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 ゴール後、その場所で4時間過ごした。野戦食を摂り、ドローンが用意してくれた簡易トイレで固形物をぶっ放し、更衣室で着替え、そして昼寝を3時間したんだね。午後6時半までにコロニー飛行車の敷居を跨げば良いことになっているから、ここに4時間いてもまったく問題ない。もっとも50分間は、美雪とただ喋っていたんだけどさ。

 50分間のイチャイチャはさて置き、3時間の昼寝には理由がある。超山脈を縦断し第一山脈北麓に寝袋を敷いて昼寝すると、地の妖精達が大地のエネルギーを100倍にしてくれるからだ。ただこの恩恵に浴せるのは、俺と勇と舞ちゃんのみ。俺らの真似をした野郎共の回復率に、変化はなかったんだよね。みんな、マジすみません。

 午後四時、最寄りのコロニー飛行車を目指し歩き始めた。一次試験には1920機のコロニー飛行車が出動していて、内520機が今晩の宿泊所になる。ただし一次試験合格者と不合格者は異なる飛行車に乗らねばならず、前者は就寝中に二次試験会場へ運んでもらえるが、後者は最寄り都市への移動となる。後者は無料の寮に半年間滞在でき、身の振り方を決めねばならない。合格確実でない限り生徒達が熱心に勉強していたのは、そういう訳だね。

 コロニー飛行車への道すがら、合宿の野郎共および彼女さん達の一次試験合格率を美雪に尋ねた。試験中は連絡禁止かつ個人の合否も判らないが、同じ学校の生徒の合格率なら教えてもらえる。よって合宿の野郎共および彼女達の全員で人類軍に嘆願書を出したところ、成長著しい皆への特別措置として全員の合格率を教えてもらえる事になったのだ。本来なら試験終了時刻まで待つべきなのだが我慢できず訊いてみたら、


「ジャジャ~ン、100%です!!」


 との返答をもらうことが出来た。走らず歩いていて正解だった、視界不良で危ないもんな。などと自己肯定しつつ、俺は袖で目をゴシゴシした。

 人目が増え美雪が音声のみになってからは、ドローンに掴まって移動した。何気にこれは、7年間で今が初めてのこと。この機会を逃すと次はいつになるか不明だったので、掴まってみたのである。感想は予想どおり「二度としない」でした。俺の、バカ野郎――!

 そうこうするうちコロニー飛行車の敷居を跨ぎ、三階へ向かった。収容人数一万の半分にあたる5000人しか乗らずとも、回復を優先するならより空いている場所で宿泊すべきだからだ。美雪によると三階に泊まるのは、1千人らしい。「ピッタリってことは、許可制とか?」「うん、そうみたい」 一階と二階の皆に胸中詫びつつ、階段を静かに上った。

 入浴を心ゆくまで楽しみ、午後6時に就寝。翌午前2時に目覚め、野戦食を摂り二度寝。午前5時に起床し、瞑想と輝力操作訓練に励む。0550に野戦食を摂り、椅子を見つけて着席。0600からの二次試験の説明に備えた。

 その数分後、眼前に俺用の2D画面が現れ、二次試験の説明が始まったのだった。


 二次試験の説明を聴き終わった感想は二つ。一つは、一次試験より覚えるのが楽ということ。そしてもう一つは、「ドローン移動した自分を罵った昨日の俺、アホでした」だった。そうなんと二次試験は、ドローン移動必須だったのである。気持ちを落ち着かせることも兼ね、二次試験を時系列で文章化していった。


 1、生徒とゴブリンは、1対1で戦う。

 2、試験会場へは1千人ずつ移動する。最初の1千人の試験開始時刻は、0800とする。

 3、試験開始30分前になったら車外に出て、北側に着陸している1千人乗り飛行車に搭乗する。

 4、全員搭乗もしくは試験開始20分前に出発する。未搭乗の生徒は原則、失格とする。

 5、ゴブリンを隔離する外壁の上に着陸する。各自ドローンに掴まり、自分の試験場へ移動する。ドローンは、自動操縦とする。

 6、ゴブリン1体は3メートル四方の内側バリアと、50メートル四方の外側バリアで二重に拘束されている。50メートル四方のバリア内が、試験場。1名の生徒が試験場に降り立ち、1分後に試験を開始する。開始と共に、3メートル四方のバリアが解除される。

