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無限の闇の中へ堕ちてしまいそうだ、この辺で止めておこう。
そうそう、転生時に無限の闇の中へ自ら堕ちたとしても、そこで未来永劫すごすのではない。永劫のように引き延ばされた時間の中で、苦しむだけなんだね。三次元物質時間しか知らない地球人は、「地獄の時間も地球時間と同じ」と無意識に考えてしまうということ。だからといって俺と翼さんがそんな目に遭ったら、今生で知り合った大勢の人達を悲しませてしまう。したがって、避けるに越したことは無いのだ。
といった具合に暇を見つけてアレコレ考えているうち、本拠地の滞在期間は終わった。今は鴇と夏が昇と奏にしがみ付き「「行っちゃヤダ~」」とギャン泣きしているのを、綾乃さんと茜さんが宥めている時間。次に会うまで七カ月以上かかるなんて、2歳児にとっては準永別のようなものだから仕方ないのである。もっとも来年4月のスキル検査までに、鴇と夏も前世の記憶を取り戻すのだろうけどさ。あれ? 取り戻すんだよね?
「ねえ翼さん」「はい、なんでしょう」「鴇と夏は来年4月のスキル検査までに、前世の記憶を取り戻すんだっけ?」「確定事項と聞いたことは、ありません」「やはりそうか。翼さんの見解は?」「五家の直系でも、全員が前世を思い出すことはありません。また前世の記憶と今生の戦士としての優秀さに、関連はないと五家ではされています。実際、鶴は覚えていませんしね」「なるほど、ありがとう」「どういたしまして」
なぜかその時、ふと提案しそうになった。翼さん、来世も同じ星に転生しない?
けど、それがなされる事はなかった。泣き止まない鴇と夏に業を煮やした綾乃さんと茜さんが二人を抱きかかえるなり、翼さんが昇と奏へ足を向けたからだ。翼さんは昇と奏の前で膝を付き、二人を抱き寄せる。鴇と夏がギャン泣きしていた時は微笑ましい空気が場を包んでいたのに、今はすすり泣きが方々から聞こえてくるようになった。それに影響されたのか、昇と奏が涙を零す。その涙をハンカチで拭いてあげ、ひとしきり頭を撫でてから、
「またいらっしゃい」
翼さんは立ち上がった。堰を切ったように泣き始めた二人を、俺は抱き上げる。そして、
「翼さん、また今度」
「はい、また今度」
俺と昇と奏はリムジン飛行車に乗り、この地を去ったのだった。
――――――
冬休みが終わり二カ月経った、3月中旬。
最後の超山脈合宿が始まった。
戦士になるか否かが決定する最後の試験まで三週間を切り、かつその最後の試験に超山脈縦断が含まれているとくれば、皆の目の色が変わって当然。俺以外の999人の野郎共は子供の頃からの夢を叶えるべく、土煙を上げて第一山脈北麓を駆け登っていった。繰り返しになるけど、俺以外はね。ははは・・・・
とはいえ俺も、第一山脈北麓をこれから駆け登ることに変わりはない。ただ体重軽減率が58%になり皆の目を誤魔化すのが困難になったため、誤魔化せる走りを模索する必要があったのだ。俺を含む1千人は、最後の試験に合格すべく7年間に渡る長期計画を立て努力してきた。全員がそれを順調に消化し、万全の状態で試験に臨める目途が立っているのだから、体重軽減スキルが漏洩して波風を立てるのは百害あって一利なしなのである。かくしてボッチとなった俺は土煙を上げることのない、試行錯誤のノロノロ走りで山を登っていった。
体重軽減スキルは当初、一月に5%ずつ軽減率を上げていた。それが秋ごろから6%に上昇し、今は当初の予想より5%多い軽減率58%になっている。試験日には60%を超え、一次試験の超山脈縦断がチートレベルで有利になってしまった。う~む、やはりどう考えても、この時期の秘密漏洩は迷惑すぎる。俺は気合を入れ直し、誤魔化せる走りを模索した。
その甲斐あって、第一山脈北麓を登頂し下山するころには、確かな手ごたえを得ることが出来た。ならば次は、戦闘中の軽減率上げだ。手ごたえを得たことを霧島教官に報告し、ゴブリンとの戦闘訓練に移る許可を請う。事情を知る霧島教官は即座に許可し、「励め」と発破をかけてくれた。俺は敬礼し、合宿所横の戦闘訓練場へ駆けて行った。
超山脈の合宿所は、1年生から6年生までは第五山脈南麓にある。この合宿の主目的は走力向上なため、1年生から6年生までの合宿所に戦闘訓練場はなく、また戦闘訓練が許可されることも皆無と言える。しかし第一山脈北麓に合宿所のある7年生は例外とされ、理由は4月1日の一次試験で超山脈を一往復半する生徒が稀にいるからだ。そういう生徒に「合宿ではとにかく走り続けろ」なんて、この星では強要しないんだね。
ちなみに俺は、6年生の第二回合宿で超山脈を一往復半した。美雪は当時、20歳の試験で人類初の二往復を披露可能としつつも、
「優先すべきは4月4日に控える、人生初のゴブリンとの実戦。二往復は勧められないわ」
と結論した。俺の勘は「平気っぽい」と囁いていたが、人類初はもうこりごりというのが本音。6年時の一往復半も、正直面倒だったんだよね。でも今更だけど、体重軽減スキルも時間遅延スキルも人類初なんだった。ヤバい、想像しただけでメンドクサイぞ!
心の平安を保つべく、話を戻そう。
7年生の合宿所には戦闘訓練場があり、教官の許可があれば使用できる。ただし一人用が一つあるだけなため、合宿前に申請しておくのが望ましいとされている。颯によると戦闘訓練場のある合宿所は数えるほどしかなく、申請者のいた学校がそこに振り分けられるという。颯達トップ10も使ったことがないそうだから、俺目立っているんだろうな・・・
心の平安を保つべく、話を替えよう。
俺が今、力を入れているものは二つある。一つは、戦闘時の体重軽減率を上げること。努力が実り、10%軽減なら戦闘中も行えるようになった。ただそれを長時間したところ、問題が発生した。軽減率を上げるべく体重を軽くした戦闘ばかりをすると、通常の体重に戻したとき、体を重く感じるようになったのだ。この危険性は、逆を考えるとたちまち理解できる。たとえば重力が五割増しの星で長期間訓練した甲斐あって、五割増しでも以前のように戦えるようになったとする。戦えるようになってから元の星に戻ったら、体も武器も軽く感じて戦闘を有利に進められるだろう。では反対に、重力が五割減の星で訓練したらどうなるのか? 元の星に戻ったら体も武器も重く感じ、戦いが不利になるのは避けられない。という状況を、軽減率上昇訓練は招くと判ったんだね。
しかし戦闘中の軽減率を上昇させるためには、軽減スキルを発動して戦うしかないのも事実。よって美雪にシミュレーションしてもらったところ、訓練開始直後の30分だけなら問題ないと判明した。30分間軽くしてもその後の7時間半を本来の体重で戦えば、慣れを回避できるそうなのである。ピンと閃き、軽減スキルとは正反対の加重スキルもシミュレーションしてもらったところ、興味深い結果が出た。加重を掛け過ぎると余分な筋肉が付き体重増によるスピード減を招くが、加重5%なら体重増を避けつつ、スピード上昇を狙えるらしいのだ。こりゃ面白いということになり加重スキルを模索しているけど、進展なしの状態が続いている。
一つ目が長くなってしまった。二つ目に移ろう。




