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 同意です素晴らしいです、と俺は首を縦に大きく振った。俺に子供はいなかったけど、孤児院の年長者として小さな子と無数に接してきた経験が、その言葉の正しさを実感させてくれたのだ。お兄ちゃんお兄ちゃんと俺を慕ってくれた子供達が、脳裏に次々浮かんでくる。俺が急に死んで、あいつらに迷惑かけたかな? 海難事故に遭った小学生十人を助けて亡くなったから、兄ちゃんらしいって笑顔になってくれたらいいなあ・・・・

 と瞑目して前世をしみじみ回想していたら、周囲が無音なことに気づいた。慌てて瞼を開けた俺の目に、俺の回想を邪魔せず待っていてくれた母さんが飛び込んでくる。平謝りする俺の頭を優しく撫でる母さんに、厳しく接してもらえる日が果たして来るのかな? そんなことを考えつつ、母さんの講義に耳を傾けた。


「アトランティスの叡智はエジプトとギリシャを経由し、中世ヨーロッパにほんの僅か伝わっていてね。五光と六光のバランスは天秤として表現され、裁判所の象徴に使われているわ。古代の叡智をより正確に継承した天秤は、法の女神のテミスが手に持って掲げている、上から吊り下げる形状をしているの。この形状は三角形に見立てられ、その三角形の頂点にあるのが、四光の美。四光と五光と六光が成す第二界に形はなく、よって最初に創造された美は形のない概念であり、それは慈悲と正義のバランスがとれた状態とされた。優しさと厳しさを織り交ぜて育てられた子の心が魅力的なのは、第二界の宇宙法則に沿っているから、つまり心が美しいからなのね」


 うんうんそうだった、孤児院の弟や妹たちは心が美しかった! などと嬉しさに浸っていたのは、油断だったのだろうか。


「翔なら、今提供した情報だけで正解に辿り着けるわ。頑張って!」


 母さんにそう、促されてしまったのである。いやいやこの促しは、厳しさの一端に違いない。ならばそれに、全力で応えるのみ! と自分に活を入れて俺は応えた。


「日本人は名前を、先祖から受け継いだ姓を先に、名を後に表記します。これと同じ姓名表記をする、カバラを熟知した偉大な国が超古代にあったとします。その国に姓が四画のAさんがいて、長子が生まれたさいAさんはこう思いました。『子供の名前を二文字にして、一文字目を五画、二文字目を六画にすれば、4と5と6が揃うぞ』 慈悲と正義のバランスを取る重要性を熟知していたAさんはバランスを心がけて子育てに励み、それが実ってお子さんは、とても美しい心を持つようになりました。その国ではカバラが熟知されていましたから周囲の人達はAさんを称え、またAさんと同種の命名をして子育てに励む人達も、その国には大勢いました」


 プレゼンには抑揚が大切。軽めの深呼吸を一つし、一拍空けてから話を再開した。


「しかしその国が滅びて長い年月が経つと、周辺地域で妙なことが起こり始めました。数自体(・・)に意味があり、それが宇宙に影響を及ぼしているという考えが広がり始めたのです。理由は、カバラを継承していない事にありました。継承していれば、五光が顕現させた慈悲や、六光が顕現させた正義が宇宙に影響を及ぼしていると理解できたのに、周辺地域はそれを継承していませんでした。よって顕現ではなく、数自体に意味があり宇宙に影響を及ぼしていると、人々は誤解してしまったのです。『5という数自体に慈悲の力があるから、5月5日に生まれた子は非常に慈悲深い』のような感じですね。これが巡り巡って、数秘術として確立し世に広まった。カバラ数秘術は、そういう経緯で誕生したのではないかと僕は推測します」


 母さんは「翔の説に私も賛同します」と微笑んだのち、憂いの若干ある顔をして、現在の地球に広まっている十光を空中に映した。続いて数秘術5が意味する、活動的、好奇心旺盛、自由を愛し束縛を苦手とする、等々も映していく。地球の十光における五番目は正義・・・・あ!!


「翔も気づいたようね。活動的、好奇心旺盛、自由を愛し束縛を苦手とするという性格は、正義から派生したように私も思うわ。これも、翔の説に賛同する理由なのよ」


 地球の十光は順番が入れ替わっていても、研究者達がカバラを誠実に学んだのは変わらないんだな。う~んでもそれだと、母さんの憂い顔を説明できないんだよなあ。

 などと首を捻っていた俺の目に、感情を押し込めた美雪の横顔が映った。と同時に、押し込められた感情を十全に理解した俺は、ダメ弟にはもったいなさ過ぎの姉に心の中で語り掛けた。姉ちゃん安心して、姉ちゃんの代わりに俺が質問するよ!


