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 母さん即ち星母が関わっていると知り背筋を伸ばした秋宏さんへ、昇の前世の功さんを含む五人の長老衆に俺がしたことを説明していく。俺の話を中断してはならないと必死で口を閉じていようとする秋宏さんに、構いませんどうぞと促したら「謎がやっと解けました!」と、青春男子のような張りのある声が返ってきた。加えてお目々もキラキラしているとくれば、どうぞお話しくださいを継続するしかない。けどそれは正しかったらしく、「謎が解けた」のあらましを把握することが出来た。要約すると、だいたいこんな感じになるだろう。


『亡くなる数日前、功さんが元気はつらつに突如なったことに気づかなかった者はいなかった。120年前後の付き合いのある四人の長老衆は功さんが何らかの抜け駆けをしていることを確信し、「おのれ功め」系の恨み言を終始呟いていた。それが、ある早朝を境にピタリと止まった。早朝訓練をしている俺に長老衆が詰めかけ「ナンマイダ~」をしたのを機に、恨み言を呟かなくなったのだ。と思いきや、功さんの今際の言葉「最強の一角を狙える来世が楽しみじゃ、フハハハハ!」に四人は再び「おのれ功め」を呟くようになり、周囲の者達が心配するほど訓練に打ち込むようになっていった。約一年後の、俺と翼さんがお内裏様とお雛様になったお正月。穏やかさを取り戻した四人は引退を表明し、自分の成長より若い世代の成長に時間を割くようになった。だが亡くなる一カ月ほど前、功さんと瓜二つの元気はつらつ状態に四人は突如なる。そして功さんとピッタリ同じ「最強の一角を狙える来世が楽しみじゃ、フハハハハ!」の言葉を残し、四人そろって向こう岸へ渡って行った』


 といった一連の出来事の背景を知れたので「謎がやっと解けました!」のように、青春男子の声とキラキラお目々に秋宏さんはなったという訳だね。対して俺は「やっちまった」系の苦笑を浮かべていたがそれは置き、秋宏さんは俺に言葉を尽くして感謝したのち、


「颯と蒼にも、いつか話してあげられないでしょうか」


 と腰を折った。額がテーブルに付く寸前の秋宏さんを説得し元の状態に戻ってもらうとするも、「どうかお願いします!」ばかりを繰り返し秋宏さんは梃子てこでも動こうとしない。それは俺が初めて見る、強引で強情な秋宏さんだった。元々の性格に婿養子という環境が重なったからだろう、秋宏さんは穏やかで柔和な気配を常に纏っていた。それを初めて脱ぎ捨て強引かつ強情になるも、それは颯と蒼を思いやっての事だったのである。そんな漢には、こちらも漢になるしかない。


「わかりました。颯と蒼にも、折を見て必ず話します」

「ありがとうございます!」


 それ以降、俺達は互いを認め尊敬し合う漢になり、この件に関する今後の計画をトントン拍子に決めていったのだった。


 秋宏さんに見送られ、仮陸宮へ向かう。三ツ鳥居に着き、戦士になれた報告とお礼を述べた。それを聞きわざわざやって来てくれたのに申し訳ないのだけど、功さんたち五人の元長老衆の残留思念に、俺は未だ違和感を拭えないでいる。亡くなる数日前に急成長したからか五人の残留思念は通常より質が一段高く、ほぼ普通の会話が成立するのもヘンテコ気分を後押ししていると言えよう。威厳と風格の見本の如き五人に、まだほんのお子ちゃまの昇達が重なってしまうのが、俺の本音だったのだ。

 ヘンテコ気分を胸に秘めつつも、五人への報告とお礼を無事済ませられた。冴子さんと亮介にも問題なくそれらを伝え終え、クルリと踵を返す。そして後方で礼儀正しく待っていてくれた家族に、俺は声を掛けた。


