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四十二章 昇と奏の結婚式、1

 昇と奏の結婚式の計画は、のっけから暗礁に乗り上げた。予想参加者数2500を収容可能なホールを、確保できなかったのだ。文化センターに十二棟ある収容人数2500の小ホール及び翠玉市内の同規模のホールの全てが、結婚式やコンサートで既に押さえられていたのである。

 とはいえこの星にも、仮押さえという文化がある。その場合は権力者に動いてもらえば高確率で解決するのは地球と変わらず、よって司令官の鷹さんに頼んだのだけど「仮押さえは無し。すべて本押さえだったよ」という、悪い知らせのはずなのに良い知らせの気配を漂わせる声が返ってきた。己の感覚を信じて事情を尋ねたところ、問題は解決せずとも嬉しいことを知ることが出来た。鷹さんによると、


「翔の様々な活動が実り、合同結婚式を挙げる学校が増えたんだよ」


 との事だったのである。19名家の訪問は最近始めたため合同結婚式増加とは無関係だが、俺はこれまでに様々な試みをしてきた。それが巡り巡って、「最愛の人のもとに帰って来る」を合同結婚式で行う学校が増えたそうなのだ。それだけでも嬉しいのに、指導の主体になっているのはアホ猿会改め「妖精を見る会」の幹部達つまり俺の同窓生達だったとくれば、嬉しさは天井知らずになるというもの。それに力をもらい、結婚式会場を何としても確保してみせると俺は気炎を上げたのだった。

 人という生き物は面白いもので、やる気に満ち溢れていると解決策が次々湧いてくるらしい。実現可能か否かを度外視し湧いてきたアイデアを親友達と語らうのは、非常に楽しい時間だった。俺と勇と昇は食事の時間をそれに充て、空想とバカ話が半々の愉快なひと時を過ごしていた。それが実り、


「そうだ翔!」「どうした勇」「並行世界のお前のように、輝力工芸スキルで収容人数2500人のホールを造っちまえよ」「素晴らしい! かけ兄なら絶対できますよ!」「お前らにそう言われたら俺、出来そうな気になってきたんですけど!」「「ヨッシャ――ッッ!!」」


 てな感じになった。言うまでもなくそれは男特有の、単なるバカ話でしかない。だが、バカを侮るなかれ。たとえ無駄に終わろうと全力投球するのが、バカ男子によるバカ話の醍醐味なのである。俺達は何モノにも縛られず自由な発想を連発し、輝力製ホールの建造を考察していった。その、何モノにも縛られないの「何モノ」には、時間すら含まれるのが俺らの特徴。意識投射して準四次元へ行けば、俺達は36秒を1時間に容易く出来るんだね。

 そして1時間後。


「・・・なあ」「・・・うん」「・・・ですよね」「収容人数2500人の輝力製ホール」「場所と協力者を確保できれば」「意外と簡単に造れてしまいそうな」「「だな!」」


 との結論に、あろうことかなったのである。俺と勇と昇は意識投射解除後の役割分担を決め、三次元物質世界へ帰って行った。

 戻って来た俺達は、それぞれの役割をこなした。俺の役割は、収容人数2500人の輝力製ホールの建造を文書化すること。勇の役割は、協力してくれそうな人達に連絡すること。昇は、新郎という訳ではないが役割を三つこなしてもらった。1、輝力製ホールに2500人を収容することの法律上の問題を調べることと。2、床の耐久性能の割り出しに使う900トンの重量物を確保できるか否かを調べること。3、2500人分の椅子とテーブルを結婚式場に運び入れる手段と所要時間と金額を調べること。この三つだね。さてでは、俺は俺の役目を果たしますか。文書の骨格を作るべく、俺は思いついたことを気ままに書き留めていった。


 収容人数2500の輝力製ホールは、天風の叡智創成館と同サイズ同形状にする。

 理由は、設計図や耐震性能や耐風性能等々のデータを入手しやすいから。

 風の妖精に頼み、風速2メートルの風を3時間吹かせてもらう。3時間の内訳は、来客者の入場に30分、結婚式に30分、食事込みの披露宴に2時間だ。

 その計3時間に地震があるかを、大地の妖精に訊く。

 風速2メートルなら、空調も兼ね壁は造らない。天井を支える柱さえあれば良く、またその柱と天井も、地震に備える必要がない。

 天井の遮光性能は紫外線99%減と、太陽光50%減とする。

 強風と地震に備えなくていいなら、この性能を有する天井を製作できる輝力工芸スキルの保有者は、妖精を見る会の幹部に400人以上いる。柱は、幹部全員が製作できる。

 輝力製ホールで最も困難なのは、床の製作。2500人の体重の総計をざっと300トンとすると、俺でも確信を持てない。新郎新婦を見えやすくすべく床に傾斜を付けるなら、自信皆無なのが本音だ。

 人命に関わるため、300トンの三倍の900トンの重量を床に掛けてみようと思う。この星には飛行車があるから地球より900トンを楽々移動できると思うが、昇の調査能力に期待する。

 900トンでの安全を確保できないなら、参加者全員に反重力ペンダントを貸与する。

 結婚式後、式場に2500人分の椅子とテーブルを持ち込むか、それとも披露宴会場を別に造っておくかは、昇の調査を基に再考する。


 骨格は、こんなところだろう。「さてでは文書化しますか」 俺は気合を入れるためそう呟き、2Dキーボードに十指を閃かせた。


 それ以降はトントン拍子にことが運んだ。勇は妖精を見る会への日頃の献身が活き幹部全員に協力を確約されたし、昇は軍の協力を得ることで三つ全てを速やかに処理した。即ち軍のAⅠが法律面を対処し、900トンの重量物の運搬と設置は軍が担当し、2500人分の椅子とテーブルも軍の備品を使えるようにしたのだ。といっても昇がいかに優秀でも軍をどうこうする力はなく、種を明かすと鷹司令官と綾乃司令官が動いてくれたんだね。お二人によると「輝力製の小型ホールの建設は、闇族との戦争に将来役立つかもしれない」とのことだったのである。


『土木や建設を担当する工兵は戦争に本来不可欠であり、闇族との戦争が例外なだけ。そして、その例外が未来永劫続くなどと、司令官会議は決して考えてはならない。闇族が突如変化もしくは進化し、戦術等々が必要になる時代が来るかもしれないからだ。なればそれを予想し、それへの対策を用意しておくのが、司令官会議の役目なのである』

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