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超能力や特別な知識を得るより、「誰が言ったかではなく何を言ったかで判断せよ」を磨き続けた方が、高みに登れるのは本当ですね

 ザワッ・・・・


 とした気配が広範囲で起こった気がした。その範囲は極めて広く、1000キロ四方を優に超えると直感したことから、人類大陸にいる量子AIの大半が同時にザワついたと考えるべきなのかもしれない。仮想世界の俺の周囲はいったいどうなっているのかな、という戦慄すべき疑問を意識の外へ追いやり、俺は背筋を伸ばして母さんの返答を待っていた。母さんが沈黙を破り、答える。


「尾骶骨を用いる超能力の行使法を実体験で知っているアトランティス人は、この星にいません。ネガティブを封印する研究に携わる数名のトップ研究者達が、仮想世界に創造した人間社会で実験を繰り返し、知識として概要を知っているだけですね」

「この星にいないということは、アトランティス本国のあった地球にはかつていて、本国の滅びの原因になったのでしょうか?」

「滅びの詳細を知るのは一握りの者達のみですが、尾骶骨と本国滅亡の関連性の秘匿は失敗し、一部が世へ漏れ出てしまいました。それは最大のタブーの一つとなり、5万年経った今もこの星で囁かれ続けています。翔の大好きな、都市伝説のようなものですね」

「都市伝説は大好物でもタブーなら、母さんの教えを口外しないことを誓います」

「ふふふ、ありがとう。誓ってくれたのですから、もっと質問しても良いですよ」


 1000キロ四方超えの地が再度ザワつくも、それに臆したせいで千載一遇のこの機会を逃したら、俺は自分を永遠に許せないかもしれない。母さんの「この星にいません」発言に触発され閃いた残り一つを、勇気を出して問うた。


「精神性の高いこの星ですら秘匿に失敗したのですから、きっと地球は無様だったのでしょう。地球の主流医学に囚われない健康法を研究してきた僕は、尾骶骨近辺に意識を集中する超能力開発法を幾つか耳にしたことがあります。それを語る人々にネガティブ性を感じずとも、物質面に傾倒した印象はあったので、僕の健康法にはあえて取り入れませんでした。僕が去ったころの地球では、宗教やスピリチュアルといった精神性を重視するはずの分野の人達も物質面へ傾倒し、物質的優位性を得るための超常的な方法がとても好評でした。人々を誤誘導し、人に創造力があることから目を逸らさせる、引き寄せの法則がその代表でしょう。誤誘導は他にも多々見られ、超常的な力を有するだけで本物の霊能力者ともてはやす風潮もありました。地球にいた頃はその風潮へ懐疑的な眼差しを向けるだけでしたが、今はこう考えています。ネガティブな者達も超能力を使うのですから、超能力の有無を霊能力者の真偽の基準にしてはならないと、今は思うんです。母さん、僕は間違っていますか?」

「翔は正しい。私も私の仲間達も、それらの誤誘導を憂慮しています」


 正しさを認められても、安堵は到底できなかった。この星の住人になった俺に、地球への働きかけは無理だからね。

 ただ話の流れから、母さんの仲間達が地球にいるのは確実と思っていいのだろう。それへ僅かな安堵を覚え、ゆっくり息を吐いた俺に、母さんは優しく語り掛けた。


「誰が言ったかではなく、何を言ったかで判断すべし。地球人だったころの翔は、この言葉が特に好きだったようですね」

「はい、僕はその言葉が大好きでした。それを座右の銘の一つにして、生涯鍛え続けたほどでした!」


 母さんに褒められた喜びを、地面を転がりまくって表現する子犬に、俺は今なっているのだろう。笑いを堪える気配が、人類大陸の全域に立ち上った。けどそんなの、今の俺には屁でもない。母さんが光を手の形にして、頭を「よしよし」と撫でてくれたからである。元気百倍を十倍する元気千倍になった俺は地球人だったころの努力をマシンガンの如くまくし立てようとしたが、すんでの所で口を閉じ、教えを聴く姿勢を作り上げた。それは大正解だったらしく再度の「よしよし」をしてくれたのち、思索に富む問いを母さんは放った。


「誰が言ったかではなく何を言ったかで判断可能になることは、準備の一つと言えます。その準備は『準備ができた者に師は現れる』にも、同じ意味で使われています。さあ翔、考えてください。準備ができた者の前に、師はどのような姿で現れるでしょうか」


