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 その理由は、一にも二にも輝力にあるという。物質肉体の身体能力がいかに高かろうと、乏しい輝力量を(つたな)い輝力操作では戦士になれない。そして輝力量と輝力操作の訓練を始めるのは、3歳。3歳の精神年齢では本格的な訓練など不可能だが、それは裏を返せば、精神年齢が高ければ高いほど3歳でも本格的な訓練が可能になるということ。かくして精神年齢の高さと戦闘力の高さは比例するという非常に顕著な傾向が、7歳の試験で見られるのだそうだ。う~んでも美雪がチラッと言ったように、俺はその数少ない例外なんだろうな!

 と思っていたのだけど、それは外れると同時に当たっていた。外れていたのは、つまり俺も例外ではなかったのはコレだった。


「翔は昨日、落ちこぼれを自覚しているって言ってたよね。確かにそれは、3歳の4月の時点では正しかった。三大有用スキルを一つも所持しておらず、孤児院の100人の中で最下位になった翔は、孤児院から最も離れたこの訓練場をあてがわれたわ。よって最下位という順位だけに着目するなら、上位50%のみが合格する試験を突破するのは非常に困難なはず。にもかかわらず、4月1日の試験であり得ないほどの失敗をしない限り、翔の合格は確定だって母さんと私は予想しているの。翔はこの4年間で、最下位から中間まで成績を伸ばしてみせたのよ。それは翔の精神年齢が、数百万人に一人のレベルで高かったからなのね」


 3歳から始まる戦闘訓練で泣く素振りの微塵もない俺のような子は、1000万人中に片手の指で足りるほどしかいない。との情報を、母さんは以前テレパシーで教えてくれた。泣くことと精神年齢の高さには、関係があるような無いようなというのが正直なところでも、母神様が言うのだからきっとあるのだろう。という訳でこれが、俺は例外という予想が外れたことだったのである。

 と同時に、俺は例外という予想が当たったこともあった。それは、数百万人に一人のレベルで精神年齢が高いにもかかわらず、戦闘力は中間ということだった。戦闘力が中間ということは、合格者の中では最下位クラスということ。そうそれが傾向に当てはまらない、例外だったのだ。そしてこの例外こそが・・・・


「姉ちゃん、謎がやっと解けたよ」


 そう俺は、謎をやっと解くことが出来たのである。さっぱりした俺はさっぱりした表情で、美雪にそれを説明した。


「合格者の中では戦闘力が最下位の孤児院に、僕は振り分けられる。孤児院の子たちと僕の戦闘力は同レベルだから、ゴブリン戦の連携は簡単なように思える。でも、それは違う。僕は皆と、連携を上手く取れないはず。理由は、僕と皆の精神年齢に大きな差があるからだ。差の弊害は生活にも及び、僕は戦闘訓練と生活の両方で、きっと1人ぼっちになるのだろう。僕が幾度も言われた『翔は4月から苦労する』は、こういう事だったんだね。姉ちゃん、可能なら教えて欲しいんだけど、僕が孤児院で一緒に暮らす子供達の精神年齢は、何歳くらいなのかな?」


 この問いを、俺は引き続きさっぱりした表情でした。4月から苦労する仕組みを理解して覚悟できたから、美雪も心配顔を止めてね、との気持ちを込めて晴れ晴れと問うたのである。それを酌み美雪も心配顔を改め、正確には半分だけ改めた若干の不安顔で答えた。


「母さんによると、翔が前世で暮らしていた日本の、小学5年生の精神年齢くらいだって」


 美雪が白状したところによると、美雪は俺の問いに答えられなかったらしい。理由は、俺と美雪の両方にあった。俺の理由は、アトランティス人の精神年齢を俺が知らないこと。前世の記憶を思い出した翌々日からこの訓練場に引きこもり、孤児院の子たちと交流してこなかったため、アトランティス人の精神年齢は地球人だとこれくらいという感覚を、俺は持っていなかったのである。

