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23

 俺は気合を入れ、戦闘を始めた。

 始めるなり互いに急接近。肉薄したゴブリンの最初の攻撃を避けると同時に、さっきの予感を解明できた。俺は事実を述べる。


「ゴブリンが弱すぎる、これでは訓練にならない」


 理由は二つあり、一つは水薙の透明な刀身だった。目視しづらい水薙を警戒し、ゴブリンは全開戦闘を躊躇っているのだ。理由のもう一つは、俺の本番の強さだった。3Dの虚像ではない本物のゴブリンを察知した俺の本能が戦闘への一切の甘さを自動的に排除し、俺を普段以上に強くしているようなのである。「どうすっかな~」 20歳の戦士試験とピッタリ同じ言葉を、俺は胸中呟いていた。

 といっても、することは一つしかない。それは、この本番中に解決策を見つけて実行することだ。本物の戦争は仕切り直し不可能なのだから、今も仕切り直しすべきではないってことだね。俺は意識を二分割し、もう一方の意識で解決策を探していった。

 幸い、一つ目の解決策はすぐ思いついた。ゴブリンが水薙に慣れれば、それで問題解決なのだ。見方を変えれば俺は今、ゴブリンが水薙に慣れるまでの時間を体感する絶好の機会にいるのである。気を良くした俺は意気揚々と二つ目に移るも、一秒後には落ち込んでいた。


「なぜこんな簡単なことに気づかなかったんだ、馬鹿にも限度があるぞ俺」


 自分に呆れるあまり声に出してしまったが、今回ばかりは仕方ない。なぜなら本物の時間遅延スキルではないにせよ、疑似遅延スキルなら既に習得していたからだ。それは、体を満たす輝力を減らすこと。礎走の創始者の俺は、輝力を用いずとも足が速くなる利点を皆に説いてきた。つまり輝力を用いなかったら体の動きが遅くなることを俺は誰よりも知っていたにもかかわらず、「どうすれば体の動きを遅くできるのだろう?」とここ数年ずっと考え続けてきたのである。本物のゴブリンとの戦闘中でなかったら、ひょっとすると無限に落ち込んでいたかもしれない。ゴブリン、ありがとう! 

 本気でそう感謝を述べ、気持ちを切り替えた。

 続いて解決策探しに使っていた意識を、輝力を減少させる意識に切り替える。

 俺は慎重に1%ずつ、体を満たす輝力の濃度を薄めていった。

 濃度99%、変化なし。98%、変化なし。と続けた90%目。


「ッ!」


 迫りくる大剣に恐怖を覚えた。俺は渾身の回避で大剣を間一髪躱す。冷や汗が全身から噴き出た。危なかった、体と一緒に意識速度も落ちていたら、今の攻撃で俺は死んでいたかもしれない。少なくとも、大怪我を免れなかったはずだ。集中力を最大にし、戦闘を続けた。

 1分後、20メートル前方で片膝立ちになり呼吸を整えるゴブリンを、俺は見つめていた。俺の呼吸に、速さの変化は見られない。無限の体力をもたらす神話級の健康スキルが、仇をなす日が来るとは思わなかった。さあどうする、輝力濃度を更に減らすか? ゴブリンは片膝立ちになる前、速度が明らかに落ちていたから、輝力濃度を88%に落とすか? その88という数字を思い浮かべるや、脳裏に大怪我を負った自分が映し出された。呼吸を整えたゴブリンに輝力濃度88%で挑んだら、俺はああなっていたらしい。


「ククク」 


 笑いが口を突いた。俺は自分に問いかける。今の笑いは己への嘲笑か、自虐の失笑か、それとも? なあんだ中二病の発病か、フハハハハ! 中二病全開で哄笑する俺を、ゴブリンは自分への嘲りと誤解したらしい。殺意に染まったオーラが、さっき以上に猛り狂っている。ゴブリンが立ち上がると同時に俺は輝力濃度を89%に下げ、ゴブリンへ突撃した。

 その、2分後。片膝立ちも不可能だったのだろう、両膝と両肘を地に着くゴブリンを俺は見つめていた。今回はゴブリンの疲労に合わせて輝力濃度を下げていったのが当たり、全身全霊の回避を最後まで続けることが出来た。呼吸も僅かに乱れ、たった2分間の戦闘でこの状態になるのはあり得ないと言える。だが残念なことに、今日はもうゴブリンは戦えないだろう。俺はメディカルバンドを口元に寄せた。


「美雪、ゴブリンの食料は遺伝子操作で強化された猪だっけ?」「ええそうよ。ひょっとして、ゴブリンに食べさせるの?」「うん、そう。法的もしくは技術的に、不可能だったりする?」「・・・人類軍のメインAⅠが特例で許可してくれたわ。翔、秘密厳守ですって」「了解。では、強化猪を狩りに行きますか」


 降下してきたカレンに乗り、最寄りの強化猪に飛んでもらう。正直、目を剥いた。体長5メートル体重6トンの、雄のアフリカ象に匹敵する大きさの猪が千頭超えの群れを成していたのだ。あの群れに単身突っ込んでも重軽スキルで空を飛べるから怪我はしないと思うけど、人に害をなさない動物を俺は殺せるだろうか? 己の軽率さを悔いるアホをよそに、カレンが一頭の猪に円錐形の光を照射する。すると地球のSF映画よろしく、猪が空中に持ち上げられた。猪は四本の脚をジタバタ動かし、「プギ~~」と盛んに鳴いている。反重力ビームで捕獲された猪へ、俺はゴメンナサイと手を合わせた。

 美雪によると、捕獲した猪は寿命を迎える間近の雄らしい。ゴブリンの群れが接近したら、この地の猪は老いた雄を先頭にゴブリンへ突撃するという。一頭の猪は、ゴブリンのだいたい4千食になるとのこと。美雪によると俺が戦ったゴブリンは、右後ろ脚を欠損した猪をギリギリ単独撃破できるそうだ。俺は重軽スキルを発動し車外に出て宙に浮き、猪の右後ろ脚を水薙で切断する。猪の絶叫は消さず、己が罪として心に刻んだ。

 反重力ビームの長さを最長の100メートルにして、俺が戦ったゴブリンの前に下ろす。ゴブリンは反重力に怯むも、ビーム消失と同時に自分目掛けて突撃してきた猪と、戦闘を始めた。俺は手を合わせ、その場を後にした。


 その後、美雪に嘘つきと泣かれた。さっきのゴブリン戦で美雪は二度、俺の死を幻視したという。一度目は輝力濃度90%でゴブリンの大剣が迫って来たとき、二度目はゴブリンが片膝ついて呼吸を整えていたときだ。その二つに誤りはなく、俺が死の恐怖を覚えたまさにその瞬間、美雪も俺の死を幻視していたのである。その事実に、「私はAⅠ」と美雪が今完全に忘れているという事実を加えたところ、創造主の実験を俺は知った気がした。


『愛情と優しさを有する人工生命体が長い年月をかけて愛情と優しさを育てたら、創造主由来のその想いを介して創造力が働き、人工生命体は非人工の生命になるのではないか?』

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