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ということを馬鹿な俺は思いつくままペラペラ語ってしまい、失態に気づき慌てて謝罪しようとしたのだけど、お二人に素の笑顔で「「ありがとう」」と感謝された。その後お聞きしたところによると、お二人は物心ついたときから菜の花やタンポポといった春に咲く黄色い花が大好きで、いつまでも眺めていたという。二人は幼年学校も職業訓練校も恋人ができず、しかし心配無用な気が何となくしていて超山脈北麓のレストランに就職したところ、運命の人に出会った。二人は視線を交差させるなり恋に落ち、三度の休憩時間をすべて共に過ごし、そしてその日の夕方、春雄さんは謡さんにプロポーズした。謡さんはもちろんそれを受け二人は夫婦になり、夫婦としてレストランで働くうち仕事ぶりを高く評価され、超山脈北麓最高と名高いこのレストランにスカウトされたのだそうだ。時間もないためテレパシーで成されたそれはテレパシーゆえ想いと映像も伝わって来て、俺は感極まり滂沱の涙を流した。そんな俺を、春の心を持つお二人はとても気に入ってくれたらしい。まこと、嬉しい限りだ。テレパシー会話中なのでその嬉しさがお二人に伝わり、お二人が喜んでいるのも俺に伝わり、ぽかぽか温かな心を三人で共有していたら、ウエイター長の春雄さんとウエイトレス長の謡さんに仕事の連絡が入った。高官達の話が、そろそろ終わるそうなのである。俺達はなるべく早く時間を作り再会することを固く誓い合って、それぞれの役目に戻って行ったのだった。
9人を案内すべく春雄さんは退室し、10人に料理を提供すべく謡さんは厨房へ向かい、俺は9人を出迎えるべくテーブルとドアの中間に立った。といっても立つ場所が難しかったので美雪に相談し、すると戦士試験合格に関するアレコレを話したくて堪らなくなったのだけど、「時間がないわ後でね」と通話を切られてしまった。後悔先に立たずとは、まさにこのこと。俺は3秒だけ落ち込むことにした。
3秒後、松果体を輝かせる。続いて太陽叢を広げて体に力を漲らせ、準備万端整ったところでドアがノックされた。声とテレパシーの両方で春雄さんに「はい」と答えた1秒後、ドアが観音開きに開かれた。颯を先頭に、9人が颯爽と入って来る。そして颯と目が合うや、コイツとの友情にどうか罅が入っていませんようにと祈っていた自分がいかにアホだったかを思い知らされた。颯は解るし勇も解るが、初対面の野郎二人も加わった計四人で連携し、俺を締めあげクスグリまくりやがったのである。身体能力が嫌というほど高い四人による連携クスグリは壮絶の一言に尽き、俺は筆舌に尽くしがたいくすぐったさに窒息寸前だった。幸い百花さんを始めとする女性陣が止めてくれたので事なきを得たが、そうでなかったら一体どうなっていただろう。春雄さんと謡さんがいるから、大事には至らなかったと思うけどね。
豪華な3D表示に従い、10人で席に着く。右回りの席順だったので俺だけが悪目立ちせず胸を撫でおろしていたら、クスクスと可愛い声が右耳に届いた。声だけで可愛いと確信できるその子に顔を向けたとたん、俺は困ってしまった。ミス妹属性ユニバース的な女の子が、ちょこんと座っていたからだ。同学年なことを疑うほど幼い雰囲気のその子は、兄属性の多分な俺にとってある意味最強の存在といえよう。その子と目が合うなり、俺は心の中で完敗宣言するしかなかったのである。まあそのお陰で、気負いなく自己紹介できたんだけどさ。
「初めまして空翔です。よろしくお願いします」
「初めまして三条葵です。こちらこそよろしくお願いします」
その後、左隣の颯に「葵ちゃんに惚れるなよ」と散々からかわれ、その左隣の百花さんに「葵には年上の婚約者がいるから惚れちゃダメよ」と繰り返し注意され、その左隣の勇に「好みド真ん中だろうが兄属性に留めろよ」と幾度も苦笑され、そのたび俺は了解と応じることになった。異性としては惚れないが兄属性としては既に惚れているのを見透かされていたため、そうするしか無かったんだね。ありがたいことに葵さんは俺と同種の属性男に慣れており、かつ俺が上から目線の兄に決してならなかったことを高く評価してくれた。よって会話は弾み、弾んだせいで左の三人に「了解」と十回ほど言わねばならなかったのだけど、名家出身ではない俺に名家について沢山教えてくれた葵さんには感謝しかない。天風家の皆さんは名家を絶対ひけらかさず、勇と舞ちゃんは名家の話題を避けたがっていたため、そっちの知識を俺はほぼ持っていなかったのである。
そうそう勇の順位は、4位だった。「後でとっちめるからな!」と宣言したら颯が急遽参戦して「「それはこっちのセリフだド阿呆!!」」と巨大な墓穴を掘ってしまったのだがそれはうっちゃり、おさらいを兼ね名家についてまとめてみようと思う。
俺は名家を上から「上級名家」「名家」「準名家」と覚えていたが、葵さんによるとそれは、名家と関りを持ったことのない人達の呼び方らしい。名家の人達がそれを使うことはなく、そして今後俺は大勢の名家の人達と交流するはずなので、「私達と同じように呼んだ方がいいと思う」と葵さんは俺に勧めた。言われてみたら納得以外なく、ご教授願います先生と真摯に頼んだところ、頭を撫でたくて仕方なくなる笑みを葵さんは浮かべた。俺が右手の疼きを全身全霊で抑えねばならなかったのは言うまでもない。いやはやまったく、恐ろしい子だ。
話を戻そう。
葵さんによると俺が覚えていたそれぞれは、「三家」「六家」「十二家」と呼ぶらしい。三と六と十二は家の数を指し、計二十一家の名は後日覚えるとして、ここにいる9人の家だけは今覚えようという事になった。否などあろうはずなく、葵さんの説明に耳を傾けた。
「三家は天風家、一色家、今川家。それぞれ二人ずつここにいる。六家でここにいるのは、花山院家と私の三条家が一人ずつ。十二家でここにいるのは、翔君の友達の剣持勇君ね」
初めて耳にした四家はすぐ覚えられた。一色家と今川家は足利将軍家の連枝の守護大名だし、花山院家と三条家は五摂家に次ぐ家格の清華七家だったから、元日本人の俺には覚えやすかったのだ。葵さんによると戦争に赴くトップ55は名家二十一家がほぼ占め、二十一家以外は1人いるかいないかとのこと。「俺らの時は昇と奏、鷲と橙と晴と藍もいるから前代未聞なのだろうな」と、俺は胸中密かに呟いたものだった。
さっき俺が野郎共に揉みくちゃにされた経緯も、葵さんが教えてくれた。レストランに着いた9人は一階の一室に集められ、そこで五分ほど過ごしたという。その部屋に1位がいないことを知った颯は、「翔に会ったら無慈悲クスグリの刑に処そうぜ」と提案した。即賛成した勇と颯が意気投合し作戦を練っているうち、面白そうなイベントを逃してなるものかと、初対面の二人の男子も無慈悲クスグリに参加する合意が成されたとの事だったのである。男子寮ではそんなの日常茶飯事だったのでゲラゲラ笑っていたら野郎二人と会話が生まれ、それに乗っけて初対面の女子三人も紹介してもらい、気づいたら10人全員で盛り上がっていた。料理とデザートと飲み物が感涙級に美味しかったのも、楽しい時間を共有できた大きな要因だね。人類軍が意図した親睦会は大成功に終わったと、俺達は考えている。




