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 下山を終え、第一峡谷縦断を始める。後ろ髪を引かれつつ体重軽減スキルを切り、100圧を発動して峡谷を駆けていく。ここ数年の著しい成長のお陰で、100圧を巡航圧縮に出来たのだ。非現実的なふわふわ感はなくなったけど、走るのが好きだから十分楽しい。今が試験中なことを忘れて、二本の脚だけで超山脈を縦断する浪漫を俺は味わっていた。

 5つの山脈を三日で二往復すると、計20の山脈を越えることになる。予定では一日目に7つ越え、二日目に8つ越え、三日目に5つ越えることにしていた。美雪の定期報告によると、予定の消化は極めて順調らしい。体調も天候も極めて良好なのだから当然とはいえ、口角は自然に持ち上がっていった。

 臨時宿泊所として使う一万人乗り飛行車も、目に楽しかった。闇族との戦争に負けた時の緊急脱出飛行車は、宇宙空間で数千年間暮らせるコロニーでもある。ゆとりある室内、緑豊かな公園、広々とした運動場、食料工場等々を備えた一万人コロニーは、移動のみを目的とした千人乗り飛行車の、一万倍を超える体積を誇っていた。しかも試験中、それに一泊する予定なのである。峡谷中央に着陸しているコロニー型巨大飛行車をワクワク眺めつつ、俺は順調に距離を稼いでいった。

 第三峡谷の終盤、要注意報告が初めて成された。美雪によると、第四山脈以降はすれ違う生徒が出てくるという。最も近い生徒でも2キロ離れているのですれ違いの危険性はゼロでも、「例のスキルの特徴を抑えてね」との事だった。人目の無いのをいい事に、ふわふわ~~を俺は楽しみ過ぎていたらしい。反省し了解と伝え、特徴を抑えた走りに切り替えて第四山脈北麓を登った。

 人類軍が推奨している超山脈縦断は、一日目と二日目に山脈を2つずつ越え、三日目の最終日に山脈を1つ越えるというものだった。お隣さんがそれに従っているなら、最初のすれ違いは第五山脈の計算になる。しかし第四山脈ということは、お隣さん達は優秀なのだろう。優秀な人達には体重軽減スキルをどんどん習得して欲しいのが本音でも、人類軍に禁止されているため諦めるしかない。なぜ禁止なのかは、教えてくれないんだけどさ。

 そうこうするうち第四高原に足を踏み入れた。その中盤、視界の端にすれ違う初めての生徒が映った。勘は「面識のない生徒」と囁いている。その生徒を皮切りに、多数の生徒達と次々すれ違っていった。俺はボッチだったので忘れていたけど、通常はお隣さんと10メートルしか離れていなかったんだね。このペースなら不測の事態に見舞われない限り、彼らは一次試験を全員合格するはず。宿泊所も同じなので、この試験中に仲良くなるヤツが必ず出てくるだろう。ボッチの俺は、それが羨ましかった。

 第四山脈を越え、第四峡谷に足を踏み入れる。この峡谷に着陸している飛行車で昼食を摂り1時間過ごすことにしている俺は、美雪に語りかけた。


「俺と飛行車の間に、生徒は残っている?」「残っているのは、飛行車にまだ着いていない生徒のみね」「ああそうか、飛行車や宿泊所に近い道ほど合格率の低い生徒が割り振られるんだった。一応訊くけど生徒が残っていなくても、斜め横断は厳禁だよね」


 宿泊所に早く着こうとして斜めに走ると、隣の生徒に接触する危険性が激増する。よって斜め走行厳禁とし、宿泊所の真横のラインに来たら停止して、AⅠと相談し安全確認しつつ宿泊所に近づくよう厳命されていた。合格率の高い生徒に強いるこの手間を「甘受されたし」と、人類軍は頼んでいたということ。といってもその方法で近づく距離は一人の例外を除き、長くても1キロ少しなんだけどね。

 そのたった一人の例外は、言うまでもなく俺。俺は飛行車の4キロ以上西の道を走っているからだ。そうはいっても今の俺にとって4キロは、誤差の範囲なんだけどさ。

 美雪の返答は、もちろん厳禁だった。ただし誰にも割り振られていない2キロの空白地帯は、準全速で走って良いという。2キロはもっと誤差でも、気分的にはありがたい。真横のラインで停止した俺は、まず2キロを準全速で駆けた。次いでジョギングの速度に落とし、残りの道のりを慎重に走って行った。その、数十秒後。


「ひょえ~~~」


 巨大なコロニー飛行車を仰ぎ見て、俺は幾度目とも知れぬ感嘆を上げたのだった。


 幅、奥行き、高さの三方向で人に「デカい」という印象を最も与えるのは、おそらく高さだろう。たとえば幅1キロ、奥行き1キロ、厚さ10センチのタイルが眼前に敷き詰められているとする。そのタイルへの印象は「広~い」であって「デッケ~」ではない。しかし厚さが10センチではなく10メートルになったら「デッケ~」になり、高さ100メートルになったら「バカデカ!」になる。幅と奥行きは同じでも高さが増すごとに、人はそれをより「デカい」と思うようになるのだ。

 その法則に従うなら、眼前に着陸している1万人乗りのコロニー飛行車は、言葉を失うレベルでデカい。なぜならこのコロニー飛行車は、一辺1100メートルの立方体の形状をしているからだ。そう何と、高さ1100メートルに達するのである。しかも横幅も1100メートルだから、1100メートル四方の垂直の崖が眼前に聳え立っているということ。もちろん崖ではなく光沢のある銀色の、真っ平な面だけどさ。

 このコロニー飛行車は普段は宇宙にいて、一年に三日もしくは五日間だけ地上に降り、臨時宿泊所として利用される。まったく使わず宇宙に放置しておくより、その方が耐用年数を延ばせるのだそうだ。「人の住まない家は一気に古くなる」という地球の言葉を、俺は思い出した。

 臨時宿泊所と言っても、生徒に解放されるのは最下層の避難所だけ。緊急脱出時はそこに一万人を収容し宇宙に出て、一週間かけて居住区域を整えるらしい。ただ植物区は建造時から機能しており、樹齢1千年超えの巨木の茂る森がどの飛行車の中にもあるという。戦士になって志願すれば着陸時限定の植物区調査士になれるそうだから、志願してみようかな。

 などとワクワクしつつ、高低差31メートル幅と長さが100メートルの坂道を上っていく。外壁が30メートルあるから、この坂道を自分の足で上らないと避難所に入れないんだね。この星の子供なら、3歳児でも楽々駆けあがって行くはずだけどさ。

 という訳で、避難所に足を踏み入れた。中は一階二階三階に分かれており、体力に余裕のある生徒は三階を使うことが推奨されている。ただ美雪によると正午の今、ここを使っている生徒は2000人おらず、三階を使うと嫌味になりかねないらしい。また疲労回復に専念したいなら一階、リラックスしたいなら二階という住み分けもされているそうだ。油断大敵を信条とする俺は、一階を使うことにした。

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