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「「「「コノヤロ―――ッッ!!!」」」」
1千人近い野郎共がこちらに駆けてきやがったのだ。冗談抜きで命の危機を覚えた俺は、咄嗟に輝力グライダーを展開し空へ逃げる。本番に強いスキルが歴代最高に働いたのだろう、空中に輝力の足場を造ることにぶっつけ本番で成功し、高度をグングン上げていく。上昇中に発動させた体重軽減スキルと丁度良い風に助けられ、高度10メートルでグライダーをホバリングさせることが出来た。幸い野郎共に受けてヤンヤの歓声が上がっているけど、数秒前に覚えた命の危機は本物だったと断言できる。俺は輝力で口元にメガホンを造りそれを正直に伝えた上で「まだ死にたくない、どうか落ち着いてね」と請うた。「当たり前だ!」「バカにするな!」系の怒声が、殺気とともに駐車場から無数に放たれてくる。もう嫌だ、このままグライダーで逃げてしまいたいと本気で考え始めたころ、
「「「「静まりなさい猿共!!!」」」」
1千人近くいると思われる女子達が声を揃えて男子を叱りつけたのだ。仮に第三者がこの状況を客観的に観察していたら、女子達の叱責に俺が安堵することを想像したと思う。でも、実際は逆。怒りの炎を燃え立たせる女子達に全男子が一斉に正座し、そしてその中に俺も含まれていたのである。俺に彼女はいなくとも、女子達のあまりの剣幕に呑まれちゃったんだね。
とはいえ、俺も正座したのは大正解だった。野郎共と一緒に背中を丸めている俺を女子の一人が笑いを堪えつつ指摘するや、忍び笑いが全体に一瞬で伝播したからだ。人とは不思議なもので一人なら笑うことを堪えられても、自分と同じ人達が周囲に複数いると知った途端、なぜか我慢できなくなってしまう。しかも周囲にいる奴らが、以心伝心を日常とする寮生達なら尚更なのだ。そうつまり、ここにいる全員が同じことについて笑いを堪えていると悟った瞬間、
「「「「ギャハハハハ―――ッッッ!!!」」」」
地響きのような大爆笑が発生したということ。男子は腹を抱えて駐車場を転げまわり、女子は腹を抱えて駐車場に膝を付き、大変な騒ぎだ。でも思う存分笑ったお陰でスッキリした十数秒後、2千人近くの仲間達は互いの健闘を称え思い出話に花を咲かせる集団に、なっていたのだった。
そのひと時を経て知ったところによると、俺の飛行車がノロノロ運転をしたのは、皆がここに集まる時間稼ぎをするためだったらしい。病気の家族に一刻も早く戦士合格を知らせる等の理由のある人達を除き、円グラフの2100余人のほぼ全員がここに集結しているそうなのだ。それを知るや本日四度目の視界霞みに襲われ、大変な目に遭った。どっかのアホが「翔が抜け駆けして泣きだしたぞ!」と、バラしやがったのである。くすぐりと関節技なら慣れっこでも、この状況で感動の涙は危険。以心伝心の仲間達と戦士になれた喜びは共有済でも、感動の涙はまだ共有していなかった。よって誰かが泣いていると知るやそれが一瞬で伝播し、全員が全力で泣き始めたのだ。かくいう俺も涙を無理やり我慢してきたのが仇となり、前後不覚レベルで泣いてしまった。とはいえこの共有ガン泣きと、さっきの共有爆笑のお陰で、スッキリしたのは事実だけどさ。
その後は腹が減ったということになり、皆で屋台飯を食べた。レストランは豊富でも2千人を予約なしで一斉収容できるレストランは無く、分散を余儀なくされる。それなら屋台で飯を買い、ここでみんな一緒に食べた方が断然良いということになったんだね。またそれを見越し、文芸区域の管理AIが200台の屋台を俺らの周囲に集結させてくれてもいた。当初は200台なんて多すぎると思ったけど、それは間違いだった。地球に譬えるならここの屋台料理は、空腹に身もだえする身長2メートルの超一流アスリートに、おむすび一個を作ってくれる程度にすぎない。然るに10回前後のお代りが必須となり、200台の屋台をもってしてもギリギリだったみたいなんだよね。この星の屋台は遠隔注文すればドローンが運んできてくれるし、しかも代金を次の給料で払えるため、俺の周囲の奴らは悪乗りして15回以上お代わりしたほどだったのである。ま、俺もその一人だったけどさ。
