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名前を少し変えていますが「面白くて美味しい店」の店主さん及び店員さん達を、私は心から尊敬しています。

「食品や衣服を購入して代金を払ったり、労働の対価として給料をもらうような、日常生活に根差した経済を、地球の経済学者は実質経済と呼びます。対して株や相場や先物取引のような、いわゆるマネーゲームの経済を、地球の経済学者は資産経済と呼びます。そしてこの二つの経済に流通するお金を同胞の研究者達は区別し、『実質金』と『資産金』と呼んでいます。同胞達はお金は一種類ではなく、二種類あると考えているのですね。また同胞達は、地球人とお金の関りを六つの時代に分けています。空中に書きだしましょう」


1、お金のない時代。

2、物々交換の代役としての、実質金のみが存在する時代。

3、資産金が誕生し、資産金の額が実質金の額を遥かに上回る時代。

4、資産金が、徐々に減っていく時代。

5、感謝や敬意の代役としての、実質金のみが存在する時代。

6、お金が不要になる時代。


 母さんが空中に書きだしたのは、この六つだった。ちなみに「なぜ未来が判るのですか?」との問いに「アカシックレコードを見たからよ」と母さんは答え、俺は中二病が大爆発して大変だったが、母さんのみならず美雪と冴子ちゃんにも完全スルーされてしまった。ははは・・・・


「同胞達は善のお金を、感謝や敬意の代わりに流通するモノとしているわ。例えば心と技術の優れた農家さんが作った素晴らしい農作物を購入するさい、支払うお金には農家さんへの敬意と感謝が込められているわよね。その購入者が心と技術の優れた料理人で、素晴らしい農作物をもとに素晴らしい料理を作り、料理を食べたお客さんが幸せな時間を過ごしたら、お客さんの支払うお金にも感謝と敬意が込められている。その他にも、たとえば社会に有益な新商品を開発し、大勢の人々に感謝と敬意を抱かれたら、それが大きいほど開発者の手にする金額も増えるわ。このように感謝や敬意の代役として流通するお金には、人々を幸せにして心を成長させる力があると、私の同胞達も認めているのよ」


 俺は、秒間四回の首肯を数秒間続けた。納得と同意の深さを表現するには、これくらい高速で首を縦に振るしかなかったのである。


「お金の善用は実質経済の方が容易いけど、資産経済でも不可能ではないわ。たとえば大勢の困窮者を助けるための大金を資産経済で稼ぐ等は、善用だと私も思う。また実質経済もすべてが善ではなく、詐欺師が偽物を高値で売るように、悪人が悪事を働く場にもなるわね。だから実質経済が善で資産経済が悪なんて決して言わないけど、お金が人を宇宙一巧妙に支配する星として地球を有名にしたのは、資産経済なの。敬意や感謝という人の善性がなくても資産経済は成り立ち、かつ大金を稼げるため、善性の少ない支配階級にとって資産経済はまこと都合の良い経済だったのよ。実質金より資産金の方が比較にならないほど多いから、実質経済圏で善良な国民として実直に働く人々を、ほんの一握りの支配者が資産金で抑え込み、支配してしまっているのが地球。支配は学問や文化にまで及び、お金と概念の両方で国民を奴隷化しているのが地球。それに異を唱えても大半の学者は支配者の御用学者に交換済だし、心の救済を宗教やスピリチュアルに求めてもそれらは金まみれになって久しいし、地球より進化しているはずの宇宙人も、実質経済の善性をテレパシーで伝えてくるくらいしかできない。そんな温室育ちの宇宙人が地球を救うべく地球に転生しても、宇宙一の巧妙さにからめとられる可能性が非常に高い。実際、いわゆるミイラ取りがミイラになる数は、地球が一番多いからね」


 お金の正解キタ――ッ! と予知が当たってニッコニコになっていた俺は、油断していたらしい。かなりの難問を、唐突に出されてしまったのだ。


「翔、昨日と今日の私の話を基に、地球の卒業と日常生活を総括しなさい」


 ヒエエッとの叫びを辛うじて胸中だけに留めた俺はシュバッと挙手し、「総括するために一つだけ質問させてください」と懇願した。「まあ良いでしょう」 腕を組み上体を反らして鷹揚に答える母さんの大根役者振りが、やたら可愛かったのは後で考えるとして、問うた。


「前世のテレビ業界は凋落著しく、ほぼ見ない十数年を過ごしていましたが、『面白くて美味しい店』という番組だけは大好きで毎回楽しみにしていました。その番組で紹介された店主さんや従業員さん達は、もちろん全員ではありませんがお金の支配から・・・・」


