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 6秒で息を整え、立ち上がる。立ち上がった3秒後に第二戦開始。辛勝二歩手前で戦闘を終え、再び片膝立ちになる。8秒で息を整え立ち上がり、1秒後に第三戦開始。辛勝一歩手前で戦闘を終え、三度目の片膝立ちになった。マズイ、第四戦までに呼吸を整えられそうもない。16圧のような低比率圧縮では、呼吸を整える時間を確保できないということか。実際にしてみて初めて発見することって、やはりあるんだな。

 呼吸を整えられぬまま立ち上がり、第四戦開始。辛勝した途端、両膝を地に着き前のめりに俯いた。そのまま第五戦を開始し、訝しむゴブリンを利用し呼吸を整えていく。慎重に近づいてくるゴブリンの警戒心を利用し、更に時間を稼ぐ。それが功を奏し第五戦に勝利するも、幸運は二度続かなかった。美雪の「今の戦闘を見ていたゴブリンが、次の相手ね」の言葉どおり、両膝を地に着くや突撃してきたのだ。死力を尽くして戦うも、第六戦は敗北。大の字になって地面に横たわり、夕暮れ色に染まり始めた空を見つめつつ計画を立てた。

 このゴブリンに100連勝する、計画を。


 結局その日は、最初の5連勝が最高記録だった。午後6時、足腰立たなくなった体に鞭を打ち、カロリージュースとカロリーバーを地べたに座ったまま口に放り込んでいく。2セットを胃に詰め込むや横たわり、回復と消化吸収に専念。6時20分に起き上がり、体育館で5分間の自動洗浄シャワーを浴び、生活スペースの椅子に身を沈めた。ようやく体が動くようになるも、予感がしたので美雪に訊いてみた。


「午後9時に定時連絡をしたら、明朝までに回復が間に合わない気がする。定時連絡を早められないかな?」「空分隊長の本日の訓練とバイタルを軍AIに送り、許可を得ました。就寝前に連絡すれば良いそうです」「ありがとう美雪」「私の仕事ですから」


 午後7時に夕食を終え、50分を費やし入浴した。六人用の湯船を一人で占拠したのが効いたのか、予想以上に回復できた。昨夜と同じくキャンプ場のテントに向かったが、焚火を楽しむ夜は当分諦めるしかない。焚火再開も16圧下の100連勝の動機に加え、定時報告の準備を整えていく。後は寝るだけにして、定時報告開始。終えるなり寝袋に潜り込んだ。

 そして3秒経たず、夢のない眠りの世界へ俺は旅立ったのだった。


 翌、4月6日の午前5時。

 目覚めて上半身を起こすや、地妖精と水妖精に感謝を述べた。地妖精が地力で回復を手伝ってくれているのは知っていたけど、水妖精の助力にも気づいたのである。湯船に張られていた水に、水妖精がエネルギーを注いでくれていたんだね。ただそのエネルギーの詳細は分からず、今夜の入浴が楽しみでならなかった。

 軽業に10分、圧縮比率増加を目的とする瞑想を40分行い、午前6時から朝食。食事しつつ、今日の時間割を試しに変えてみることを美雪に提案した。話し合いを経て決定したお試し時間割を、確認を兼ね美雪が読み上げていく。


「朝食は6時半まで。訓練準備を整え、6時40分から7時50分まで反重力エンジンを研究すべく意識投射。8時から正午までハイオーク戦。正午から昼食を50分、午睡を1時間。午後2時から5時までハイオーク戦。5時から6時まで重減スキル併用の16圧ゴブリン戦。6時半から夕食と入浴、午後8時に定時連絡して就寝。変更ありませんか?」


 反重力エンジンの研究時間を朝食後しか取れなくなったのは痛いが、当面仕方ないだろう。訓練冒頭に1時間を費やしていた体重軽減スキル略して重減スキルの訓練は、訓練最後の16圧ゴブリン戦と統合することにした。昼食の50分は、美雪とイチャコラしたり母さんと冴子ちゃんを招いてお茶会したりという癒しの時間だから外せない。昼食後の昼寝を、慣れてきたら反重力エンジン研究の意識投射に充てよう。昨日は訓練後にカロリージュース二本とカロリーバー二個を自腹購入したが財政的にまったく問題なく、今後も続けて行こうと思う。友人知人とのメールのやり取りは、昨夜同様50分の入浴中かな。全裸で翼さんにメールしていることを、どうか冴子ちゃんがバラしませんように。それにしても、焚火の時間を確保できないのがつらい。ひょっとして焚火を愛でられるのは、休日のみとか?

 何て感じに、複数箇所に未練を残していたのが本音でも、変更なしと美雪に答えた。時刻は午前6時28分。さあトイレと歯磨きと着替えを、ちゃっちゃと済ませますか。

 俺はすべき事をすべく、立ち上がった。


 というのが、4月6日の朝の話。

 それから9日の夜まで、寸分変わらない日々を俺は過ごした。9日の晩は違ったと言っても、ひ孫弟子候補の講師としてオリュンポス山に向かったに過ぎないんだけどさ。

 今月のひ孫弟子候補の講義は戦士試験初日と被ったため、今晩に延期させてもらった。当初は試験終了翌日の5日に延期するつもりだったが、母さんの助言に従い9日にして正解だった。さすが母さんなのである。

 母さんとは講義前に少し話した。俺は毎晩泥のように寝ていて、夢の訪問を控えてくれていたという。「では明日のお昼、お茶しに来てください」と誘ったら、とても喜んでもらえた。冴子ちゃんとも久しぶりに会うし、ケーキを奮発せねばな!

 明日の再会を約束し、オリュンポス山へ向かった。講堂に入るや、サプライズを受けた。受講生達が待ち構えていて「「「「戦士試験合格、おめでとうございます!」」」」と祝ってくれたんだね。勇と舞ちゃんの三人で称賛を分散できたから良かったものの、一人だったら大変だったに違いない。歴代最高点なんて出すもんじゃないな、ハハハ・・・

 翌日のお茶会はとても癒された。給料を貰える身分になったので17年間のお礼を兼ね最も予算を掛けたお茶会にしたら、美雪と母さんと冴子ちゃんに泣いて喜んでもらえたのである。それにしても、AI用のお茶やケーキも値段に比例して美味しくなってくのは、どういう仕組みなのだろう。AI関連の専門家になった友人知人って、いたかな?

 翌4月10日はひ孫弟子の講義に出席する日であるとともに、昇達の講師を務める日でもあった。どちらもサプライズで祝ってくれて、三連続であろうとサプライズはやはり嬉しく、とりわけ子供達には泣かされた。正確には、嬉し涙を流した子供達に抱き着かれ、もらい泣きさせてもらった。しかも「「「僕も歴代最高点を出す!」」」「「「私だって出す!」」」と未来に顔を輝かせる様子を拝ませてもらったとくれば、涙腺も決壊するというもの。白状すると俺はそのとき初めて、歴代最高点と折り合いをつけられた。面倒事に見舞われもしたが、子供達の目標として成長の手助けを出来たならそれに越したことは無いのである。子供達の受講意欲も鰻上りだったし、あれで良かったんだな。

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