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 一つ目が長くなってしまった。二つ目に移ろう。

 今俺が力を入れている二つ目は、重軽スキルの発動時間を短くすること。これも努力が実り、8秒まで短縮することが出来た。とはいえ目標は、0.1秒未満。根気よく続けて行くしかないと思っている。

 スキル発動の短縮訓練は、戦闘中に行うよう工夫している。主な工夫は、ゴブリンを転倒させること。戦闘中にゴブリンを陽動して転ばせ、その隙に軽減スキルを発動する訓練をしているのだ。これは刀術の技術向上にもつながるため、最も熱心に取り組んでいることと言えよう。俺が戦闘順位を急上昇させられた理由の一つは、刀術による陽動を上達させたことにあるからね。お陰様で刀術スキルは予想成長曲線を一つ上回る、超級になっている。

 かくして訓練に没頭しているうち、終了時刻の午後6時になった。第一山脈に登ったため訓練ノルマはこなせなかったけど、問題ないだろう。問題はまったく別のところにあって、


「はあ。生徒は俺一人で残りは教官十人なんて、精神的にしんどいぞ」


 ということ。唯一の救いは教官達もこの合宿を自身の強化合宿にしているため疲労し、ウザ絡みをしてこないところだ。「翔、酌をしろ!」なんて、考えるのも嫌だからさ。

 そうこうするうち三日が過ぎ、最後の合宿は終わった。最後なので人類軍が気を利かせて、夕飯を豪華焼き肉にしてくれた。年にたった三度とはいえ、7年間の合宿を共にしてきた友人達との焼き肉は格別。俺達は今までで一番盛り上がり、脳内麻薬が出すぎて、酒を飲んでいないのに酩酊状態になる奴らが続出したほどだった。まったくもって、良き友である。どうにかなりそうなほど嬉しいのは、ここにいる1千人全員が戦闘順位100万位以内だから、戦士としてまたこうして会えるということ。千人で集まるのは難しくとも同じ人類軍にいれば、再会の機会は多々あるに違いない。いやはやまったく、嬉しいなあ。

 という訳で嬉しくて楽しくてヒャッハ―しまくり、涙とは無縁で中型飛行車に乗り、このノリのまま終わると思っていたのだけど、外れた。俺らの学校が飛行車を降りる最初の学校だったので立ち上がり、200人で降車口に向かっている最中、


「「「「空翔!!!」」」」


 背後から800人に呼び止められたのだ。何事かと驚き慌てて振り返ったところ、800人が立ち上がり俺に正対し鋭い眼差しを向けていた。普段の俺なら反射的に後ずさったはずだが、そうならなかったのは俺らが友だから。友の胸中は、なんとなく解るものなのである。よって背筋を伸ばしたところ、800人に声を揃えられた。


「「「「空翔の恩は生涯忘れない。7年間、ありがとう!!」」」」


 800人が一糸乱れず敬礼した。俺も皆に敬礼を返す。一拍置き、「またな翔!」に類する言葉が無数にこだました。俺は両手を掲げてブンブン振り「またね!」を繰り返す。それは俺が降車口をくぐり扉が閉まるまで続き、そして閉まると同時に双眸から涙が溢れた。5分経っても10分経っても涙腺は決壊し続け、入浴の終盤になってようやく俺は、溢れ出る涙を止めることが出来たのだった。


 ――――――


 話は前後する。

 元長老衆の四人、しゅうとうせいあいは全員もれなく、1月10日に前世の記憶を取り戻した。その日はひ孫弟子の講義に出席する日だったので講義後にまずは翼さん、続いて母さんと待ち合わせ、三人でそれぞれの夢を訪問した。個別訪問後に母さんが四人を集め、そこに俺と翼さんが昇と奏を連れて来たものだからヤベエ状況になった。「ヒャッハ―!」が、いつまで経っても止まらなかったのである。母さんは理解を示しつつも、思う所があったのだろう。「じゃあ後はヨロシクね」と、俺と翼さんに任せて消えてしまった。人は失敗を通じて学ぶしかない、哀れな生き物なのだ。そう諦めた俺と翼さんは、ベンチを創造し二人並んで腰かけ、再会を喜ぶ六人を見守った。

 母さんが消えた、1分後くらいだろうか。俺と翼さんしかいない事にやっと気づいた六人は、自分達の愚かさが悔しくて悔しくてならないようだった。でもここは、後悔先に立たずを身をもって学んでもらうしかない。同じ過ちを二度と繰り返さぬよう諭し、六人が地に額を付けて誓いを立てたのを見届けてから、今夜の目的に俺は移った。

 目的の一つは、昇と奏の体験談を発表してもらうこと。前世を思い出したら、親子関係はどうなるのか。どのような体験と考察を経て、「3歳の今の自分を生きる決断」をするに至ったのか。そしてその決断が、どのような日々をもたらしたのか。それらを、実際に経験した昇と奏に話してもらったのである。鷲達四人はこの体験談の価値を即座に理解し、全身を耳にして聴いていた。もちろん最後に「昇と奏の話は参考に留め、最終決定は必ず自分で行うこと」と厳命したけどね。

 二つ目は、鷲達四人が同じ幼年学校に入学できるよう母さんが手配してくれたと明かすこと。それを知り四人は喜色を浮かべるも、それは一瞬で過ぎ去り、その後は無限に後悔していた。自分達が愚かだったせいで母さんにお礼を言えなかったと、気づいたのだ。3歳児の体に引っ張られたのか、四人はすすり泣きを始めた。3歳児なのだから、それで仕方ないのだろう。幸い昇と奏が機を見て「同じ過ちを繰り返す寸前だよ」「それでいいの?」と語りかけたお陰で、比較的すぐ泣き止んでくれた。昇と奏のお兄ちゃんお姉ちゃん振りに、俺と翼さんは胸をポカポカにしたものだった。

 最後は、訓練について。呼吸法等は、ご両親が教えてくれる。戦士の自発的訓練は銀翼スキル習得を主とし、集中スキル習得を従とする。集中スキルは天風一族が現在大々的に訓練を開始しており、多数の有益情報を見込めるため、同時期に始めることを勧めた。

 以上三つでこちらからは終わり、質問あるかな? そう問うたところ、四本の手が一斉に挙がった。積極的で良いと褒め、鷲を指名する。「この授業を今後も開いて頂けますか?」 との問いは他の三人も同じだったらしく、四対の瞳が俺に向けられた。すべての瞳が、怯えの色を多分に含んでいる。ここは洗いざらい伝えるが上策と、俺は判断した。


「招かれる者多かれど、選ばれる者少なし。鷲と橙と晴と藍は選ばれたのでもなければ、招かれたのでもない。君達は前世の努力と縁により、今日の幸運をたまたま得たに過ぎないのが現実。母さんが去った時点で、授業を受けるという更なる幸運も、去って行ったんだよ」


 四人は正座を維持できぬほど落ち込んだ。しかし三度目のことゆえ、声を掛けられる前に自ら姿勢を正してみせた。「三度目で首の皮一枚つながったな」と告げ、その説明をする。


「一度目の失敗は、再開の喜びに浸るあまり学びの機会を失念したこと。前世で戦士養成学校を卒業した君達は、経験しているよね。生徒は学校の規則より喜びを優先させる機会を与えられるが、制限時間内に規則を優先させる自分達になれなかったら、機会を失うことになるのだと」

最近の若者や子供達は「しっかり教えなかった方が悪い」系の言葉をよく口にします。


そういう者達は招かれる事すらないのだと、私は断言します。

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