「虎鉄、お待たせ」

「気にするにゃ。それより戦士試験合格、おめでとにゃ」


 虎鉄がトテテと近づいてきて俺の脚にじゃれた。俺は片膝立ちになり、虎鉄の首元を掻く。17年の交流で培った技を総動員した俺に「ぬぬぬ、ズルイにゃ降参するしかないのにゃ」などと口では不平を言いつつ、虎鉄は満面の笑みで石畳に横たわった。俺も石畳に胡坐をかき、愛情たっぷり虎鉄を撫でてゆく。言葉を交わさずとも、戦士になれた報告とお礼を虎鉄が十全に受け取ったことが指から伝わってきた。ああやっぱり、俺と虎鉄は家族なのだな。

 とはいえ、すべての想いを言葉を用いず伝えられるなどと決して考えてはならない。俺は輝力をレーダーとして使い、仮陸宮を目指して歩いてきている人の有無を調べた。いないようだが油断禁物だし、今後の予定も複数残っている。頃合いを図り、虎鉄に切り出した。


「虎鉄、俺の配属先の写真を映す。見てみて」


 緑の多いステップ気候の台地や、清らかな水の流れる小川の写真等々を、美雪に頼み宙に映してもらう。それらへ興味津々の眼差しを向ける虎鉄に、「写真はこのまま映しておくべき」との声が心の耳に届いた。それを美雪に再度頼み、俺は本命を放った。


「戦士になり、大人としてやっと自立できたよ。虎鉄をずいぶん待たせちゃったね」

「猫と人の成長は異なるにゃ、気にするにゃ」

「わかった気にしないよ。それでね虎鉄、虎鉄がこの地で成猫として暮らしていることを、大人になった今の俺は理解できる。俺は今から虎鉄に希望を述べるけど、虎鉄には成猫の判断をして欲しい。俺ももう大人だから、俺のことは気にしないでね」

「わかったにゃ、気にしないにゃ」

「ありがとう。では俺の希望を」


 俺は正座に座り直した。


「写真のこの地で、俺は虎鉄と暮らしたいんだ」

「翔、おいらからもお願いがあるにゃ。話していいかにゃ?」

「もちろん良いよ」「了解にゃ」


 虎鉄は十二本の杉のある方角へ体ごと向け、にゃ~と鳴いた。それに応えて一匹の猫が現れ、こちらに走ってくる。虎鉄と一緒にいる地元猫たちの中に幾度か見かけたことのあるその子は、いかにも賢げな三毛猫だった。地球と同じくこの星も、三毛猫は圧倒的に雌。紹介してもらえて嬉しいやら緊張するやらで、俺は一杯一杯になってしまった。


「翔、紹介するにゃ。おいらのつがいの美夜にゃ」

「翔さん初めまして。虎鉄の番の美夜です」

「美夜さん初めまして。虎鉄の家族の翔です」


 美夜さんはテレパシーができると知るや、俺の一杯一杯は霧散した。だって虎鉄の番と自由に会話できるなんて、夢のようじゃないか!

 との気持ちが顔にそのまま出ていたらしく、美夜さんも俺と会話できて嬉しいと言ってくれた。俺は堪らず虎鉄をくすぐる。「虎鉄、すっごく良い子じゃん、この幸せ者め!」「にゃはは、おいら幸せ者なのにゃはははは~」 一緒に転げまわって笑ったのち、揃って正座に座り直した。阿吽の呼吸で美夜さんも背筋を伸ばす。そして虎鉄が代表し、希望を述べた。


「写真の地に、美夜も連れて行きたいのにゃ。いいかな?」

「いいに決まってるじゃないか! 虎鉄、美夜さん、俺うれしいよ!!」


 その後、虎鉄と美夜さんの馴れ初め話で盛り上がった。互いのノロケ話と言い換えられるそれに俺はニコニコになるも、顔を引き締め背筋を伸ばさねばならぬ時間が訪れた。美夜さんの家族の話に、なったのである。

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