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との演説を鷹司令官が会議でぶちかましたところ、満場一致で可決されたそうなのである。俺と勇と昇はそれについて、鷹司令官と綾乃司令官に3D電話で詳細を教えてもらえた。それによると現時点で軍が最も注目しているのは、ホールの柱と天井を「複数人で造ること」なのだそうだ。
「輝力工芸スキルの等級がどれくらいの者が何人集まれば、どの程度の規模の建築物をどれほどの時間で造れるのか。お前達には明かすが、軍はそれらに関する情報をまったく持っていなくてな」「したがって司令官会議では、そのアイデアの出所が非常に注目されました。翔君、可能な範囲でいいから教えてもらえないかしら」
母さんにテレパシーで訊いてみたら、話して良い範囲を教えてもらえた。意外なほど許可されたことに驚きつつ、鷹司令官と綾乃司令官にそれを説明していく。
「司令官会議のみに開示するという条件付きで、星母様に許可を頂きました。私達の住んでいる物質宇宙には並行世界が複数あり、その一つ一つに・・・」
並行世界にいる俺の分身の一人が、ここではない他の星へ転生した。その星は科学文明が未発達の代わりに輝力工芸文明が発達し、輝力工芸に関してはこの星より数段進んでいる。その社会を俯瞰したさい複数人が協力し輝力製の大規模建造物を創造するのを見かけ、勇と昇に話した。俺は歓談の話題として取り上げただけだったが、勇がそれをこの星で試してみることを思いついた。
といった感じのことを鷹司令官と綾乃司令官に話したところ、お二人は苦悶の表情を浮かべた。星母が関わっているため、俺に質問したくてもできなかったのである。質問されたら俺も困るので「可及的速やかに文書化して提出します」と報告したのを機に、3D電話会議は終了した。喉に小骨が刺さったような顔のまま消えていった二人の司令官様、申し訳ございませんでした。
二人の司令官と3D電話会議をした夜、舞ちゃんと翼さんと奏を加えた会議を準四次元で開いた。現時点の進捗を男組が女組に報告したところ労いの言葉を掛けられると共に、
「ホールの建設場所は決まっていますか?」
翼さんが訊いてきた。決まっていないけど軍用地を借りられるんじゃないかなと答えた俺に、翼さんは気分を害した顔を作る。
「水くさいですね、天風の地に建設すれば良いではありませんか。奏、天風の地では嫌?」「迷惑でないなら、嫌なわけないよ翼お姉ちゃん」「迷惑がる者など一人もいないわ。天風一族全員が、奏と昇の結婚を待ちわびていたのだから」「あはは、ありがたいような申し訳ないようなだな」「ふふふ。奏と昇の晴れ姿を、皆に見てもらいましょうね」「うんわかった。昇もそれで良いよね?」「あ、ああもちろん良いよ。翼姉さん、ありがとうございます」
奏が乗り気なのだから、昇が反論するなどあり得ない。そう知りつつも二人の両親の姿を、具体的には恐妻家の達也さんと雄哉さんの姿を、昇に重ねずにはいられない俺と勇だった。
それはさて置きこちらの会議もトントン拍子に進み・・・とはいかなかった。進行を阻んだ最大の壁は、ホールの規模の変更だった。天風の地に建設するということは、天風一族が大挙してやって来るということ。一族の何割が出席するかは分からねど、少なくとも5000人収容可能なホールにしなければならないと、皆の意見が一致したんだね。「こりゃ1万人もあり得るな」と、俺は胸中密かに呟いた。
それは的中した。翼さんが肉体へ一時的に戻り、冴子ちゃんに一族の予想参加者数を尋ねたところ、5000人と返って来たのである。ならばいっそ1万人にして、天風一族以外の参加者の人数制限を解除しようという話になった。実を言うと予想参加者数2500の時点で、人数制限を掛けていたんだね。女組は無邪気に良かった良かったと手を叩いていたが、男組にそれは不可能。四倍に膨れ上がった1万という数に、心の中で腕を組み眉間に皺を寄せていた男組だった。
その後、各々の希望に沿い大まかな役割分担を決めた。すると性的傾向が如実に出て、男は建設を担当し、女はもてなしを担当することになったのは笑ってしまった。もちろん各自が好きなことをするのが、一番なんだけどさ。
建設部門は終始、順調に進んだ。それには二大理由があり、一つは妖精を見る会の幹部達のスキル練度が高かったこと、もう一つは叡智創成館の建築データを翼さんが全公開してくれたことだ。これは大事業を手掛ける際、人材と情報が最重要事項として遇されることの証左だろう。仮にここが地球だったら男組はホール建築後、会社を立ち上げていたと思う。コミュ力に秀でる勇が社長、昇は事務部門の専務、俺は技術部門の専務、といった感じかな。昇は元地球人ではないため地球的な会社経営が、イマイチ解っていなかったけどさ。
輝力製ホールは、ミニチュアを作り実験を繰り返した結果、形状をそこそこ変えた。円形なのは同じだけど、壁と庇を設けたのだ。壁と庇がないと夏の日差しで温められた空気がドームに籠り、室温が上昇したのである。新ホールの形状は麦わら帽子に似ていたため、帽子堂という名称になった。アトランティス語の堂は日本語の堂とほぼ変わらず、「大勢の人が集まり式典を開く建物」という意味。帽子堂のミニチュアを翼さんがいたく気に入っていたので実物も気に入れば、同形状の建物が天風の地に出現するかもしれない。
帽子堂の直系は、200メートル。内訳はドームが100メートル、それを縁取るツバが50メートルで、計200メートルだね。高さはドームが70メートル、ツバが20メートルだから叡智創成館より若干大きく見える。柱と壁の遮光率も変更して100%にしたところ、冷房しなくても室温は26度になった。いやはや、日陰は偉大である。あまりに快適なため「ツバの部分で食事しない?」という案が出ている。この星の人達は強健でも、移動は少ないに越したことは無い。女性陣の要望でもあるし、それで決まりだろうな。