 美雪の方の理由は、地球人の精神年齢を知らなかったこと。俺の精神年齢は、前世の日本人を基準にしている。よってそれに沿って答えねばならないのに、美雪はそれを知らなかったので、返答不可能だったらしいのだ。そうはいっても母さんに訊けば、大抵のことは容易く判明するんだろうけどさ。

 と思っていたのだけど、この件に関しては母さんにも難しかったらしい。その最大の理由は、地球人にある。地球人は、心の成長を定義づけていない。いやそれどころか、心の成長をまったく重視していない。そのせいで国や地域や個人によって成長度に差がありすぎ、平均値を出すのが非常に困難なのだそうだ。という説明を聴いた俺は、諸手を挙げて同意した。孤児院の子が教室にいなかった人には分かりづらいだろうが、孤児院の子というだけで酷い差別やイジメをする奴らがいる。もちろんとても良い人達もいて、その人達の精神年齢は高いに違いないが、だからといって進学試験が有利になったりはしない。孤児院の子を陰でイジメていようと、心の中で差別していようと、つまり精神年齢が低かろうと、勉強さえできれば高学歴になるのが日本だったのである。なんて感じの話をしたところ、


「前世の翔が不憫すぎるよ」


 と美雪を泣かせてしまった。しかも今回はなかなか泣き止まず、泣き止んでからも顔を曇らせたままだったので、美雪を励ますことに俺は全力を投じた。それが実り最後は元気になったが、元気になった時間と訓練終了時間が同じだったのは、苦笑するしかなかったのだった。


 ――――――


 という訳で、翌日の午後2時。


「翔、昨日も一昨日もゴメン。今日こそは、講義を頑張るからね!」


 午後の訓練時間が始まるや、美雪はガッツポーズをしてそう宣言した。気合いを表現しているのか、燃え盛る炎の3D映像を美雪は自分に重ねている。前世の子供時代に見ていた昭和のアニメを彷彿とさせるその演出に、俺は思わず噴き出してしまった。美雪も一緒にころころ笑っていたから、それで正解だったんだろうな。

 昨日と同じく今日も、講義は前日の続きから始まった。けどそれを指摘したら、一度あることは二度ある二度あることは三度ある、を引き寄せてしまうかもしれない。よってフラグになりかねない突っ込みを控え、美雪の言葉に俺は耳を傾けた。


「母さんが言うには、アトランティス人と地球人の精神年齢は、満3歳まではさほど変わらないそうよ。ただそれ以降は、著しい差が出る。満3歳から20歳までは二倍速、20歳から110歳までは三倍速、それ以降は四倍速でアトランティス人は精神を成長させるって考えたら、だいたい合っているんだって」

「むっ、頑張って暗算してみるね。えっと、アトランティス人の20歳は地球人の37歳。110歳は、303歳。平均寿命の125歳は、363歳かな」


 ご名答~と拍手する美雪にどうもどうもと頭を掻いたのち、複数ある質問を厳選し、まずは何よりこれを尋ねた。


「今日の講義は時間に余裕がない?」

「安心して、余裕はたっぷりあるわ」

「良かった。じゃあ質問があるんだけど、その前に僕の推測を話すから、間違ってたら遠慮せず指摘してね」


 美雪の言葉を信じ、時間を贅沢に使って推測を整理してから話した。


「心の成長の定義づけを地球人が未だしていないことを、美雪は憂えていたよね。つまりアトランティス人はそれを完了させていて、かつ社会にそれがあまねく浸透しているから、アトランティス人は地球人より精神年齢が高い。という推測は、合ってる?」


 合ってるよ~と拍手する美雪にど~もど~もと頭を掻くことで、「一度あることは二度ある」を図らずも成就してしまった俺は、三度目を回避すべく慎重に話した。


「アトランティス人は人生の節目を通過するたび、心の成長速度を上昇させていく。輝力訓練を開始する3歳で二倍速になり、社会人になる20歳で三倍速になり、老いを自覚する110歳で四倍速になる、といった感じだね。これはこの星で定義されている心の成長が、核心を突いている証拠だと思う。核心を突いているから心を成長させるほど定義への理解が深まり、理解が深まるほど心を成長させやすくなって、速度も上昇していく。こういう事なんだろうなって、僕は思ったんだ」

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