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たとえば病原菌やウイルスへの抵抗力が強く、風邪やインフルエンザが大流行していても健康を保てるAさんがいたとする。周囲の人達はAさんを「体の強い人」と称賛するだろう。逆に、流行したらまっ先に風邪やインフルエンザにかかり会社を休むBさんは「体の弱い人」に認定されるだろう。人々のこの判断に、俺も賛成する。だが自称霊能力者達が唱える「霊感や霊能力に優れる人」へは、賛成など到底できない。なぜならあの人達は「悪霊への抵抗力が弱く悪影響を容易く受ける人」を、霊感や霊能力に優れる人と主張しているからだ。霊媒体質は、その筆頭と言えよう。悪霊への抵抗力が弱く乗っ取られる二歩手前に毎回なっている人を、霊的特殊能力者と印象付ける霊媒体質と呼ぶなんて、いったい何を考えているのか。繰り返すがその人達は霊感や霊能力に優れるのではなく、悪霊への抵抗力が弱いせいで悪影響を容易く受けているだけなのである。
自称霊能力者達のこの真逆さは、大地震にも及ぶ。あの人達は判を押したように、「東日本大震災の前は体調が悪くなった」と主張する。体調が悪くなるのは霊能力を持つ証であり、悪くなればなるほど霊能力が強いと事実上言っている。だが俺は、逆だった。東日本大震災の1時間前、突如俺は体に活力がみなぎった。そのお陰で地震中も穏やかな口調で「みんな落ち着いて」と指示を出せたし、地震後も救援活動を積極的にこなし、困っている人のために働きまくれた。もし俺が自称霊能力者達のように体調不良を起こしていたら、あれは不可能だった。体に活力がみなぎっていたから、人々のために自分をとことん使えたのである。
余談が過ぎた、話を戻そう。
ゴブリンの闇力を百倍に感じる装置が作動したら、やはり体は怖がった。したがって、俺は穏やかに語り掛けた。
「皆が怖がっている元凶は、20メートル前方にいるゴブリンだ。俺は17年間の訓練が実り、あのゴブリンより1.6倍以上強いゴブリンに100戦100勝できるようになっている。俺は前方のゴブリンに、必ず勝つ。どうか俺を信じて、怖がらないでほしい」
自分で言うのもなんだが、俺は体と強固な信頼関係を築いている。それは今も揺るがず、みんな「「「「了解~~」」」」と声を揃えてくれた。体の感じていた恐怖が、ピタリと消える。皆に礼を述べ、俺はゴブリンを凝視した。
3メートル四方の青色輝力バリアで拘束されているゴブリンの身長は、俺より30センチほど低い170センチ。体脂肪率5%未満の、筋骨隆々とした体躯をしている。肌の色は緑色、頭部に毛髪はなく、服は腰回りの蓑のみ。試験の説明にあったとおり、棍棒を右手に持っている。それら全てはこれまで散々戦ってきた、3Dゴブリンと完璧に同じ。虚像ではなく実物ということを除けば、20倍ゴブリンと何も変わらないのだ。
体に語り掛けたように、今の俺は33倍ゴブリンに100戦100勝できる。20倍ゴブリンに負けることがあるなら、それは恐怖に竦み実力を発揮できなかった以外ありえない。なら俺が注意すべきはただ一つ。それは恐怖を排除し平常心を保ち、いつもどおり戦うこと。戦闘開始までのカウントダウンを、俺は冷静に見つめていた。
カウントダウン10で、体重軽減スキルの発動にとりかかる。すると、カウントダウン4の内にスキルが発動した。本番に強いスキル(笑)が今回も働いたらしい。口元が、自ずとほころんでゆく。と同時にゴブリンの顔が苦しげに歪み、一歩後退してしまった。ヤバイ、体重軽減スキルによる青色輝力の放出は、自前のバリアになるみたいだ。これでは戦えないけど、体重軽減スキル発動下で実戦もしてみたいんだよな、どうすっかなあ・・・
などと、ズルにも程があることを考えているうち、
「戦闘開始!」
