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18

 が、それだけで終わらぬのがこの宇宙の複雑なところ。母さんの行いは、俺の心のある領域を急速に成長させてしまったのだ。あらゆる成長は素晴らしいことであり、俺の成長もそれに含まれると断言できる。それは間違いないのだけど、俺が助け続けたのは普通の人ではない筆頭大聖者だったことが、母さんすら予測不可能だった結果をもたらした。普通の善行とは比較にならぬ高品質かつ大量の善果を受け取ることになった俺は、女性に微塵も慣れていない17連続童貞人生という不遇を吹き飛ばし、極めて女性慣れした一面を持つに至ったのだ。その一面とは、女性のストレスを受け入れ浄化したのに見返りを決して求めないという、ある意味非常に危険な男性的魅力だったのである。

 母さんによると見返りを決して求めないことには、17連続童貞人生が大いに関わっているという。率直に言うと、と述べつつ率直では全然ないのだがそれは置いて再度率直に言うと、俺は女性とのほにゃららから遠ざかり過ぎていた。よって普通なら極度に困難な見返りを求めないということを俺は平気でして、それがある種の女性達にドストライクだった。鈴姉さんと小鳥姉さんはそこに含まれ、既婚女性にとって見返りを求められることは大迷惑もしくは危険極まることなのだけど、俺にそれは皆無。よって弟として心の赴くまま可愛がることができ、更に加えてストレス解消を無償でしてくれるという、俺は超ドストライク年下男だったのである。思い当たることが無数にあるなと、俺は苦笑するしかなかった。しかし苦笑できたのは、姉達との記憶に限ってのことだった。舞ちゃんと翼さんと奏にとって俺の存在は、ある意味人生最大の苦しみになったからだ。思い当たることが無数にあった俺は、自己嫌悪の底なし沼に落ちていった。

 幸い母さんが助けてくれて、俺が自己嫌悪の底なし沼に落ちたことは誰にも気づかれなかった。時間も引き延ばしてくれたので思う存分そこに嵌って己を罰しても、皆にとっては刹那でしかなかったみたいだしね。後で母さんに、ちゃんとお礼を言っておかないとな。

 舞ちゃんと翼さんと奏にとっての、ある意味人生最大の苦しみを、母さんは言及しなかった。今更取り上げずとも、母さんを含めた7人全員がそれを熟知していたからだ。さっき思う存分己を罰していなかったら、二度目の底なし沼落下を免れなかっただろうな。

 ただ、良い事もあった。それはこちらの俺が習得した「女性に見返りを求めないという性格」と、あちらの俺が共鳴したこと。ハーレム俺の複数の妻達は当たり前だがストレスを免れず、それをあちらの俺にぶつけた。妻達のストレスの元凶は自分と自覚していたあちらの俺は妻達をおおらかに受け入れ、そして受け入れられることで妻達はストレスを解消していた。というあちらの俺と、こちらの俺の女性に見返りを求めないという性格は似ていたため次元を超えて共鳴し、


  こちらの俺が組織で習得したこと


 をあちらの俺も微力ながら使えるようになったそうなのである。それが無かったら全都市統一国家の形成は数倍難しくなり、四割近い都市が消滅していたという。然るにその点は自分で自分を褒められるのだが、共鳴とは「共に鳴る」もの。つまりこちらの俺もあちらの俺の技術を微力ながら使えるようになり、その最たるものが女慣れだったとくれば、自分で自分を褒めるなどできる訳がない。なぜならそのせいで・・・・


「まったくこの子は。そんなふうに誤解せぬようこうしてやって来た母の気持ちを、翔は蔑ろにするのですか?」


 項垂れた俺の耳に母さんの声が届いた。蔑ろにするなど天地がひっくり返ってもなく、ならば項垂れてなどいられないと俺は背筋をシャキンと伸ばしてみせた。そんな俺に、女性陣がクスクス笑う。ある意味人生最大の苦しみを味わわせてしまった舞ちゃんと翼さんと奏が楽しげに笑っている光景に、こちらの俺とあちらの俺の共鳴がかつてないほど強まっていった。あちらの俺も、妻達にある意味人生最大の苦しみを味わわせてしまったことを悔いていた。しかし妻達は大部分の時間を、幸せそうに笑って過ごしていた。だからといって自分の罪が消えることは無いが、妻達が幸せそうにしているなら、自分も幸せを感じていることを惜しみなく見せよう。そして妻達が心労に押しつぶされそうになっているなら、自分を幸せにしてくれたのは妻達なのだと素直に伝えよう。あちらの俺はあるときそう決意し、そしてそれを生涯貫いたのである。今の俺には、貫いた先を見ることがまだできない。あちらは無理だったが、こちらの先は朧げに見ることが出来た。舞ちゃんと翼さんと奏は、俺のせいで強いられた苦しみを凌駕する幸せを、今生中に得るのだ。


「翔」「はい、母さん」「解ったようですが、さりとて母の気持ちは変わりません。母の気持ちを、目に焼き付けなさい」「了解です」


 母さんはそう言って、舞ちゃんと翼さんと奏に正対し背筋を伸ばした。続いてされる動作を幻視した俺の胸に激痛が走るも、それも含めて俺の罪。目に焼き付けなさいと命じられたため次の動作を一緒にできないのも、俺の罪なのだろう。だが、そんなふうに罰してくれることも母の愛の一つなのだと理解できるようになった今生へ、俺は感謝した。


「舞、翼、奏。今回の大本は、息子の優しさに私が度を越して甘えてしまったことにあります。大本を創ってしまった者として、謝罪します」


 母さんは伸ばした背中を、舞ちゃんと翼さんと奏へ深々と傾斜させた。目に焼き付けなさいと命じられたからには遂行せねばならぬが、いささかキツイですよ母さん。と胸中泣き言を洩らした俺とは対照的に、舞ちゃんと翼さんと奏は誇り高い姿を母さんに見せた。


「我が師の謝罪を受け入れます」「その上でお願いです」「舞お姉ちゃんと翼お姉ちゃんと私がここに来る前に話し合って出た結論をお兄ちゃんに伝えたのち、我が師の謝罪へ再び対応したく思います」「「「どうか、お願いします」」」

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