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 超山脈合宿で偉業を達成した生徒を皆で称えることが許されているのは、規則を優先する状況を時間内に率先して造ることが出来るからだ。できないなら一回目は保留されても、二回目はない。その一回目も半分学校だから設けられているにすぎず、軍人になったら保留は無いと覚悟せねばならない。そして星母様に教えを直接ほどこされる機会は、軍より遥かに厳しかったのである。


「二度目の失敗は、自分達が愚かだったせいで母さんにお礼を言えなかったと気づき、すすり泣きを始めたこと。幸い俺と翼さんに指摘されるより早く、昇と奏に失敗を正してもらえた。前世は前世、今生は今生。現時点における昇と奏は、君達の兄と姉なんだね」


 数十年後は判らないから油断せぬように。そう命じたところ、昇と奏は「「はい!」」と元気よく声を揃えた。役割分担として翼さんは笑み崩れて良いが、俺は微笑む程度に抑えなければならない。損な役回りに胸中嘆息し、話を進めた。


「三度目の失敗は、数えないこととする。『授業を受ける幸運も去って行った』と告げられ項垂れるも、自ら姿勢を正してみせたからだ。再度言おう、君達は『三度目で首の皮一枚つながった』と」


 顔をパッと輝かせた四人はその直後、己のすべてをつぎ込み姿勢を正してみせた。3歳児の小さな体でそれをされても厳格な空気を保てるほど、俺は成長していない。降参の仕草をして柔らかく微笑み、裁定を下した。


「母さんは理解を示しつつ、俺と翼さんに任せて消えた。母さんが示した理解を理解でき、かつ任された者として裁定する。一カ月の保留期間を設け、授業の可否は来月10日の夜に伝えることとする。翼さん、これでいいかな?」


 異論はございません、寛大な処置に感謝します。そう述べ腰を折った翼さんに続き、子供達六人も腰を折った。そんな事をされる人間ではないのに、厳格に頷いてみせねばならぬのが今の俺の務め。まったくもって、損な役回りだ。

 胸中そう毒づくも俺は笑みを、しかも偽りのない笑みを浮かべていたのだった。


 一カ月の保留期間を申し渡した身として、四人を一カ月間見守らねばならない義務が俺に生じた。それを介し、複数の貴重な学びを俺は得た。その二番目と一番目を挙げるなら、二番目は「弟子を取ると師は因果を背負わねばならない」になり、一番目は「俺を生んであげると母さんが言ったことに仮説を得た」になるだろう。

 二番目は、上司の監督責任として広く普及している概念の、因果法則版と言える。いや、逆か。部下を持った上司は部下の行いに応じた因果則を背負うため、因果則の相殺や軽減を目的とする業務上の監督責任を負うよう社会が整備された。これが、正しい説明だろう。社会における規則や法律は本来、因果則の相殺や軽減を目的として作られるべきなんだね。というように規則や法律はとても崇高なものなのに、不良議員や不良役人は私利私欲のためにそれらを使っている。したがってあの人達の背負う悪果は、途轍もないことになってしまった。自業自得とは言え、心穏やかではいられないというのが正直なところだ。

 話を戻そう。

 鷲達四人があそこまで未熟でなければ、初回特典として母さんが教えを直接ほどこし、年に一度は顔を見せてくれたかもしれない。けど、四人は未熟過ぎた。そのせいで大聖者にいらぬ因果を背負わせるという巨大なネガティブを創造せぬよう、最初から関りを持たない選択を大聖者はした。これが、去って行った仕組なのだ。

 ならば俺になら、背負わせていいのか? 俺は背負わされるのではなく、背負わねばならぬのである。未熟な俺を弟子に持ったせいで母さんにいらぬ悪果を背負わせた報いとして、四人の未熟な弟子を俺は持たねばならなかったんだね。

 とはいえ、もちろん限度はある。一カ月の保留期間中に時期尚早と判断したら、俺は心を鬼にして関りを断つだろう。

 かくして、鷲と橙と晴と藍を俺は見守った。見守ると言っても俺の能力では、瞑想中に四人の様子を本体に尋ねるのが精一杯だった。でも「期待に沿う努力を四人共していたよ」との返答を毎日受け取れたから、及第点の見守りだったとして良いのではないかと考えている。


 保留期間の終わった、2月10日。

 超山脈の講堂を退出した俺は昇と鷲と橙の夢を訪れ、三人を連れて翼さんの夢に向かった。里山の日本家屋の縁側に、翼さんと奏と晴と藍が横並びに座っている。挨拶して座敷に入り、大きな長方形のテーブルの上座に腰を下ろした。隣に翼さん、向かいの下座に子供達六人が座るのを待ち、普段は封印している視力に切り替える。封印していたのは、他者の心の成長度を計測できる視力。地球で認知されていたのは感情と健康状態を示すオーラばかりで、これに関してはついぞ聞いた事はなかった。心の成長を理解し最重視している霊能力者やスピリチュアリストや宗教家が地球にはいない、ということなのだろうな。

 母さんによると地球には、地球人全員の心の成長度を光の強さで表した装置が、三か所に設置されているという。直弟子以上はそれを見ることができ、地球の直弟子は1千人を軽く超えるから、全ての人の成長度はバレバレと思わねばならない。注意すべきはママ先生のように、組織に属さずとも地球を自力で卒業する人達も大勢いるということ。ある成長段階になったら必ず声がかかるのでは、決してないのだ。ならば、声のかかる人とかからない人を分かつのは、何なのか? 推測でしかないがそれは、今生もしくは来世で先生役になるか否かではないだろうか。「先生に適さぬ俺のような者が先生をせねばならぬ場合、まずはその人を生徒にする」のような感じだね。言うまでもなく俺とは逆の先生に適した人も、組織に呼ばれるんだろうけどさ。

 余談だが、遺伝子族およびネガティブな者達は同種の装置を持たず、また開発もできない。心の成長とは本体との共鳴率ゆえ、本体を持たぬ者や遠ざかっている者には不可能なのだ。しかし感情のオーラを機械で測定するのは容易いため、あの者達は都合の良い人達を選出して接触してくる。「超能力を持つ人や宇宙人と交流している人は偉いから自分も偉くなりたい」と望んでいる人達が、都合の良い人達の最右翼だ。前世の祖国では、超能力を持つか否かを本物の霊能力者を見分ける基準にしている人達が動画を多数配信していた。凹むぞ・・・・

 話を戻そう。

 結果を述べると、昇、奏、鷲、橙、晴、藍の六人は、一点を目指して突き進む一カ月を過ごしたようだ。一点とは、理想とする未来の自分。地球の言葉に直すなら、他者を目標にしている者は二流で終わる、になるかな。未熟な今の自分と本体を結ぶ直線を引き、その直線上に理想とする未来の自分があるなら、理想とする未来の自分を目指して突き進む人はいつか本体に至るってこと。という訳で俺は微笑み、


「実りある一カ月だったようだね」


 六人にそう告げた。六人は満面の笑みでガッツポーズし雄叫びを上げたのち、背筋を一斉に伸ばしてみせた。真面目顔に戻そうにも喜びを隠せずヘンテコ顔になっているのが、実に可愛い。上は6歳下は3歳の子供達なら尚更だね。俺は降参し、授業開始を宣言する。元気いっぱいの「「「「はい!」」」」を聞いた直後は頻度を考えていなかったけど、終わってみたら偶数月の10日という文字が、いつのまにか脳裏にあったのだった。

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