 7、バリアは人体に無害だが、バリアの外に一回出たら減点、二回出たら失格とする。

 8、ゴブリンは棍棒を装備している。ゴブリンを戦闘不能にすれば、二次試験合格。制限時間は10分とする。なおゴブリンの強さは、20倍ゴブリンに相当する。

 9、ゴブリンが戦闘不能になる前に生徒が戦闘不能になるか、戦意喪失し「棄権」を宣言すれば、二次試験不合格とする。


 だいたい、こんな感じだろうか。見直して美雪に確認してもらったところ、訂正箇所も情報不備もないとの事だった。ちなみに俺の試験開始時刻は、0800。そうなんと、最初に戦う1千人に含まれていたのだ。運が良いのか悪いのか判断つかないけど、判断つかないなら運が良いことにしてしまおう。20倍という予測も、ピッタリ当たったことだしな!

 などとポジティブ思考に無理やりして、0715まで瞑想と輝力操作に励んだ。明潜在意識と美雪の両方に促されそれらを止め、トイレに寄ってからコロニー飛行車の北側出入口近辺に移動する。この飛行車は東西南北に出入口があり、1千人乗り飛行車は北側に着陸するからさ。

 北側出入口は、一階にある。よって一階に降りたのち出入り口を目指しても良かったのだけど、人の少ない三階で北に移動してから階段を使うことにした。すると俺と同じように北を目指す生徒達が大勢いて、よくよく考えたところ「二次試験は好成績順に受ける」ということにようやく気づいた。ゴブリンを素早く倒す順に試験を受けさせた方が、試験は円滑に進むからだ。こんな簡単なことを見落としていたなんて、今日の俺は脳が働いていないのだろうか? そういえば今日で足掛け四日間、勉強してないじゃん! なんて感じに内心焦りつつ、しかし表面上はのほほんと、俺は歩いて行った。

 その「表面上はのほほんと」が活きた。一階に降りたら、羨望と嫉妬の眼差しの集中砲火にさらされたのである。こんな眼差しにさらされたのは、前世まで遡らないと無い。鈴姉さんの孤児院は筆頭で、戦士養成学校は準筆頭だったけど、こういう体験はなかった。それとも戦士になるか否かが決定する、今日が特別なのだろうか? 試験前の平常心を保つべく、今日が特別と無理やり思うことにした。

 0730になり、出入り口に向かった。敷居を跨ぎ車外に出た途端、鳥肌が立った。本能的に輝力壁を体表近くに張り巡らせ、肉体意識に耳を澄ませる。体の各部が「怖かった」「楽になった」と口々に言っている。車外に出るなり鳥肌が立ったのは生きたゴブリンの気配を体が察知したからで、肉体意識の声はネガティブを減じる力が輝力壁にあるから。こう考えて、間違いないだろう。俺は心の中で胸を撫でおろした。試験前に「あくまで個人的推測だけど」と前置きし、輝力壁はネガティブを減じるバリアとしても有用かもしれないと、皆に伝えておいたからだ。皆が輝力壁を展開しこの気づきを得る様子を、俺は松果体でありありと思い描いた。

 試験会場へ移動する1千人乗り飛行車は、超山脈合宿でいつも利用していた飛行車だった。非日常のただ中では、同車種という日常を目にするだけでも心が安らぐもの。俺は胸中手を合わせ、飛行車の敷居を跨いだ。

 跨ぐと同時に、ゴブリンの気配が消えた。俺は手を、小さくポンと打ち鳴らした。反重力の正体は青色輝力ゆえ、反重力エンジンにはネガティブを退ける力があるのだろう。ゴブリンを拘束しているバリアが人体に無害なのも、それで説明つくしさ。などと二分割した心の一方で考察しつつ、眼前の2D表示に従い自分の席に移動した。そうこの座席指定があるのも、超山脈合宿の飛行車と同じ。俺は足取り軽く自分の席に向かった。のだけど、


「・・・マジすか」


 小声で呟いてしまった。千席に五席だけの、各学校の筆頭が座る席だったのである。試験前の平常心を保つべく、俺はそれを無視することにした。

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