腹が減りすぎていたので最初は無心に食べ、ようやく会話可能になったらバカ話に花を咲かせ、それにも満足し始めたころ重要情報を思い出した俺は、周囲の野郎共にそれを伝えた。「2100までに明日の準備を完了させなかった者は、2100以降にそれを命じられる」という情報だね。周囲の野郎共は各校の代表的な奴らばかりだったからそれをすぐ広めてくれて、ならば配属前に恋人とほにゃららせねばと野郎共がとある場所を熱くしたのかは定かでないが、他校生では最も仲の良い虎ノ門大輔が真剣な表情で俺に頼んできた。
「翔、俺とアイツの結婚式に出席してくれないか?」
周囲の野郎共の恋人達が女子グループをすぐ近くに形成していたため大輔の「アイツ」に合わせ、男子達はさりげなく恋人達へ視線をやった。恋人達というか、さすが婚約者達なのだろう。婚約者達は男達の視線に気づくや立ち上がり、男達も腰を上げて歩み寄り、男女ペアになって真剣な眼差しを俺に向けたのである。こうなったら、腹をくくるしかない。
「よほどのことが起きない限り、みんなの結婚式を直接お祝いさせてもらうよ」
そう答えた俺に、野郎共が拳を突き出した。その全てと拳を合わせたのち、女子達に「結婚式に行くからね」との気持ちを込めてガッツポーズした。女子達はみんな心から感謝を述べてくれて、その肩を恋人の男子が抱く。そして「「「「またな~~!!」」」」と誓い合い、皆それぞれの場所へ散って行ってしまった。俺と勇が、二人ポツンと取り残される。超山脈北麓のレストランで午後4時以降の大雑把な予定は立てていたけど、改めて勇に尋ねた。
「勇はこれからどうする?」「予定どおり舞と深森夫妻宅を訪ねる。ただやはり、今日は報告とお礼だけだな」「了解。必要ないと思うけど、もしもの時はフォローしとくよ」「頼む」
二人で舞ちゃんのいるグループへ向かった。鈴姉さんの孤児院組に、舞ちゃんは混ざっていたんだね。舞ちゃん経由で孤児院組も2100の件を知ったのだろう、俺と勇が合流したのを機に皆立ち上がり「「「「絶対また会おうな~~!!」」」」と誓い合い、それぞれの場所へ散って行った。三人ポツンと取り残された俺達も、各々の飛行車へ足を向ける。といっても勇と舞ちゃんは隣り合って駐車していたから、俺はボッチだったけどさ。
午後6時ちょい前、三機の飛行車が深森邸に到着した。勇と舞ちゃんが、深森夫妻と小鳥姉さんに戦士試験合格の報告とお礼を述べる。鈴姉さんと小鳥姉さんは舞ちゃんを抱きしめ、三人で本泣きを始めた。こうなったら、野郎はただ待つしかない。俺ら三人は様々な話をし、その中に雄哉さんの来世の決意があった。お昼に送られてきた達也さんのメールも表示しつつ、雄哉さんは決意表明した。
「俺の夢は戦士になる事だったのだと、今日ほど強く感じたことはない。俺と達也は、次こそ必ず戦士になってみせる」
お二人が平均寿命をまっとうしすぐ転生したら、次の戦争を34歳で迎えることになる。その戦争で俺達が戦うのは、史上最強の敵。お二人は、力強い味方になるはずだ。俺ら三人は次の戦争までに残された84年を熱く語り、ふと気づくと女性陣三人もそこに加わっていた。「「私達も負けないからね」」「俺だって負けないよ」 鈴姉さんと小鳥姉さんの奥様連合に臆さず意見を述べる雄哉さんは勇者だと、俺と勇は密かに思ったものだった。