「母さん、もう一つ質問して良いですか?」

「いいわよ、どうぞ」

「母さんはさっき、法の女神が掲げる天秤について教えてくれましたよね。僕はそのとき、アトランティスの叡智とカバラを母さんが同一視しているように感じたんです。そう感じたのは、間違っていますか?」


 そのとたん「翔ありがとう!」と美雪が俺を抱きしめた。抱きしめられたのは嬉しくても、そこに胸ギュウギュウを加えられると困ってしまうのが本音だ。でも、弟が受けている講義に自分が割り込んで弟の邪魔をしてはならないと、姉が質問を我慢してくれていたのも事実。そしてそんな姉に弟がしてあげられる恩返しは、胸ギュウギュウを我慢することしかないのも、また事実だったのである。かくして困りつつも我慢していたら、期待していたとおり冴子ちゃんが助けてくれた。


「美雪、そろそろ止めないと母さんの講義を邪魔した罰として、私と翔の席を今後ずっと入れ替えるわよ」

「ヒエエッ、ごめんなさい~~!!」


 ヘタレ弟と同じく私もヘタレ姉でございますとばかりに、美雪は椅子に座ってする土下座を繰り返した。それがあまりにも俺に似ていて、モノマネされている俺自身がブハッと噴き出してしまう。釣られて冴子ちゃんと母さんも噴き出し、テーブルに笑いが満ちた。その笑いをもって罪を相殺したと認めたのだろう、母さんは笑顔のまま俺に向き直り、さきほどの質問に答えてくれた。


「そうよ、アンティリア人の私にとって、アトランティスの叡智とカバラは同一なの」


 母さんは時計にチラッと目をやる。そして「時間も残り少ないことだし、この話題を今日の講義の締めくくりにしましょう」と前置きし、美雪と冴子ちゃんが聴きたくてならなかった自分の出自に関わる話をした。


「アトランティス本国の人々にとっての恒星間飛行を、翔の前世の地球人に譬えるなら、ジャンボ旅客機の旅でしかなかったわ。でもそれほど高度な科学技術も、アトランティス人が最重視した学問ではなくてね。最重視したのは、宇宙の神秘を解明することだったの。片道6万光年の旅がバカンスでしかないアトランティス人にとっての宇宙の神秘は、地球人にとってのオカルトやスピリチュアルとは似ても似つかなかった。それは数多の天才達が生涯を費やすに値する、『創造主の意図を解析する学問』だったのよ」


 母さんによると、当時の最高傑作の攻撃型宇宙船が地球にまだ保管されているという。それは黙示録の騎兵隊を駆逐するための兵器らしく、永遠の中二病患者の俺は詳細を知りたくて気が狂いそうだったが、「翔が戦士歴100年になったら話せるかもね」と言われたら我慢するしかない。戦士には輝力が必須であり、そして母さんの講義は輝力の量と質を向上させてくれるから、我慢しやすかったのが救いだった。


「創造主の意図の解析は、アンティリア島でももちろん行われていたわ。アトランティスとアンティリアの沈没後は進捗の低下を免れなかったけど、その代わりアンティリアの学者達は集団でアトランティスの植民地を巡り、人々の心の成長を助ける仕事を始めたの。それは、かつての植民地人が自分達の出自を忘れるほどの時間が経過しても、続けられていたわね」


 アトランティスの主要な植民地は地中海と大西洋側にあり、太平洋とインド洋にはなかったらしい。それには太平洋上にあったとされるムーが、関わっているのだろうか? そういえばアトランティスの直系子孫は地表からすでに消えているけど、ムーの直系子孫も消えているのかな? などと質問したい自分を蹴り飛ばし、母さんの話に耳を傾けた。


「アンティリア学派が始めたその仕事に、大聖者の一人がしばしば同行してね。といってもその大聖者は肉体を持っていなかったから、同行する毎に物質肉体を創造していたわ。その人が、キリスト教の聖書にちょこっと出てくるメルキゼデク。そのメルキゼデクがアブラハムに教えた『創造主の意図を解析する学問』を、地球人はカバラと呼んでいるの。アンティリアの学者を両親に持つ私にとって、アトランティスの叡智とカバラが同一なのは、こういう事なのよ」


 そう締めくくった母さんに、盛大な拍手とやんやの歓声が上がった。前回同様、母さんは照れ照れになる。その可愛さにいや増した拍手と歓声をもって、今日の講義は終了したのだった。

黙示録の騎兵隊を駆逐すべく保管された、アトランティス最高の攻撃型宇宙船・・・・永遠の中二病として、鼻血が出そうですww

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