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そう言って母さんは、肉体と、人の本体と、創造主の関係を落葉樹に譬えて教えてくれた。落葉樹の幹を創造主とするなら、幹から無数に枝分かれした枝の先端が、人の本体。幹と枝は規模が異なるだけで同じ細胞組織を持つように、創造主と人の本体は同種の範疇にある。しかし、枝の先端から延びる葉は、同種とは言えない。幹や枝とは違い落葉樹の葉は、秋に枯れて落ち葉になり、春に芽吹いて若葉となる。枝が幹と直接繋がっているのに対し、葉は幹と間接的に繋がっているだけ。三者には、このような違いがあるのだ。その葉と同種なのが、肉体。葉が若葉と落葉を繰り返すのと同様、肉体が新生児と死を繰り返すのは、肉体と本体が同種ではないからなのだそうだ。特殊な条件を満たさない限り人が前世を覚えていないのも、これで説明つく。心は葉の側にあるため、落葉時に心は本体から離れ、新芽と共に心も新しく芽吹くんだね。
そして人の本体である枝の先端と、肉体である葉を連結している器官が、松果体。然るに両者を連結する松果体は、窓であるとともに通路でもあると母さんは語った。それを聴きピンと閃めくも、講義中断を繰り返してはならない。よって口を閉じていたら、「自由に話してごらんなさい」と母さんは微笑んだ。その微笑みに嘘が一切ないことを松果体を介して教えてもらった俺は、閃きを質問文に変えて尋ねた。
「輝力は、本体の力なのでしょうか? また人のみに輝力があるのは、創造主と直結する本体を持つのが人のみだからでしょうか?」
「両方正解。でもこの星でそれを知っているのは原則20歳以上だから、それまでは秘密にしていてね」
首肯を終えるや全身を耳にした俺に再び微笑み、母さんは講義を進める。
「宇宙法則に沿う日常を生きるだけでも、松果体は活性化するわ。けどその活性化だけで本体を見るのは、難しいと言わざるを得ない。そういう場合は、亡くなってから新生児になるまでの間に見るの。つまり悟りは亡くなった後も可能で、そして悟りは地球卒業資格の習得でもあるから、その人はもっと過ごしやすい星に転生するのね。心から離れて心を穏やかに見つめる瞑想も、窓越しに本体を見やすくしてくれるわ。と言っても瞑想に異なる定義付けをしていたら、見やすくはならないんだけどね」
ここで母さんは、「日本は湧水に恵まれていたわね。湧水を翔は説明できる?」と唐突に問うてきた。暫し猶予をもらい、思い出した知識を頭の中で整理して答えた。
「別の場所から流れて来た地下水が、自然に湧き出ること。地表、地底、川床、湖底、海底を問わず、地下水が自動的に湧き出ていたら湧水だったと思います」
「正しいわ。ではその最初の文を、地下水を『思い』に、自然を『勝手』に置き換えて述べてみて」
母さんが無駄なことを俺にさせるなど絶対ない、と確信している俺はそのとおりにした。
「別の場所から流れて来た思いが、勝手に湧き出ること」
「ありがとう。そしてそれが、人の心の中でも起きている。この星ではそれを湧水に因んで、湧思と呼んでいるのよ」
母さんによると、心を無にすることを瞑想の定義にしている人達は、湧思に邪魔されて挫折することが多いらしい。それどころか湧思をエゴや本能や閃きや天啓等々と誤解し、かつそれを宗教的秘伝や霊的真実として広める人達が大勢いるせいで、宗教やスピリチュアルを基に悟りを開くことはほぼ不可能になってしまっているという。思い当たる節があり過ぎ、俺はガックリ肩を落とした。その丸まった背中を両側から優しく叩かれ、こりゃイカンと背筋を伸ばしたさい、やっと思い出した。そう言えばさっき美雪に右肩を叩いてもらったとき、美雪の手の感触をはっきり感じたよな。あれって・・・・
パンパンッと両頬を威勢よく叩き、改めて背筋を伸ばし聴く姿勢を整えた。そんな俺に女性陣は華やかに笑い、それを合図に講義が再開する。そして十秒と経たず、頬を叩いて気合を入れ直した自分を俺は褒めた。なぜなら母さんが、ぶっ飛びおったまげる事をさらっと言ったからだ。
