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 翌日の、午後5時。


「あら? 美雪の隣は今日から、冴子じゃないの?」

「母さんごめんなさい! 母さんの講義の邪魔は二度としませんから、どうか、どうか許してくださいませ―――ッッッ!!!」

「「アハハハハ~~~」」


 てな感じの、仕込みなのか仕込みではないのか定かでないやり取りを経て、母さんの講義は始まった。今日の内容は、アセンションについて。しかし昨日言っていたように、アセンションの説明に使える日常的な感覚はあまり多くないそうだ。

 と聞いていたのだけど、そこは母神様。冒頭から、内容はぶっ飛びまくっていた。


「アセンションは、成長した心が共鳴(・・)して、国単位や惑星単位で跳躍(・・)が起こることを指すの。お金になりやすいけど理解しにくい次元上昇という語彙を使わずとも、『成長した心』と『共鳴』と『跳躍』という日常的な語彙で説明可能な現象なのね。ところで翔、アトランティス沈没の理由とされる人心の荒廃がなぜ起こったか、知ってる?」

「前世の僕がよく耳にしたのは、『物質的な豊かさのみを求めたから』でした」

「そうね、確かにそれは当時の社会の描写として正しいと思うわ。では、それを加味して質問を変えましょう。アトランティスは、心の成長の跳躍を国単位で成しました。なのになぜ、物質的な豊かさのみを求める国民が増えたと思う?」

「・・・あれ? そういえば変ですね。物質的な豊かさを求めることと、心の成長。この二つは両立すると、僕は考えています。間違っていますか?」

「いいえ、間違ってないわ。両立すると私が保証しましょう」

「ありがとうございます。ということは、物質的な豊かさ『のみ』を求めたのが沈没を招いたんですよね。けどそれと心の成長は、反するようにどうしても感じてしまうんです。間違っていますか?」

「いいえ、間違ってない。ついでに言うと、『のみ』が沈没を招いたのも正しいわ」

「ありがとうございます。でも母さん、僕にはお手上げです。相反することがなぜ起こったのかを、想像することすら僕には無理みたいです」


 母さんはそんな俺を、正しい状態にあると評した。宇宙人を自称する者達が伝えるアセンションには決定的な情報が欠けているため、お手上げ状態になる方がむしろ正しいそうなのである。ならば話の流れ的に、その「欠けている決定的な情報」を母さんは教えてくれるに違いない。それが正しかったことが、母さんのこの教えで証明された。


「アセンションして心の成長がある段階に至ると、地球での学びを完了したとみなされ、地球を卒業してゆくの。この卒業は、亡くなってから新生児として誕生するまでにも行われてね。簡単に言うと次は地球ではなく、もっと平和で生活しやすい星に生まれるのよ。ではそれが、国家単位で行われたらどうなるのか? 最初の頃は、まだ良いと言えるわ。地球卒業間近まで心を成長させた人達が世界規模で集められ、新生児として新たな国民に加わるから、心の成長度の国家平均をさほど落とさずに済むのよ。でも集められたその人達も地球を卒業すると、国家平均は急落する。卒業間近の人がもういないため、心の未熟な人達ばかりが国民として生まれてくるようになるの。こうしてさっき翔が言った『物質的な豊かさのみ』を求める国民だらけに、なってしまうのね」


 そのとき俺の松果体が、雷と錯覚するほどの強烈な閃きを放った。高速高密度に凝縮されたその意識を苦労してほぐし、言語化して述べた。


「アトランティスには、超高度な機械が溢れていました。心の成長した人々はその機械を善用できましたが、未熟な人々は悪用する事しかできませんでした。巨大な力を有する機械を悪用することで創造された悪果は、巨大になります。しかもアトランティスでは国民の大多数がそれに手を染めたため悪果はとんでもない量になり、その一つの現れとして国土が海に沈んでしまった。母さん、こういう事でしょうか」

「百点満点~~と拍手したいところだけど、翔に今話せる範囲に限った百点満点ってことで許して。乗っ取りをかけてきた者達については、翔がもっと成長したら話すね」

「はい、承知しています。未熟な僕にこれほど高度な教えを授けて頂き、心から感謝します。そして同時に、もっともっと成長することで教えて頂ける範囲を広げていくことを、母さんに誓います」


