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 そして奏は背負った二つの課題を、28歳になった現在も背負い続けている。物心つく前に昇をマザコン認定しなかったらその時点で二つの荷は消えたが、実現率ほぼ0%なのは生まれる前から判っていた。「より厳しい環境で習得せねばならない」が、条件だったからね。その条件として因果則自身が組み込んだ厳しい環境の一つが、


「妹を溺愛する俺だったのか・・・」


 かくして俺はことの真相に、辿り着いたのである。

 しかしだからと言って、昇と奏の恋の邪魔を俺がしてきたという考えを捨てるつもりはなかった。たとえ因果則がお膳立てしたにせよ、ソレとコレは別なのである。その証拠に俺は、女の敵であり夫の敵であり恋人の敵だしな。

 と底なし沼に嵌りかけた俺に、本体が語りかけてきた。促しに従い、奏の愛情の源泉が形成される過程を見に行ったところ、俺は地に膝を付き手を合わせて、因果則に感謝していた。奏が抜きんでて豊かな愛情の源泉を形成するにあたり最も影響を及ぼしたのは、俺だったからだ。

 お金という物質世界に属する力は、使えば手元から消える。だが創造主の創造主の創造主に属する愛情という力は、使えば使うほど増えていく性質を有していた。使えば使うほど「さあもっと使いなさい」とばかりに源泉が拡大され、心に流入する量が増えるんだね。

 この仕組は輝力と変わらぬこともあり、理解したのは十代だった。だが愛情の源泉が()()()()()()()()()()()()は失念していて、それをついさっき学ばせてもらったのだ。抜きんでて豊かな奏の愛情の源泉が形成される過程を見に行き、俺は知ったのである。人の最初期の源泉は、自我が芽生える前にそそがれた愛情に呼応し、形成されるのだと。

 赤子も、笑いかけたら笑い返す。可愛がっても笑うし、環境が快適になるよう世話してあげたら笑顔を振りまくことで感謝を示してくれる。これは呼応、つまり呼びかけに応じたのであり、愛情をもって赤子へ呼びかけると赤子も愛情でもってそれに応えようとする。その「応えようとする積極的な意志」が、創造主の創造主の創造主と心を繋ぐ通路つまり愛情の源泉を、拡大するのだ。

 これが仕組ゆえ、誕生してから4週間までの新生児期と1歳までの幼児期に最も深く関わる母親が最初期の源泉の規模を決定する主役と思われがちだが、必ずしもそうとは限らないのが人というもの。なぜなら人はそれぞれ異なる心を持つので「愛情に応えようとする積極的な意志」も、積極率や積極的反応の頻度が人によって異なるのである。源泉つまり通路を拡大するのは、あくまで赤子本人の積極的意思なんだね。

 とはいうものの、人は生まれて間もなければ間もないほど、肉体意識が主導権を握っているもの。もちろん救済措置は取られており、この世で最も純真な意識が肉体意識として赤子に与えられているのもその一つだ。赤子と交流すると心が洗われるワケは、これだね。

 しかし、何事にも例外はある。人は誕生前に心を洗われるので赤子の心が清らかなのは全員に共通していても、心の成長度は人によって異なり、それが呼応の「応」に多大な影響を及ぼすのだ。前世で心を成長させた赤子ほど、愛情あふれる呼びかけに肉体意識ではなく心で応えようとし、そうすることで今生も豊かで愛情あふれる心を獲得しようとする。昇や奏はそれがことさら強く笑顔を無尽蔵に振りまくものだから、俺と勇と舞ちゃんと翼さんは競い合って可愛がっていた。しかもその大部分を、想いの伝わりやすい準四次元でしたため、俺達四人は両親に準じる家族になれたのだ。それ自体は手放しで嬉しいのだけど問題もあり、いや今回の件で様々なことを学んだ身としては一概に問題と言い切れないのだがやはり問題もあり、それは奏のお兄ちゃん子に関することだったのである。

 前世で心を成長させた子ほど、愛情あふれる呼びかけへより早い時期からより積極的に応えようとし、その積極性は知性の成長も促す。そして前世と今生で共通点があった場合、成長した知性は共通点を早い時期に知覚し、前世の性格を今生でも構築していく。成長した知性といっても幼児期のものでしかないため、言葉は悪いが性格構築は後先考えず成され、かくして奏は前世のお兄ちゃん子を今生も引き継ぐことになった。だが引き継ぐも前世の兄と異なり、今生の兄つまり俺は月に一度しか奏に会ってやれない。物心つく前ゆえ時間感覚は曖昧でも、大好きなお兄ちゃんは好きな時にいつでも会える存在ではないと認識した奏は、俺に会ったら可愛がられ貯蓄をするべく可愛がられまくった。待ちに待った瞬間のそれを奏は特別視するようになり、その反動でいつも一緒にいる昇の価値が下がってしまったのだがそれは置き、僅かな時間で効率よく可愛がられ貯蓄をするべく奏は多種多様な工夫を自発的にするようになり、それが計算尽くの行動の土台になっていった。また僅かな時間しかないという制約は、久しぶりに会ったらとにかく可愛がられまくる土台にもなったのだが再度それは置き、奏にとって俺は積極性や自発性を最も発揮する者となった。然るに俺は奏が抜きんでて豊かな愛情の源泉を形成するにあたり、最も影響を及ぼした者にもなったのである。

 本体によると奏が他者へそそぐ愛情には、血縁の有無を度外視する強い傾向があるという。幼年学校に入学した奏が、前世を思い出していない同級生達を実の弟や妹のように世話した背景にも、それは関係しているそうだ。奏は誕生前に星務員として子供達の世話をしていてそれも背景の一部になっているが、星務員時代には「実の家族のように」は見られなかった。それが顕著な特徴になったのは今生であり、そしてそれを形作るきっかけになったのは俺らしい。奏は俺と血縁関係にないことを生物本能として察知し、にもかかわらず実の妹としか思えないほど可愛がってもらえたため、


「自分もそうしようとあの子は思ったのだよ」


 と本体は俺に言ったのである。

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