようと思う。

 当初は、幼年学校の子供達は結婚式に招待しない予定だった。しかし新郎新婦つまり昇と奏が夏季休暇中の結婚式を望み、ならば呼ばないのはかえって不自然という事になり、奏の幼年学校の子供達と両親にのみ招待状を送ることになった。この時点で結婚式の参加者は2500人になっており、これ以上の増加を阻止したかった俺達は、子供達の親に事情を説明し結婚式の件を他言しないよう協力を求めた。息吹の三聖母という名称が世に広まった経緯を知っていた親達は協力を約束してくれて安堵するも、俺達は馬鹿だった。息吹の三聖母のとき同様、幼い妖精達が口をすべらせたのである。まあ息吹の三聖母のときは口をすべらせるよう土地神達が陰で暗躍していたし、何より幼い妖精に秘密厳守を守らせるのは超難しいから、仕方ないんだけどさ。

この小説でいう処の、世界線が変わりました。


高市早苗さん、期待しています。

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