 俺の真情を誓ったら母さんに喜んでもらえると思っていたのだけど、それは違った。母さんは、爆発する感情を必死で抑える形相を暫ししたのち、美雪に体を向けて深々と腰を折ったのである。


「美雪ごめん、理解していないのは私の方だったわ。翔のいじらしさと可愛さは、抱きしめずにはいられなくなる。前世も今生も血縁者を持たないことが加わると、狂おしいほど抱きしめたくなる。しかも翔は男の子でこれからどんどん大きくなるから、これが最後かもしれないって思ってしまうのね。ごめんなさい美雪、理解していないのは私の方だったわ」


 話題にされている当事者なのに、俺は何もできずオロオロするだけだった。だが、心配はしていなかった。この上なく優しくて情緒豊かな美雪が、母さんを放っておくなどあり得ないからだ。まさしくそのとおり美雪は母さんの隣にすっ跳んでいき、抱きしめ、そして二人そろって泣き始めたのである。これは母娘の親子愛の涙だから、心配する必要は皆無。俺は安心して、母さんと美雪を見つめていた。

 けど安心が度を越し、油断してしまったらしい。姉に抱きしめられるのは恥ずかしくても母親だったら、それほど恥ずかしくないかもしれない。はたから見ても、幼稚園を卒園したばかりの6歳児が30歳の母親に抱きしめられているだけだもんな。母さんも3D映像なんだし、俺が気にしているだけなのかもしれないな・・・・

 などと考えているのを、油断してまったく隠していなかったら、


「ちょっとアンタひょっとして、母さんは3Dだから気にし過ぎることはないとか、考えてるんじゃないでしょうね」


 といった具合に、冴子ちゃんに見抜かれてしまったんだね。けど胸中をこうも正確に見抜かれたのは、冴子ちゃんと強固な友情を築けている証拠。それにド直球を投げてくれる、いやそんなものではなく、槍で急所を躊躇なく貫いてくれる冴子ちゃん以上の相談相手は、滅多にいないはずだ。という訳で友情を築けている喜びに心を温められつつ、最高の相談相手の問いかけに俺はくっきり首肯した。


「うん、まさにそう考えている最中だった。僕、間違っているのかな?」

「ただの間違いではなく、大を付けて大間違いにしなきゃ正しくないわね。アンタは、大きな見落としをしているのよ」


 他ならぬ冴子ちゃんが言うのだからきっとそうなのだろうが、俺には見落としがさっぱり分からなかった。それを正直に告げると「それが翔の良いとこね」とニッコリ微笑み、冴子ちゃんは大きな見落としを教えてくれた。


「メルキゼデクが物質肉体を創造できるなら、母さんにも可能だと私は感じる。つまり翔は、子供保育用のシリコン胸のロボットに抱きしめられるどころではない、超絶美女の豊満な胸に抱きしめられる事になるのよ」


 パニックになった俺は冴子ちゃんにすがって助けを求めた。そんな俺の頭を「あ~はいはい、安心して大丈夫よ」と、冴子ちゃんはまるで双子の姉のように優しく優しく撫でてくれる。よくよく考えたら、それは当然のことだった。冴子ちゃんは800年以上生きているんだから、お姉さんと感じても不思議はなかったのである。けどそう伝えたとたん「女性に年齢の話をするんじゃないわよ!」と、頭をぶっ叩かれてしまったけどさ。あははは・・・・

 そうこうするうち、母さんと美雪に落ち着きが戻った。美雪をテーブルの向こうに残したまま、講義が再開する。


「さて次は、跳躍について説明しましょう。とその前に、第六感と呼ぶべきものが科学的に発見済みなのを、翔は知ってる?」

アセンションは、成長した心が共鳴することにより、国単位や惑星単位で成長の跳躍が起こること。するとその後、平均成長度が一気に下がって長期的な暗黒時代に突入するのですが、それをしっかり説明している宇宙人っているのかなあ?

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