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 昇と奏は幼年学校と戦士養成学校で輝力工芸スキルを始めとする有用スキルを同級生達に惜しみなく教え、皆の戦闘力を目覚ましく向上させた。また二人は親しみのある人格者だったので人気が凄まじく高く、その上更に「最愛の人とまだ素直に付き合えないのか」と同級生達を案じさせてもいた。よって二人のわだかまりが二十数年振りに解け結婚の報告が届いた際、式に出席し二人を祝いたいと思わない同級生は皆無と考えねばならない。超山脈合宿が一緒だった人達もそれに含まれるとくれば、同級生関連だけでも予想参加者は1200人を優に超えてしまうのである。

 白銀騎士団にも、式出席を望む人は多数いる。赤子の頃から団の訓練に参加していた二人の恋の行方を、家族の眼差しで見守ってきた人達は数百人に上るからだ。どうしても出席を望むと予想される人達を俺と勇と舞ちゃんで一人一人挙げていったところ、200余人となった。赤ちゃんの頃から30年近く交流してきたのだから、まあ当然だね。

 赤子ではないにせよ幼稚園児の年齢から交流してきた天風一族にも、出席を望む人は大勢いる。今生の昇と奏のみならず、二人の前世の功さんと翠さんとも交流があったとくれば、主席者が多すぎるのでお呼びできませんなんて口が裂けても言えないのだ。年齢の近い友人もゴロゴロいるし、どうしてもと望む人は300人を下らないと俺達は予想した。

 唯一の救いは、仕事関連が極端に少ないことだろう。昇の同僚は俺と勇だけだし、奏も元同僚を含めても4人にしかならないからね。ただ長期休暇中に式を挙げると、奏の現教え子と元教え子の計200人が必ず出席する。教え子のご両親にも「付いてこないでください」なんて言えないため、長期休暇中の挙式は可能な限り避けねばならぬと俺達は闘志を燃やしたものだった。

 親族もバカにならないが、それほどでもなかった。昇と奏はどちらも第三子で上の二人には既に孫がいるけど、両家合わせても50人に満たなかったのである。千人越えや数百人という人数を扱ってきた俺達の感覚が、麻痺しているだけかもしれないけどさ。

 昇と奏を新生児のころから可愛がってきた近所のおばちゃん軍団、もといお姉様方も出席を望むはず。ひ孫弟子候補の講義の友人達は、合計しても6人くらいかな? 

 という訳で奏の教え子を除く仕事関連、親族、近所のお姉様方、ひ孫弟子候補の友人、そして鷲達を含む俺らの合計は、ざっと100人くらいになる。そこに会員数数百万を誇る「妖精を見る会」関連の出席者おそらく100人を加えた総合計は、1900人。この人数に収まれば、収容人数2000のホールを押さえればどうにかなるはず。昇と奏は鷹さんや綾乃さんとも縁が深いから、万が一の時はお二人に泣きつこうと思っている。鷹さんと綾乃さんも昇と奏を案じていたし、喜んで手伝ってくれるだろうな。

 かくして、予想参加人数1900という目途が立った。明日から早速行動し、連絡を密に取っていこう。とのテレパシー会議を終えた丁度そのとき、昇と奏が恥ずかしげに「「お待たせしました」」と声を揃えた。「全然いいよ気にするな」「そんなことより、おめでとう」「おめでとう。昇、奏」 俺と勇と舞ちゃんでそう応じたところ、


「「はい!」」


 二人は太陽のように全身を輝かせて元気よく答えた。光に満ちたそこに、陰はもうない。後悔に身を焼かれてすごした幾千とも知れぬ眠れぬ夜が、すべて過去になったことを二人の笑顔が教えてくれたのである。感極まった舞ちゃんが、堪らず涙を零す。それは隣に座る奏に一瞬で伝播し、女子組は抱き合ってオイオイ泣き始めた。泣く奏に昇はオロオロすれば良いのか舞ちゃんがいるのだから安心すれば良いのかまるで判らなかったらしく、俺はどうすればいいんでしょう兄貴、的な眼差しを俺と勇に向けてきた。俺と勇は感慨深げに頷き、昇の肩を叩く。続いて、


「「どうもこうも無い、この幸せ者め!!」」


 技術の粋を尽くした渾身の締め技とくすぐりを昇に掛け続けた。ここは準四次元で肉体を持たないのに、昇も「死ぬ、窒息死する」とノリノリだ。男子組は学生時代に戻ってはしゃぎまくり、泣き止んだ女子組は結婚式や新婚旅行や新居等々の語彙をふんだんに使ったガールズトークに花を咲かせる時間を、その後しばし過ごしたのだった。


 男子組は子猿はしゃぎを、女子組はガールズトークをそれぞれ満喫し、さっぱりした顔になった。何より昇と奏の、26年越しのわだかまりが綺麗に消失したことだし、俺は満ち足りた気持ちでこの会合の終了を皆に提案した。するとその途端、事態は暗転した。勇と舞ちゃんと昇と奏が心底ワケワカンナイ系の眼差しをして、


「「「はあん?」」」


 と俺を威嚇したのだ。威嚇されてようやく、この会合は俺の幼稚園児並の恋愛観について女性陣の本音を聞かせてもらうための会合であり、そしてそれに関してはほぼ何も進展していないことを思い出した俺は、顔を真っ青にした。同種のやらかしを俺がしたのは二度目で、一度目すら「女の敵」「夫の敵」「恋人の敵」と認定されたのだから、今度はどうなってしまうのか。「お前なんてもう友達じゃない」系のことを言われたら、俺は生きていけるかな? などと考えるや、顔から血が一気に引いたのである。

 涙が出るほど嬉しいことに、二度目のやらかしを皆は威嚇だけで済ませてくれた。俺は顔をゴシゴシ擦り、血の流れを促してから話し合いに臨んだ。もっとも話し合いというより、奏の打ち明け話の続きを拝聴したんだけどね。アカシックレコードを見たり二次元に隣接する次元に行ったりして、打ち明け話の途中だったことをすっかり忘れてたんだけどさ。

 奏としては、素直になれなかった過去の自分について昇にもっと謝りたかったらしい。でもそれをしたらラブラブモードに再突入し、二度目の中断を余儀なくされてしまう。との予想を赤裸々に明かした上で、「という訳で『お兄ちゃんはズルイ』の真相を暴露します!」と奏は宣言した。それは大ウケし、「翔を懲らしめろ~」系のヤジを勇と舞ちゃんと昇が盛んに飛ばしている。対して俺は、懲らしめられる割には余裕の表情で頬をポリポリ掻いていた。皆には言えないが、本体に促され奏の意思のアカシックレコードをさっき見ていたから、今後の展開を予想できたんだよね。そんな俺に勇は何かを察したようだけど、言葉にはせず聴く姿勢を整えた。全員がそれに倣ったのを見計らい、奏は暴露を始めた。

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