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「翔にいろいろ教えてもらったお陰で」「私達は子供に、人間性と戦士の両方で英才教育を施せているの」「自分で言うのもなんだがウチの子は非常に良くできた子で」「でもそれってただの親の贔屓目なのだろうって思っていたけど」「こうして他の子たちとも交流したら」「贔屓目じゃなく、非常に優れた子たちが合同結婚式の仲間達のもとに生まれて来たんだって分かった」「そんで一応、皆と話し合ってみたら」「すぐ同意を得られたの」「人間性と戦士の両方で俺達は英才教育を施せてあげられるから」「非常に優れた子たちが私達を親に選んでくれたんだって、皆の意見が一致したのね」「俺達がそうだったように、この子たちも素晴らしい伴侶に出会い」「素晴らしい青春時代を過ごすはず」「青春時代の集大成の合同結婚式で『最愛の人のもとに帰って来る』を、この子たちにも経験させてあげたいんだ」「人類存続のために戦う覚悟はできていても、やはりこの子たちには生還してもらいたいからね」「という訳で、いろいろありがとな翔」「ホントそうだわ。ここにいる全員が同じ想いだから、さあ一緒に!」「「「「翔、ありがとう!!」」」」
今回の件は大変なことが幾つかあったけど、最も大変だったのは皆の「ありがとう」に、涙がどうしても止まらなかったことだよなあ。
なんて感じに、結局最後は幸せな俺なのだった。
――――――
約四か月後の、4月1日。
偶然開催された「第一回妖精を見る集り」は年始の出来事だったため翌年ではなく同じ年の、戦士養成学校の入学試験の日。
当然と言えばそれまでなのだが昇は試験に合格し、戦士養成学校の生徒になった。繰り返しになるが合格して当然でも、やはり嬉しいものだ。給料の使い道が無かったためお祝いを奮発することにし、アレにしようかそれともコレにしようかと考えていたところ、ふと閃いた。超山脈北麓にある、この星トップ3常連のレストランに皆を招待しようかな、と。
しかしそれには、難問が二つあった。一つは予約を取るのが非常に難しいこと、もう一つは今年行ったら来年8月5日にも必ず行かなければならないことだ。奏も来年、間違いなく戦士養成学校に入学する。ならば奏もあのレストランに連れて行かねば可哀そうだが、2年生の昇と1年生の奏の夏季休暇が重なるのは、8月5日しかないんだよね。つまり昇の今年の夏季休暇中に予約を取るだけでなく、来年の日付指定予約も合わせて取らねばならないのである。これって確率的に、ほぼ0%なのだろうな・・・
と項垂れていたのだけど、頭をガバッと跳ね上げた。あのレストランの来客者を選ぶのは、妖精達だったことを思い出したのである。光明をはっきり見た俺は、春雄さんと奥様の謡さんにメールを出した。続いてレストランのHPを参考に予約票を自筆し、昼休みを利用して超山脈北麓へ飛んだ。昼時だったので春雄さんと謡さんには会えなかったが担当従業員に予約票を提出し、駐車場で超山脈に手を合わせた。無数の妖精達が返事をしてくれたのを明瞭に感じるも、皆をぬか喜びさせる訳にはいかない。予約票を提出したことを春雄さん夫妻に再度メールし、俺は超山脈を後にした。
夕方、「予約票を紐で吊るしたとたん前代未聞のことが起きたよ」と、夫妻は楽しくてならないといった体で連絡をくれた。俺が自筆した予約票を紐で吊るすなり、風も吹いていないのに紐が切れたらしいのだ。紐が切れたら当選なのだけど無風だったため紐の不具合と担当従業員は判断し、俺の予約票は再び吊るされる運びとなった。すると超山脈からゴ~という音がして、砂や落ち葉を巻き上げつつ縦に細長い風が吹いて来て、俺の予約票の紐だけを切るや風はかき消えたそうなのである。あまりのことに支配人が呼ばれ従業員が事情を説明したところ、「君は何年ここで働いているのかね」と厳重注意されたという。従業員さんに申し訳なく思っていたら「プロ意識がなかったと本人も反省しているからあれで良かったんだよ」と、春雄さんはプロの表情で断言した。続いて、
「「今年8月5日と来年8月5日、翔様10名の来店を従業員一同心よりお待ちしています」」
春雄さんと謡さんはそう声を揃え、通信を切ったのだった。
かくして予約は取れた。のだけど、ぬか喜びさせるのは忍びなかったから、俺以外の9人にこの件をまったく相談していなかったんだよね。どうか皆の都合が付きますようにと両手を合わせて拝みつつメールを送信したところ、まさしく杞憂だった。予定は無いけど予定が入ろうとそちらを断ってレストランで食事すると、判を押したように全員が返してきたのだ。特に小鳥姉さんと舞ちゃんの熱量は群を抜いており、小鳥姉さんは同業者として多大な関心を抱いていたのに抽選で当たったことがなく、舞ちゃんは今回初めて知ったのだが「私だけ食べてない」と事あるごとに愚痴を零していたそうなのである。組織に属する小鳥姉さんが抽選に漏れるのは不可解ゆえ後で原因究明するとして、舞ちゃんは後回しにできない。「私だけ」というのは正しくなく、深森家や霧島家の人々も含まれるのだけど、食べ物の恨みは恐ろしいという事なのだろうな。
との理由により4月1日の晩、俺は勇と舞ちゃんの宿舎を訪ねた。夫婦揃って戦士の割合が99%を超える人類軍は夫婦用や家族用の宿舎を多数所有し、そこに戦士は飛行車を無料貸与されるという政策が加わった結果、「ここって宿舎なの?」と首を傾げたくなるお洒落な家から基地へ通う戦士が出現することになった。勇と舞ちゃんもそれに該当し、今は森の湖畔の別荘と見まごうばかりの家に住んでいる。前世が森のエルフだった舞ちゃんは木々を身近に感じられる方がやはり落ち着くらしく、そして勇は自他ともに認める愛妻家だったため、愛妻の好みに100%沿う家へ引っ越したという訳だね。とはいえ別荘系宿舎は人気が非常に高く、応募しても落選する人が多いのだけど、勇と舞ちゃんは夫婦そろって実績が認められめでたく当選となった。勇は教官として教え子たちの戦闘順位を目まぐるしく上げ、舞ちゃんは寮や合宿所の食事に人気メニューを複数考案したのである。毎日ヘロヘロになるまで訓練する育ち盛りかつ食べ盛りの子供達にとって、寮や合宿所の食事は超が三つ付くほど重要。それは俺も身に染みており、「今日の夕飯は大好物のアレだ!」というだけで訓練に気合が入るのが、戦士養成学校の生徒なのだ。軍もそれを知っているので高品質の食事を用意してくれるのだけど、7年間の寮生活で供給される食事は7千を優に超える。過酷な超山脈合宿では食事の重要度が更に高まるため、美味しく栄養価が高く消化しやすいメニューを人類軍は絶えず求めている。舞ちゃんはそれに応え、人気メニューを複数考案したのが高く評価されたということ。美味しい食事にありついた時の生徒達の笑顔を実体験で知っている身として、俺は舞ちゃんに巨大な敬意と感謝を捧げていたのだった。が、
「本当にそうなら、もっと顔を見せなさいよ」