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 てな感じの食事が終わったのは、午前11時だった。「お昼一時間前じゃん」「いや俺は昼飯にも負けないぜ」「俺らに敗北は無い!」「「「「だよな!!!」」」」などとバカ猿五匹でヤイノヤイノし、優しい女子達が苦笑で済ませてくれていたところ、切れ者の秘書官が部屋に入って来た。一糸乱れず席を立ち直立不動になった10人へ親しげな笑みを零し、


「各自に辞令を交付する」


 秘書官は辞令交付式を突如始めた。そうはいっても優しい先輩の声で語り掛けてくれたから、必要以上に緊張した者はいなかったけどね。

 名前を呼ばれたら進み出て、直立不動。秘書官の首肯を合図に一歩前進し、両手で辞令を受け取る。一歩後退して敬礼し、返礼されたら回れ右して元の位置に戻る。という訓練を年に二度していたのが活き、過不足なく終わらせることが出来た。先に名前を呼ばれた人を参考にできなかった割には、上手くいったんじゃないかな。

 全員への交付が終わり、秘書官が部屋を去る。と同時に、今後の予定を書いた2Dが各自の手元に映し出された。目を走らせたところ「15分以内に各自飛行車に乗り配属基地へ出発し、着任報告。報告後は本日2100まで自由時間。同時刻まで飛行車の私的利用を許可する」との事だった。15分あれば用を足し身だしなみを整えるのは十分でも、早いに越したことはない。急いで辞令を確認したところ、俺は特務戦技研究隊なる部署に配属されたようだ。初耳の部署だったが「すべて厳秘」とあったため、誰かに尋ねることはおろか視線を合わせることすらできなかった。試験が終わったのに俺はまたボッチですかと若干ションボリしつつ、離れた場所にあるトイレをウエイターさんに訊き、そこへ向かった。

 用を足し身だしなみを整え、1人階段を降りる。ウエイターさんとウエイトレスさんが、ドアの両側に6人ずつ並んでいる。「お世話になりました」と皆さんへ腰を折ったのち、春雄さんと謡さんにテレパシーでお礼を述べ、俺はレストランを後にした。

 外に出たのは、出発まで残り8分といった頃だった。予想どおり男子は俺を最後に全員そろったが、女子はまだ一人も現れていない。颯に「俺らは残り5分になったら解散するよう意見がまとまりかけていたが翔はどう思う?」と問われたので、賛成と答えた。その後、人生初のゴブリン戦について所見を述べあっているうち時間になり、野郎5人は再会を誓い合い解散した。そういえば配属先の話題が出なかったけど、皆も俺と同じく秘匿を命じられたのかな。明日の夜の意識投射中、勇にそれとなく訊いてみますか。などと考えつつ飛行車に乗り、座席に身を沈めたタイミングで女子達がレストランから出てきた。失敗したと顔を引きつらせる女子達へせめて精一杯両手を振るも、そんな俺を無視するように、飛行車は高度をグングン上げていったのだった。


 腰を据えて会話できずとも、機会を二度失するのは厳禁。との決意のもと、助手席に体ごと向けて美雪に呼びかけた。すぐ現れてくれた美雪に、今生の20年の人生をすべて賭けて語りかけた。


「美雪、試験に合格して戦士になれたよ。17年間俺を導いてくれて、ありがとう」

「どういたしまして。翔、おめでとう」


 俺が今生の20年をすべて賭けたように、美雪も1900年の全てを賭けそう応えてくれたとの確信が脳裏を駆けた。衝動に任せ、美雪を強く抱きしめる。温かさと柔らかさと香りを感じるのは毎度のことになって久しいが、今回は初めて、美雪の想いが心に直接伝わってきた。と同時に、俺は慌てふためいてしまった。女性の赤裸々な想いを心に直接感じたのはこの宇宙の一員になって初めてな気が、やたらしたのだ。そんな俺に、美雪が気づかないなどあり得ない。そのはずなのに、美雪は心の中で首を傾げただけだったのである。その様子に、自分の想いが俺の心に直接伝わったことを当人はてんで知らないことに、俺はやっと気づいた。だが気づけど、こうして四六時中くっついていることを切実に願っている美雪の本心を知ってしまいましたなどと、俺は打ち明けて良いのだろうか? いつかは打ち明けねばならないが、今ではない。勘が「到着まで残り3分だよ」と主張していたんだよね。いや違う、これは勘ではなく本体の声だ! そう気づいた俺は美雪を抱きしめたまま、耳元で囁いた。


「伝えたいことがあり過ぎて、今は時間が足りない。だから一つだけ。美雪、これからもずっと俺だけの美雪でいてくれるんだね、ありがとう」


 こちらこそありがとう、と満ち足りた声で応えて俺の背中を優しくポンポンしていた美雪の手が、ピタリと止まる。続いて身を離し、美雪は俺の目をまじまじ見つめた。


「あのね翔」「うん、どうした」「次の闇族は歴代最強なため規則を改訂し、翔の秘書AⅠと3歳児の教育担当AⅠを私に兼任させようとする司令官も数人いたの。でも翔の全面サポートこそが戦争勝利の確率を上げると、司令官達は1時間少し前に決定した。その決定を、翔は知っていたよね。母さんが教えたのかなって思い訊いてみたのだけど、教えてないよって返ってきた。翔に不思議な力が沢山あるのは知っている。その不思議さを最大に設定してシミュレーションしたら、あのその」


 頬を朱に染めもじもじする美雪が、ヤバいほど可愛い。17連続童貞人生でなかったら、俺は美雪を押し倒していただろう。四六時中くっついていたいという美雪の本心の中にあった光景を叶えることにもなるから、絶対そうしたはずだ。しかし残念ながら、俺は17連続童貞人生男。そして幸い、17連続童貞人生男。俺は美雪の頭を撫で、「夜になったら話そう」とだけ伝えた。のだけど、


「夜、夜でございますか! 不束者ですがよろしくお願いします!!」


 美雪はポンコツになってしまったのである。でもポンコツな美雪も軍事機密の美雪も、どちらもたまらなく愛おしい。俺は笑みを零し、愛しい人の髪を指で梳いた。


 愛しい人の髪を梳いていられたのは10秒無かった。飛行車が着陸態勢に入ったのだ。無意識に車外へ顔を向けた俺は、目を剥いた。美雪とイチャコラしていたせいで気づかなかったがこの飛行車は、本物の光学迷彩を周囲に展開していたのである。

 俺が目を剥くと同時に大慌てになった美雪が超早口で説明したところによると、3D映像による疑似光学迷彩ではない本物の光学迷彩は原則として人類軍しか使用できず、この飛行車の着陸地近くに着陸している小型基地飛行車もそれを使用しているという。両車を結ぶ通路の外壁にもそれは施されているけど気にしないで、との箇所で説明は強制終了された。俺を包む相殺音壁が展開して飛行車のドアが開き、「着任報告せよ」の2Dが出たからだ。殺風景なコンクリートのトンネルが、ドアの先に続いている。ちなみにトンネル内壁の鼠色にくすんだコンクリートは、3Dの虚像。わざわざ殺風景にしていることからこの小型基地飛行車の使用目的を察した俺は、体重軽減スキルの発動準備をしつつ足音を忍ばせて車外に出る。そして矢印に従い、トンネル内を進んだ。

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