表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/759

4

 なんて感じに母さんが場を盛り上げてくれたお陰で、目の大洪水を食い止めることに成功した。それは嬉しい出来事のはずなのに、心を占拠していたのは恐怖だった。なぜなら俺は母さんに、前世を隅から隅まで知られていたからである。でも、女神様を母に持った時点でこれ関連のことは、諦めなきゃいけないのかもしれないな・・・・

 などと往生際悪く考えているうち、女性陣のおしゃべりは終っていたらしい。慌てて背筋を伸ばした俺にクスクス笑い、母さんは魔法陣について話し始めた。俺は瞳を輝かせて耳を傾けていたが、それは10秒続かなかった。なぜなら母さんが冒頭で、こう説いたからだ。「地球の小説では魔法陣を、魔法を発現する魔法回路として描写することが多いけど、あれにそんな力は無いのよね」と。


 振字(しんじ)について学んでいる最中、魔法陣もそうだったりして、との思いが心をチラッとかすめた。心に影響を及ぼす振動を直線と曲線で生じさせる振字のように、世界に影響を及ぼす振動を直線と曲線と円で生じさせるのが魔法陣なのかな、と思ったのである。

 ちなみにそれは単なる思い付きであって、閃きではない。俺にとって閃きは松果体が放った高密度高振動の意識であるのに対し、思い付きにそんな特殊性は微塵もなく、そして魔法陣の振動云々にも特殊性は微塵もなかったからだ。けどまあそれはさて置き。


「翔ったら気落ちしているようね。理由を話してごらん」


 心がポカポカ温かくなる声で、母さんにそう促された。俺は胸の温かさを感じながら、魔法陣への思い付きが外れたことと、閃きと思い付きの違いについて説明していった。意外にもそれは美雪と冴子ちゃんの興味をしこたま引き、高密度高振動の意識についてしばし質問攻めにされたほどだった。でも再度それは置いて。


「ふふふ、翔はこれを聴いても気落ちしたままでいられるかな。魔法陣は宇宙創造の過程を図式化したものと、宇宙の構造を図式化したものの、二種類に大別されるのよ」

「どわっ、元気百倍になりました! 母さんどうか教えてください!!」


 偽りなく元気百倍になった俺に笑いが爆発した。そんなのお構いなしに瞳を爛々と輝かせる俺へ、母さんはさも楽しげに教えを施してゆく。それは前世の俺が夢見た、神秘中の神秘を開示してもらえた一時だった。またその派生知識も面白くて堪らなく、冗談抜きで俺はどうにかなりそうだった。たとえば「失われたアークって、今はあの国にあるんだ!」や「箸墓古墳に『人ならざる者達が夜に働いていた』という伝説があるのは、そういう理由だったんだ!」や「メ、メルキゼデクってイエスの・・・!!」や「米国の南北戦争時代にプテラノドンの写真が・・・」「並行世界の体験談って・・・」「ピラミッド・・・」「巨人伝説・・・」「シャンバラと地底世界・・・」「ムーの王族の生き残りが納められていた黄金やプラチナ製の(ひつぎ)をそんな用途に使っちゃったの!? そりゃ戦争に負けて当然だ」等々の、値千金どころではない大量の情報を、テレパシーで心に直接届けてもらえたのである。しかし悲しいかな、時間は無限ではない。


「翔、母は楽しかった。続きはまた今度にしましょう」


 最後にひときわ明るく輝き、母さんが元の次元に帰ってしまったのだ。大興奮状態から一転して俯いた俺の背中を、美雪と冴子ちゃんが優しく叩いた。


「翔、部屋に帰ってベッドで休みなさい」

「夕ご飯には起こすから、安心して寝るのよ」


 うんそうするねと力なく応え、俺はトボトボ歩いてテーブルを離れてゆく。その耳朶を、美雪とナイショ話をしていたはずの冴子ちゃんの声が、なぜかくすぐった。


「美雪、翔が呼び捨てにした初めての女性になった気分は?」


 ああ冴子ちゃん、それは言いがかりにも程がありますよ! と天を仰いだ俺の耳が、想定外の声をはっきり捉えた。なんと、


「もちろん嬉しかったよ」

 

 美雪は心底嬉しげに、そう答えたのである。「はいはいご馳走様」「ご馳走様って何?」と、明らかに嚙み合っていない会話に躓きかけた俺は、躓きをトボトボ歩きに混ぜて誤魔化すことで、どうにかこうにかベッドに辿り着くことができたのだった。


 ――――――


 翌日早朝の、軽業の最中。

 ふと思い立ち、輝力を使わないムーンサルトに挑戦してみた。ムーンサルトとは、後方伸身2回宙返り2回ひねりのこと。かなりの高難度技で、前世の俺には夢物語でしかなかったのに、あっさりできてしまった。嬉しくてならず、俺は時間を忘れてムーンサルトに没頭した。


