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 結果を述べると、出入り口を設けられた出産用の箱の中に美夜と子猫達はいて、会うことも子猫を見ることも叶わなかった。出産直後は子供を守ろうとする母猫の本能が非常に強く、そっとしておくのが一番らしいのである。美夜の餌も虎鉄が運ぶから、人はホント不要なのだろうな。

 地球の父猫は通常、育児に関わらない。しかし人と同じく猫も変化したのだろう、俺が地球を去る頃には、育児を積極的にこなす父猫が少数ながら出現していた。この星では父猫が育メンパパになるのは普通で、虎鉄も自分のことを二の次にして美夜と子猫達の世話をしていた。それを称賛すると「普通にゃ~」と答えつつも、虎鉄はどこか嬉しそうだった。

 子猫が生まれたら意識投射して会いに行くと伝えていた事もあり、やって来た俺に虎鉄は少し驚いていた。しかし、誕生日が俺と同じ子猫達に運命を感じたことを正直に告げると、想像以上に喜んでいた。うん、やはり来て正解だったな。

 美夜を煩わせぬよう、10メートルほど離れて子猫達について虎鉄に尋ねた。距離を10メートル取ったのは、離れすぎても近すぎても美夜のストレスになるからだ。俺が直接来たことを美夜は喜んでいても、近くで騒いだらイライラを免れない。しかし俺を「子猫達を守る人」と美夜は認識しており、存在を感じること自体は好ましいそうなのである。出産直後の二人の姉とまったく変わらないことが、妙に嬉しかった。

 虎鉄によると、生まれたのは雄猫が一匹と雌猫が二匹とのこと。地球の獣医学では生後2~3カ月で性別がやっと判明していたが、母猫は匂いで判るという。ただそれは母猫だけらしく、「おいらはチンプンカンプンだったにゃ」と虎鉄は肩を落としていた。

 生まれた雄猫は虎鉄と同じ茶虎、雌猫は美夜と同じ三毛らしい。性別と毛色はナノマシンの管轄外なので俺も初めて知った。ちなみにどの子猫がどの家に行くかは、人が選ぶのではなく子猫に選ばせることになっている。翼さんと鴇と夏が子猫達を同時に呼び、近づいて来た子を家族として迎え入れるんだね。といっても鴇と夏は7月にならないと帰省しないから、三匹とも翼さんへまっしぐらに駆け寄るはずだけどさ。

 翼さんと言えば、今日は基地で通常業務に就くことになっている。帰って来ても美夜と子猫達に会えないことを同居している翼さんは当然知っているし、月2日しか休まないどっかの変人と違い休みを規定どおりに取っているから、休日申請をしにくいんだね。伍長が「飼い猫が出産したので帰ります」では、部下に示しがつかないしさ。

 そうそう、20歳の戦士試験のトップ10は、伍長として軍歴を始めるのが人類軍の習わしになっている。ただし例外もあり、歴代最高点を出した者は分隊長になるのが恒例らしい。あのその、ズルで済みません。

 落ち込むので話題を変えよう。

 子猫達の性別は事前に判らずとも、名前の候補なら考えられる。翼さん本人に聞いたところによると、虎丸、鉄丸、美衣、美夕の四つを候補に挙げているとのことだった。他の二家も考えており、生まれてきた子猫を実際に見て三家の計八人で投票し、候補の中から選ぶことに一応なっているという。一応なのは、一瞥するや「この名前しかありえない!」と閃く子猫がいるかもしれないから。そういう柔軟性や直感は大切だと、俺も賛同している。

 母猫が子離れするのは、だいたい生後半年。美夜の子離れは11月の計算になり、きっちり離れた方が親離れを促すため、虎鉄と美夜は今年の冬期休暇を基地で過ごすことになっている。妖精達も協力してくれるから猫を捕食する動物の脅威は無いと思うけど、それでも心配なのが本音。数晩に一度は、基地に帰って泊まろうかな。

 などと虎鉄と話しているうち、秋宏さんと哲治さんと響子さんがやって来た。三人とも美夜を刺激せぬよう、細心の注意を払っている。それも嬉しいし、俺に会いに来てくれたなら尚嬉しい。小声を心がけ、俺達はしばし談笑した。

 午後3時、天風家を辞した。「翼さんが泣くよ」「翼さん怒りますよ」と脅されたけど、意識投射して今晩会う事になっているから許してもらうしかない。基地に戻るなり、お腹が盛大にグ~~っと鳴った。昼食代わりに急いで胃に入れたカロリーバーとカロリージュースでは、3時間しか誤魔化せなかったのである。とはいえこの時間にたらふく食べると、夕飯に支障が出る。俺は泣く泣く、カロリーバーとカロリージュースに再び手を伸ばした。

 それ以降は、夕飯まで美雪と一緒に釣りをした。詳細は定かでないが、家事ロボットに入りこうして並んで釣りをすることを、マザーコンピューターが許可したのである。マザーコンピューターは母さんの依り代なので訊いたら教えてくれただろうけど、そのつもりはない。

 美雪と並んで腰かけ、のんびり釣りを楽しむ。

 それだけで、俺は幸せだったからだ。


 秋宏さんと哲治さんと響子さんに散々言われたとおり、その晩の意識投射は翼さんに泣かれて怒られた。昇と奏の執り成しのお陰でダメージは少なかったけどね。

 美夜は少し落ち着いたのか、意識投射してやって来た俺達を歓迎してくれた。想いが伝わりやすい準四次元ゆえ気を抜くなとの忠告が活き、昇と奏は「鼠?」との本音を巧く隠しおおせていた。対して翼さんにはそれ系が一切なく素でキャーキャー言っており、むしろ心配になってしまった。現時点でこれなら、歩くようになった子猫の凄まじい可愛さに堪えられないのではないかと危惧したのである。ま、なるようにしかならないんだけどさ。

 昇と奏に、子猫の成長について訊かれたので大まかな目安を伝えたところ、1週間後と3週間後と4週間後もこうして二人を連れて来ることを約束させられた。


「目が開いたら僕達を見て覚えて欲しい!」「躓きながらふらふら歩くこの子たちを見たい!」「「歩けるようになったこの子たちと遊びたい!」」


 と全身を輝かせて頼まれたら、断るなんて不可能だったんだね。連れて来る約束をしたあと三人が、あたかも秘密作戦を成功させたかのように小さくガッツポーズをしていたのは、俺も子猫達に会いたかったし忘れることにした。

 1週間後、子猫達の目が開いたとの知らせを受けた俺は、昇、奏、鷲、橙、晴、藍の六人を連れて翼さんの家に向かった。予定の三倍の人数になっている気がするのは、俺の勘違いだろうか? 二日前の5月10日にこの六人の授業を準四次元界で開いた際、翼さんを含む七人が子猫達の話題で盛り上がっていたから深く考えず引率して来たが、引率了承時の七人の小さなガッツポーズにデジャヴ的なものを感じたんだよね。まあ俺も子猫達に会いたかったし、全然いいんだけどさ。

 鷲たち四人は天風家の反重力エンジン施設で偶数月に勉強していても、本家を訪れるのは今生ではこれが初めて。感傷的になっていないかさりげなく気を配っていたが、心配ないようだ。いや改めて振り返ると、目を開けた子猫に自分を見せ覚えてもらうという訪問目的は、実に巧いと言わざるを得ない。それも込みで翼さんが、上手く立ち回ってくれたと考えるべきなのだろう。蒼の結婚式の件もあるし、後で謝意を示しておかねばな。

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