のアナウンスが流れた。3メートル四方の青色輝力バリアが消滅し、ゴブリンが解放される。俺の青色輝力を人類軍のAⅠは感知しているはずだが、保険をかけるべく体重軽減スキルを発動したままゴブリンにスタスタ近づいていく。ゴブリンの苦悩顔が恐怖顔に変わり、回れ右をして一目散に逃げだしてしまった。俺は全身で溜息を付く。
そして現時点における俺の最強スキルを、仕方なく解除したのだった。
それ以降は、陽動の試験を受けるつもりでゴブリンと戦った。
陽動は99の弱者演技と、1の最高技術である。
最初にした弱者演技は、体重軽減スキルを解除すると同時に「装置が作動しなくなった!」と慌てふためくこと。次は恐怖に体を震わせつつ49圧を発動し、白薙を構えてゴブリンと戦おうとする演技だ。ゴブリンは、どうやら引っかかってくれたらしい。残虐な笑みを浮かべて、ゴブリンが近づいてくる。距離が近くなるにつれ俺は恐怖を募らせ、棍棒を見苦しく躱し、この人間は弱いとゴブリンに信じさせていく。増長したゴブリンは、大振りを連発するようになった。大振りの二手三手先まで読み、棍棒を躱す方向と方法によってゴブリンの攻撃をコントロールし、ゴブリンに渾身の大振り攻撃をさせる。予想どおりの攻撃を俺が楽々躱したことにより、ゴブリンはバランスを崩した。すかさず最高技術でゴブリンの左手に斬撃を放ち、左手を使用不能にする。ここまでが、「ゴブリンを増長させてコントロールする」という陽動だね。及第点を得たと判断した俺は、三大陽動の二つ目に移っていった。
陽動に引っかかったことを自覚したゴブリンが、冷静に俺を観察して戦いを進めていく。それが実り俺の戦闘の弱点を発見したゴブリンは、弱点を利用して俺に不意打ちをかける作戦を立てた。作戦はうまく行き、狙った場所で狙ったとおりの弱点をさらした俺に、ゴブリンは不意打ちを放つ。だがそれも、俺の陽動。「演技の弱点を餌にゴブリンをコントロールする」という陽動を成功させた俺は不意打ちを余裕で躱し、ゴブリンの左肘に最高技術の斬撃を放ちそこを切断した。
この人間は自分より強くかつ陽動に長けている、と認めたゴブリンは防御に徹する選択をした。俺は無限の体力にものを言わせ、攻撃を絶え間なく繰り出していく。それを続けるうち俺の戦闘の癖を見つけたゴブリンは、癖を利用して起死回生の一撃を放つ作戦を立てた。作戦は上手くいき、狙った場所で狙ったとおりの癖をさらした俺に、ゴブリンは起死回生の一撃を放つ。けどそれも、俺の陽動。三大陽動の最後の「演技の癖を餌にゴブリンをコントロールする」という陽動を成功させた俺は、最高圧力の150圧を発動。7割増しの速度と技術の粋を尽くした足さばきでゴブリンの背後を取り、尾骶骨腺を切断した。最大の急所である尾骶骨腺を切断すると、闇族の意識を一瞬で刈り取れる。陽動の訓練に付き合ってくれたゴブリンへのせめてもの感謝として意識を一瞬で刈り取った俺はそれでも油断せず、残心を心がけアナウンスを待つ。その2秒後、
「ゴブリンの戦闘不能を確認。試験の残り時間、6分51秒。二次試験合格です」
のアナウンスが流れ残心をといた。一次試験と二次試験の両方に合格しても、戦士試験に合格できない生徒もいる。一次試験と二次試験のそれぞれに点数をつけ、合計点の高い順に125万位までを戦士にするからだ。でも俺は最初に試験を受けたグループに入っているし、ゴブリンも問題なく倒したから、
「心配無用かな」
そう独りごちた。俺は白薙を背に納め、こと切れたゴブリンに最高の敬礼を捧げる。そしてドローンに掴まり、飛行車へ帰って行った。
悪霊への抵抗力を上げたい人は、右鼻呼吸で太陽叢広げをしてください。呼吸は16ー8ー16、思い浮かべる色は赤です。
上記は病原菌やウイルスへの抵抗力も上げますが、やり過ぎると物的欲求も増えます。
何事も適量を心がけてくださいますように。