 あの人達の素晴らしさを、俺は熱心に説いた。注文していない料理が無料で次々出てきて、赤字なのではないかと客が心配する店。ただでさえ安い価格設定なのに無料の料理をサービスされ、更に会計時に割引され、客が赤字を心配して割引を拒むと「騒ぐんじゃねえよ」と叱られてしまう店。お弁当を無料で配り、せめて百円にすればとの意見に「その百円を出せない人が今は大勢いるから」と答え、無料弁当を維持すべく店主がバイトに出かける店。刺激が欲しいと店主が半額シールを貼りまくり、エキサイティングしたいと商品をお土産として無料で配りまくり、長男がそれをしっかり継承している店。いかに多くの愛を込められるかを第一目標にして、自動車を誘導する従業員のいる店。それら、手を合わせて拝まずにはいられない店主や従業員を、母さんたちに俺は紹介していったのだ。美雪と冴子ちゃんもその人達に感心していたが、母さんはとりわけ感動したようだ。超能力でその番組を自分も見たらしく、宇宙一巧みに金が人を支配する星で金の支配を克服し、かつ商売を成り立たせているその人達に、母さんは惜しみない敬意を捧げていた。と同時に大笑いもしていたので嬉しくて堪らなくなった俺は、嬉しさを勇気に変えてダメもとで訊いてみた。


「母さん。イエスの磔刑について、ほんの少しでもいいですから教えて頂けませんか?」

「そうですね。素晴らしい人達の美しい行いを紹介され、楽しく幸せな気分にしてもらったのですから、対価として私も腹をくくりましょう」


 そうは言っても伏せねばならない箇所が今はまだ沢山あるの許してね、と両手をゴメンナサイの形にして、母さんは教えてくれた。


「アブラハムと彼の一族にアトランティスの叡智を授けたメルキゼデクは、彼らの子孫の前に自分が再び現れることを約束しました。叡智には心を成長させる方法ももちろん含まれていましたが、叡智が宗教になり1000年以上の歳月が経つと、心の重要性を宗教指導者達は忘れてしまいました。メルキゼデクの知識は彼らが二番目に重視するものでしかなくなり、その代わり最重視するようになったのが、ユダヤ民族における自分達の権威だったのです。個人的にはそうなった理由の一つは、いかに大聖者のメルキゼデクだろうと成人の物質肉体を創造して人々と交流するだけでは、人の心を十全に学べなかったのだと私は考えているわ」


 深呼吸を一つ挟み、講義は再開された。


「約束は果たされ、イエスが現れました。アトランティスの叡智を知識として保持していた宗教指導者達は、イエスが民衆に授ける教えに叡智が含まれていることを、きちんと判別できたの。その上で、宗教指導者達はこう考えた。『民衆が叡智を学んだら自分達の優位性が消え、権威を失ってしまうではないか』 それを何より恐れた彼らは、イエスをメルキゼデクの再来と認めない決定をした。これが、磔刑の背景ね」


 これ以上は話せない、という無言の圧力が母さんから放たれている。普段の俺ならその圧力にヘタレまくったはずだが、ある教えが脳裏をよぎるやそれどころでは無くなってしまった。成人男性二人が殴り合いの喧嘩をするのと、無垢な子供に成人男性が暴力を振るうのでは、悪果に天と地ほどの差が出る。ならば大聖者に冤罪を着せて殺害し、大聖者の教えを民衆が学ぶ機会を私利私欲のために奪ったら、果たしてどうなるのか? それこそがあの・・・・


「翔、そろそろ講義終了です。戻っていらっしゃい」


 ナデナデの感触を髪に感じた俺の耳に、美雪の声が届いた。美雪に礼を述べ母さんに詫び、考察の時間を30秒もらう。その30秒を使い頭の中で文を組み立て、「地球の卒業と日常生活を総括しなさい」を満たすことに辛うじて成功した俺は、それを発表した。


「正しい知識を暗記していても心の成長を疎かにしては、地球卒業の妨害になります。誤誘導された知識や間違った知識を植え込まれ、かつ心を成長させなかったら、妨害は甚大になるでしょう。それに対し、宇宙法則に沿う日常をひたすら生きたら、どうなるのか? しかも、宗教やスピリチュアルへの知識が皆無という状況が加われば、どうなるのか? イエスの言葉を借りるなら『地球卒業はその人達のものである』になると、僕は結論しました」


 さきほどを三倍するナデナデを髪に感じた事をもって、今日の講義は終了したのだった。

面白くて美味しい店の店主さん及び店員さん達は、お客様をそれはそれは大切にしています。にもかかわらず、その人達が主人公になるイベントに「駆け付けたお客様達」を、主催者は大切にしませんでした。自分達が一体なにをしたかを、主催者は理解していないように感じます。仮に理解していないなら、その人材の枯渇が、TV業界の凋落の主原因だと私は考えます。

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