 地球人だったころ生涯鍛え続けた座右の銘の一つが今、報われたことを知った。

 母さんについて初めて得た知識は、「美雪の上司の量子AI」だった。知性の次元においてまず母さんは、人ではない機械として俺の前に現れたのだ。知性の次元ではない三次元世界に白光として現れた時も、美雪の上司の量子AIという立場を母さんは崩さなかった。輝力を燦々と放つ様子から、いと高き女神様の降臨と俺は確信したが、「美雪は私をAIと思っているわ、合わせてあげてね」との言葉を俺の脳に響かせることで、ただの機械としての立場を女神様は貫いたのである。よって仮に俺が輝力を知覚できなかったとしたら、どうなっただろうか? 地球人だったころは輝力を知覚できなかったので、この偉大な母神様を機械と認識してしまったと思う。だがそれでも、座右の銘を生涯鍛え続けた俺はきっと・・・・


「まったくこの子は、姉に似て涙もろいんですから。翔、私が保証します。地球人だったあなたも、私の外見や立場に左右されなかったはずです。翔がこの星に転生し、こうして私の目の前にいるのが、その(あかし)ですね」


 前世の努力が今を創ったと母さんが保証してくれたのですから、母さんの目の前にいる今を、俺は全力で駆け抜けます! との想いを言葉ではなく行いで示すべく、俺は答えた。


「前世の僕は、孤児院出身というだけで差別され、イジメられることが多々ありました。僕を差別しイジメるその人達には、共通点がありました。自分達は僕より上と思っているか、もしくは僕より上と思いたがっているという共通点が、その人達にはあったのです。その一方、僕と気持ちよく付き合ってくれる素晴らしい人達もいて、その人達にも共通点がありました。その人達は自分を上と思わず、かつ僕を下とも思っていなかったんですね。また、そういう自分になることを目指している人達も、僕を不当に差別したりイジメたりしませんでした。今こうして振り返ると、両方のグループにはそれぞれ強固な共通点があったと、しみじみ思います」


 瞑目し、深呼吸を一つする。呼吸を司る脳幹に松果体があるからだろう、意図的な深呼吸は、松果体の意図的な活性化と非常に相性が良い。酸素と輝力を心身の隅々に行き渡らせ、話を再開した。


「心の成長度を人数別に分けると、菱形になります。自分を上と思わず、僕を下と思わず、対等に気持ちよく付き合ってくれた人達は、上の頂点に含まれる人達。反対に自分を上、僕を下とし、差別とイジメを好んでいた人達は、下の頂点に含まれる人達です。ここでは便宜的に、対等な意識に到達した前者を対等意識者、上下を好む後者を上下意識者と呼びます。この両者で、『誰が言ったかではなく何を言ったか』と相性が良いのは、対等意識者です。発言者の社会的地位の高低に影響されず、発言内容を客観的に吟味できるからです。一方、上下意識者は相性が悪いと言えます。その人達にとって最も大切なのは発言内容ではなく、発言者の社会的地位の高さですから」


 美雪が菱形を教えてくれて助かった、後で改めてお礼を言おう、と心の中で思ったのが、この姉にはバレバレだったらしい。美雪は俺の頭をグリグリし、にっこり笑って背中をポンと叩いた。いつか俺は姉ちゃんっ子を卒業できるのかな、今生で最も困難なのはそれっぽいなあ、と胸の中で苦笑して白光に向き直った。


「僕が地球にいたころ、高次元の宇宙存在と自称する者達が、地球人とテレパシーで接触することが多発していました。高い波長に至った地球人へ特別にテレパシーを送り、危機に瀕する地球を一緒に救おうと自称宇宙人達は述べていました。地球が危機に瀕していたのは、僕も同意します。地球人の平均的成長度では、心の成長を新たな差別要素にしてしまうため、次元の高低を代わりに用いたのもギリギリ譲歩できます。しかし全体的に見ると、自称宇宙人達は人々の選民意識を助長していると僕は感じました。地球人より宇宙人の方が優れているから、このテレパシーを受信できる人は波長の高い優秀な地球人と、自称宇宙人達は主張していたからです。地球にいたころ僕が感じていたそれは、この星で確信に変わりました。高次元の存在と自称する者達と相性が良いのは、圧倒的に上下意識者ですからね」

さあそろそろ、スピ界隈の話題が始まります

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