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 顔を上げた母さんはもちろんそれを受け入れ、愛娘へ向ける笑顔を浮かべた。愛娘達は目をしきりに擦り、涙を回避した真っ赤な目にどうにかこうにか留めて俺に結論を伝えた。

 それによると舞ちゃんと翼さんと奏はここに来る前、一周回って俺を幼年学校の男子級と結論したらしい。一周回ったのは、俺に男特有のズルさは無くとも、身を斬り刻まれる程の苦痛を味わわされたのは事実だったからだ。三人は自らの苦痛を赤裸々に話し、共感し合い慰め合い俺を罵り合ったのち、でもやっぱりズルくないと振出しに戻った。そして出た結論は、俺は残酷ということだった。時として子供は大人が怖気づくほど残酷であり、その残酷さに自分達は翻弄されてしまった。純粋さを由来とする残酷さに着眼するなら、俺は幼年学校の男子に比肩する、残酷な存在なのだそうだ。

 けれどもそれが、あちらの世界の俺を知ることで変わった。あちらの世界の俺は、妻達への贖罪として己が心を清め続けた。それはあたかも清らかな水であり、妻達はその水で洗ってもらうことにより、清らかな心を取り戻せていた。腹を痛めたわけではない別腹の子を我が子と変わらず愛せたのは、清らかな心を取り戻せていたからだ。それをしてもらっていないのに変わらず愛することを自分に強いていたら、心が病んでいただろう。そうなっていたら子供達に、幸せな子供時代を過ごさせてやれなかったに違いない。だが子供達は幸せな子供時代を過ごし、その大本が心を清め続けた父にあることを理解していたから、父に感謝を伝えていた。それらを知った舞ちゃんと翼さんと奏は、考えを改めることにした。幼年学校の男子の純粋さは、転生時に心を洗ってもらうという受動によってもたらされたものなのに対し、俺の純粋さは、心を清め続けるという能動によってもたらされたもの。あちらとこちらの共鳴も、能動という共通点があったことを示唆しているのだろう。ならば受動による純粋さと能動による純粋さは区別すべきであり、俺の恋愛観は幼稚園児並ではないという事になる。幼稚園児並ではないなら残酷さも再考せねばならず、組織の一員である舞ちゃんと翼さんと奏は正解をすぐさま得た。この宇宙は未熟な者にとって、


  残酷な世界


 として最初から創られている。三人が俺に感じた残酷さの一部は、世界由来の残酷さだった。俺由来の残酷さと世界由来の残酷さの比率は分からねど、身を斬り刻まれる程の苦痛は、世界由来の残酷さによるものと思えてならない。どちらに由来するかを、母さんなら掌を指すように見て取れるだろう。通常なら自ら考え推測可能になってから推測の正誤を母さんに問うべきだが、なぜか今回は例外な気がする。その「例外な気がする」までを俺に話した三人は、体の向きを揃って母さんに変えた。


「我が師の謝罪へ、再度対応させてください」「たとえ今回の大本が我が師にあったとしても」「私達が未熟でなければ、身を斬り刻まれる苦痛を味わうことは無かったように感じます」「通常なら自ら考え推測可能になってから推測の正否を尋ねるべきですが」「なぜか今回は例外な気がしてなりません」「「「我が師、どうでしょうか?」」」

「今回は例外です。娘達よ、母の胸中を理解してくれて、ありがとう」「「「やった~~!!」」」


 娘達は万歳しキャイキャイ始めた。母さんもそこに加わり、女四人でまこと楽しそうにしている。こればかりは、息子には不可能なこと。楽しげな女性陣に、男子組はただただ目尻を下げていた。ほどなく満足したのか、母さんが話を再開した。

 それによると今回の例外には、翼さんも含まれるらしい。よって母さんが直々に夢を訪れ、翼さんをここに連れて来たという。また母さんは翼さんに、俺達のここでの話し合いを全て見せ終えているそうだ。実を言うと、翼さんもこの会合に呼ぶか否かを俺は就寝直前まで悩んでいた。舞ちゃんと奏も、この会合に出席する前に準四次元で翼さんを交えて話し合っていたそうだから、同じ悩みを抱えていたと思われる。気配的に勇と昇は違うと感じるが、確認を取っておくべきだろう。翼さんには謝罪を、母さんには謝意を述べねばならないから、この会合を終えても全員と間を置かず会うことになるのだろうな。

 それは置くとして、今回の例外へ母さんはとうとう駒を進めた。


「翔以外を、意思のアカシックレコードに連れて行きます。選択しなかった未来を、実際に経験してもらいましょう」


 俺以外でございますかと叫びそうになった口を慌てて塞いだ俺の目に、母さんが六人に分かれる光景が映った。六人と言うことは俺一人がここに取り残されるのではないんだな、と安堵したマザコンの自分に、俺は胸の中で盛大に溜息を付いた。

 母さんが一人一人を連れ、この次元から消えていく。残された俺は一人残った母さんに、翼さんを連れて来てくれたお礼を述べた。母さんは首を横に振り、思いもよらぬプレゼントをくれた。


「お礼を言うのは私の方。よって翔に、ある秘密を明かします。当人達もまだ思い出していませんから、これを知るのは翔だけ。心に留めるのですよ」 


 任せてくださいと胸を叩いた俺に、「翔は秘密を幾つも守ってくれているものね、信頼しているわ」と母さんは嬉しいことを言ってくれた。こうなると照れるのが普通なのだけど、今回は嬉しさ半ぶん苦笑半ぶんの顔を俺はしていた。守秘義務は慣れっこでも、舞ちゃんの遺伝上の祖母が冴子さんなことだけは、未だ心労を伴うんだよなね。「今回の秘密はそれを下回るわ、安心しなさい」「了解です、安心します」 そう即答した俺にクスクス笑い、母さんは驚天動地の事実を明かした。


「昇と奏が転生前に設定したのは、たった一つだけ。しかもそれは、前例がないほど漠然としていてね。『よほどのことが無い限り、自分達は上手くいかない』だったのよ」


 今回の秘密は舞ちゃんの件を下回るという母さんの言葉を、全然違うじゃんと罵りたかったのが本音だった。言うまでもなく、胸の奥に仕舞い込んだけどさ。

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