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 帽子堂は滑らかな曲線を多用し、流麗に仕上げた。これはひとえに創造を担当した100人の幹部たち全員が、可変流線形防風壁を造形できるお陰だ。連携も凄まじく、試しに造って話し合い、また試しに造って話し合う、ということを30分間しただけで原寸大の帽子堂を造ってしまったのである。これには人類軍も驚き、100人は二つ分の実績をボーナスとして支給されていた。このボーナスで必要実績を満たし昇進したヤツもいて、たいそう感謝されてしまった。「感謝するのは俺らの方だって!」「いや俺らだ!」「そうよ私達よ!」という言い合いをしたのは、大切な想い出の一つになっている。

 ただその次の工程で、建築部門初となる困難が発生した。流麗な曲面の造形はお茶の子さいさいでも、遮光率を変えられない者が半数いたのだ。しかしそこは、選りすぐりの幹部達。挑戦心を爆発させた50人全員が一カ月後、遮光率100%を達成したのである。こっちもたいそう感謝され再度の言い合いに発展したのは、こいつら全員がすこぶる良い奴らだからなのだろうな。

 こんな感じに建築関連はとても円滑に進み、そしてそれは床を担当する俺も同じだった。反重力エンジンの造形で培った技術を活かし、炭素繊維強化プラスチック所謂いわゆるカーボンでハニカム構造つまり六角柱充填構造の床を造ったところ、必要耐久力を楽々出せたのだ。人類軍がよこした重量1千トンの飛行車を着陸脚を用いず床に胴体着陸させ、反重力エンジンを切っても、床が凹んだり割れたりしなかったんだね。その実験に立ち会っていた鷹さんが悪戯小僧の笑みを浮かべて重量1万トンの飛行車を司令官権限で急遽呼び、1万トンに堪える床の創造を俺に命じて再度実験させたのは、思い出しただけで胃が縮む。「鷹司令官に聞いた。面白いことをしているじゃないか空少団長」のように、司令長官がお出ましになられたのである。実験が成功したから良かったものの、まったくこの兄貴は何を考えているのか。颯や蒼と相談し、何らかの報復措置を取らねばな!

 それはさて置き、司令長官は帽子堂も見たがった。100人の幹部達も実験に立ち会っていたため造ることになり、こちらも目標時間込みで見事完成させた。筆頭秘書官の、


「所要時間、12秒でした」


 との報告に司令長官は目を剥く。そして、近々辞令が届くかもしれないが悪いようにはしないから心配無用的なことを述べ、総司令部へ帰って行った。

 軍機なのか辞令の件をみんな何も言ってこなかったけど、俺はその日から三日間、自由時間の全てを報告書の制作に費やさねばならなかった。「輝力工芸スキルでカーボン製ハニカム構造を創造できるようになるための、座学及び訓練計画を提出せよ」と、鷹司令官に命じられたのである。俺は準四次元で勉強や訓練ができたがそれを不可とするなら、一体どうすればいいのか? カンニングだがアカシックレコードを利用し様々な勉強と訓練の未来を見て、内容を決めさせてもらった。アカシックレコードという語彙を多用した上で「星母様の言いつけにより説明できません」との注意書きを文末に加えたら、鷹さんにあの顔を再度させることが出来たのにと歯噛みしたのは、精神衛生の観点から忘れることにしている。

 という訳で建築部門を終え、もてなし部門に移ろう。まずは、女組の懺悔から。

 役割分担を決めた三日後、3D電話を掛けてきた舞ちゃんと翼さんと奏は身をすぼめ、罪悪感の滲む声で言った。「「「私達はもてなしの心の、氷山の一角しか見ていなかった」」」と。

 女組は当初おもてなしを、披露宴を素敵にして料理を美味しくすればそれで完璧くらいに考えていたらしい。元日本人からするとそれは「学校で文化祭をしなかったのかな?」レベルのことであり、とはいえ体育祭や文化祭や部活動のある国の方が希少なのだけどそれは置き、量子AⅠが人を退化させることに俺は内心冷や汗をかいたものだ。実を言うとアトランティス星の大多数の人達は、女組と考えを等しくしている。人は披露宴や料理という創造性の高い文化活動に専念し、それ以外の雑務はAⅠに任せるのがこの星の常識なのだ。人が量子AⅠに支配されないためには人固有の能力である創造性を伸ばすのが最も高効率なのは事実でも、「人の力のみで結婚式を計画し執り行う」ことすら不可能な者達を多数輩出してしまっているのも、また事実だったのである。

 それを実体験で学ぶ最高の機会と、母さんは判断したのだろう。事故や事件に発展しない限り女組を助けることを禁止するよう、冴子ちゃんを始めとする全AⅠへ母さんは通達した。言うまでもなく女組にもそれを伝え、ありとあらゆることを自ら考えることと、にっちもさっちも行かなくなったら男組に相談することを助言した。だが人とは余程の人物でない限り、慢心してしまう生き物なかもしれない。女組は「「「は~い」」」と頭空っぽの返事をし、披露宴と食事についてキャイキャイ始めたそうだ。

 もちろん女組を擁護することは出来る。その最大は、今生のみならず前世にも類似する経験が無かったことだろう。舞ちゃんの前世は売れっ子バイオリニストで素晴らしいバイオリンを弾いていればそれ以外はすべてスタッフがやってくれたし、翼さんは事件前後で環境が変わったにせよ舞ちゃんと大差なかったし、奏は前世もこの星の住人だったといった感じだね。対して俺は日本のブラック企業で鍛えられ、勇はプロの格闘家として格闘系の興行を日常的に手がけていたという。昇は前世もこの星にいたが、優秀過ぎるコイツは例外にしないと一般人がかわいそうだ。少々脱線するが俺と勇は今回初めて、地球時代に習得した技術がこの星の水準を凌ぐという経験をした。無数の問題を抱えていても地球型の会社経営に身を置くことは、無駄では決してないという事なのだろう。

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