「人の本体は、創造主と直結しているわ。でも人の本体を創造する前に創造主は、自分と間接的にしか繋がっていない霊存在を創造していてね。アトランティス本国ではその霊存在を、間接霊と呼んでいたの。間接霊は、物質宇宙の創造の欠くべからざる一員だったけど、物質宇宙が完成してしばらく経ったら問題が生じてしまった。その問題は今の翔には話せないから成長を待つとして、創造主は間接霊がネガティブの影響を受けないよう、七次元に間接霊たちを保護したの。それは第一時代に起こり、それから長い歳月が経つにつれ、間接霊は自分達を七次元存在と呼ぶようになっていったわ。間接霊の由来を知っていたアトランティス人は間接霊が七次元存在と自称しても誤解せず、またそれを見た間接霊も、七次元存在の自称は間接霊の公表と同義と認識した。その認識は今も続いているけど、人の方が変わってしまったの。アトランティス人は間接霊を知っていたけど、現在の地球人は知らない。悠久の時を生きた間接霊は莫大な知識を有していても、創造主と直結する本体を持たないため本体が絡む事柄についてはどこか的外れな発言しかできないことを、アトランティス人は知っていても現在の地球人は知らない。これが、前世の翔が七次元存在に違和感を覚えずにはいられなかった、仕組みね」
脳の処理能力を超えまくる話にフリーズ寸前になった軟弱ヘタレ者の俺を憐れんだ母さんが、食後のデザートとして、アトランティスの九次元建築物について話してくれた。以前母さんが言っていたように、地球人が数学に基づいて定義した次元は、宇宙の実情と異なる。「次元の数が多いほど高級」はその最たるもので、その証拠をアトランティス人が自分の目で直接見られるよう、九次元を建材にした建築物がアトランティスにたった一つだけあったという。その建築物の主目的はもちろん他にあるがそれは脇に置くとして、九次元は本来の非物質の性質を残したまま、物質の性質も付与できるらしい。つまり物質の性質を活かして建物の建材として使うと、非物質でもあるその建物は、いかなる物理攻撃も無効化できるのだそうだ。そう聞くと凄まじく優れた建材に思えるが、次元としては果たしてどうなのか? 「次元の数が多いほど高級」に反する筆頭事例のように感じるのが、俺の正直な感想だ。色も、非物質なので光を一切反射しない、完璧な漆黒をしているという。そんな不気味かつあり得ないほど巨大な建物を一目見るなり「次元の数が多いほど高級」が誤りなことを、アトランティス人は本能的に理解したと母さんは語っていた。
という話を聴いた永遠の中二病たる俺が、ぶっ飛びおったまげのフリーズ寸前から一転し、エネルギー満タンになったのは言うまでもない。その機を逃さず創造主のいる次元を俺自身に考察させ、正解に辿り着かせたのだから、母さんはまこと母神様なのだ。
「そうそう翔は、創造主がいるのは何次元と思う?」
「どわっ! まったく想像できませんヒントをください」
「ふむ、いいでしょう。創造主のいる次元以外の次元は、創造主の性質の一つが発現したものなの。距離が有って無い四次元も、時間を司る五次元も、宇宙の障壁として機能する六次元も、創造主がもともと持っていた性質なのね。
「ヒエッ! と臆してしまいましたが、まだ白旗は上げません。そのヒントから推測するに、創造主のいる次元は、すべての次元の性質が共存しているのでしょうか? 人の体内に心臓や肺や胃のような、異なる性質の臓器が助け合って共存しているように」
「その発想自体には高得点をあげられるけど、不正解と言わざるを得ないわね。各々の次元が各々の臓器のように働き、全体で一つの生命体になっているとする方が、実情にまだ近いでしょう」
「うわっ、間違えたお陰で新たな教えを頂けました。う~んでも、ますます分からなくなったというのが本音です」
「ヒント、もう一つ欲しい?」
「はい、欲しいです!!」
「次元の数と次元の高低が無関係なように、数は創造された順番でもないの。現に3の数字を冠する三次元物質世界は、最後に創られたしね。ただ創造された順番ではなく存在した順番なら、一つだけ例外が・・・・でもこれを言ったら正解になっちゃうから言えないわ。というのが、二つ目のヒント」
残念脳味噌なりに焼き切れるほど酷使した甲斐あって、ある推測を得られた。それを、恐れず述べてみる。
「創造された順番ではなく『存在した順番』なら、一つだけ例外があるんですよね。このことから『最初に存在した次元』に、最初の数字が充てられていると仮定します。最初の数字は1ですから、最初の次元は一次元。その一次元に創造主がいると再度仮定し、二次元以降の次元を創造していったとするなら、辻褄がすべて合います。以上により、創造主のいる次元は一次元だと僕は推測しました」
創造主のいる次元はなんと・・・・