 続く朝食時、今日を含む12日間の午前の訓練内容について美雪と話し合った。その結果、並の強さのゴブリン2体と休憩なしで可能な限り戦い続けるという、一般的には狂気の沙汰の訓練をすることになった。だがそこは、神話級の健康スキルの持ち主。実際にしてみたところ、俺はそれを普通にこなしてしまったのである。そんな俺を手放しで褒めるべきなのか、それとも慢心せぬよう諫めるべきなのかを、美雪は眉間に皺を寄せて悩んでいた。


 その日の午後の訓練は、完全自由となった。美雪によると、戦場で臨時分隊を組む訓練は7歳児には難し過ぎるので、本来なら二日かけて挑戦するという。俺のようにそれを一日で合格した子は、仲間が一人一人いなくなっていく訓練は抜き打ちテストだったということを、本当は今日教えられるそうだ。しかし俺は昨日の時点でそれに自力で気づいたため、今日の午後にすることが完全になくなってしまったらしいのである。という次第で「午後の4時間の希望はある?」と美雪に問われた俺は、「可能なら亮介や冴子ちゃんたち9人と一緒に訓練したい」と答えた。来月から生活環境が変わるという事は、亮介たちと一緒に戦える機会は、そうそう巡ってこないのではないか? そんなふうに感じたんだね。

 ちなみに臨時分隊を組む訓練に二日を要した子は、抜き打ちテストの件を教えられることは無いという。むむう、想像以上に厳しい試験だったんだな・・・・

 それはさて置き。


「亮介たちと訓練したいのね、もちろんいいよ」


 美雪は俺の願いを、あっさり叶えてくれた。その直後、この一年間苦楽を共にしてきた9人が、俺の前にズラリと現れる。

 それからの4時間以上に楽しかった訓練を、俺は知らない。


 ――――――


 翌、3月21日。

 その日の午後から、情報開示が本格的に始まった。といっても初日の最初は、一昨日の続きだった。一昨日は冴子ちゃんが秘密をうっかり漏らしたり母さんが突如参加したりして、振字の講義を終わらせられなかったそうなのである。「残っているのはほんの数分だったから油断していたら、その数分を最後まで確保できなかったの」 そう言って頭をコツンと叩いた美雪はやたら可愛く、俺は顔が赤くなるのを必死になって阻止したものだ。幸いそれはバレなかったらしく、美雪は講義を嬉々として始めた。


「身体能力テストと、二回目のスキル審査を、4月1日に受けてもらいます。その結果を踏まえて、孤児院の子供たちの総入れ替えが行われます。新しい孤児院で一緒に暮らすことになった初対面の100人の名前を覚えるさい、振字が役に立つんですね」


 子供の名前には、親の価値観が込められている。例えば、「人生で最も大切なのは愛情と考えている親が、愛の字を子供の名前に用いた」のような感じだね。これは前世の日本も同様だったけど、アトランティス星の人々は比較にならぬほどそれを重視するという。なぜなら振字はそれぞれが固有の振動を持っているため、たとえ出生後すぐ親元を離れたとしても、名前の意味が人間性と人生に強く影響するからだそうだ。


「あれ? じゃあ僕の空翔(そらかける)も、人間性と人生に強く影響しているって事?」


 ヘタレの俺は数少ない例外なんじゃないかな、と首を真顔で捻った。だって美雪と2人でいる時の一人称は未だに僕だし、美雪のことも姉ちゃんって呼んでるしなあ・・・・


「ふふふ、翔は空を翔る勢いで成長しているよ」

「そ、そうなのかな」

「ええそうよ。4月1日にはっきりするでしょう」

「やった~~!!」


 なんて具合に少々脱線してしまったが美雪によると、他惑星からの転生者かつ訓練場に引きこもってきた俺にとって、この講義は極めて重要とのことだった。相手の名前を覚えることがアトランティス星においてどれほど重要かを、俺はまったく学んでいないそうなのである。事の重大さにやっと気づき頭を抱えた俺の背中を、美雪が「頑張ってね」と撫でる。「姉ちゃん僕、頑張るよ」 との約束を機に、講義は別の内容へ移った。それは俺が幾度か言われた「翔は4月から苦労する」の、謎を解く講義だった。


「翔が言い当てたように、同年齢の1000万人は試験ごとに半減していきます。そして7歳の試験に合格する500万人の戦闘力には、顕著な傾向があります。精神年齢の高さと戦闘力の高さが、比例するのです。もちろん例外もありますが精神年齢が高ければ高いほど戦闘力も高く、テストで優秀な成績を収めるんですね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