表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
378/681

7

「心の成長が(ゼロ)になるのは出生する瞬間の、赤子の松果体が本体と連結する時です。出生前の雲の上の幼稚園ではまだ0になっておらず、幼く純粋なままです。その子たちは、地球卒業の進捗度によって既にグループ分けされていて、『進捗度に応じた選択権』を行使できます。来世の能力や容姿や出生環境を選ぶ自由度は進捗度に比例しますが、既にグループ分けされていて全員ほぼ横並びになっているため、子供達が選択権の差に気づくこともほぼありません。ただ同一グループ内にも進捗に僅かな差があり、それが選択権の差となって現れますが、幼い心ではそれを理解できず、何より耐えることができません。心の成長した良き母親を、別の子は選べたのに自分は選べなかった仕組みを、雲の上の子にまだ伝えるべきではないのです。したがってジャンケン等の『子供達が納得できる方法』が雲の上では用いられ、それらを手助けする星務員も雲の上にいます。その星務員達も子供達が納得可能な、天使や白髪白髭の神の姿をしています。天使や神は天使や神ではなく、私達と同じ人なのです」


 ここら辺の知識がないと出生前記憶を正しく解釈できず、混乱を招くことの方が多い。よって雲の上の出来事を忘れるよう子供は促されるが、例外もある。俺が地球にいた頃は例外が頻発した時期であり、悲しいかなやはり混乱をもたらしていた。未来を見る能力はすべての人が持っているのに、「未来を見る子供達は優れている」や「地球より優れた星から転生した子は自動的に優れた話をする」がその代表だ。心の成長を0からやり直すのでたとえ未来を見ようと優れた星から来ようと子供の戯言たわごとも多々含まれているのだけど、心の未熟な大人は価値ある話と戯言を区別できず、ぶっちゃけると混乱は大人達が引き起こしていた。ここの講義で習うような特殊な知識がなくても心さえしっかり成長していれば、区別が容易な戯言だったんだけどな。社会改善に励む親へ「どうせ何も変わらないのだから頑張っても無駄だよ」と言い放った子供もいてこれは戯言の域を超えているのに、それを区別できない大人のいることの方が、俺には理解不可能だった。

 またその子たちの未来視能力はすべての人が持っている汎用版の未来視能力の更に子供版にすぎず、心の成長と共に獲得する上位版の未来視能力ではないため、正直言って外れまくっていた。汎用版では葉は見えても葉を茂らせる枝や、多数の枝を支える幹を見ることができないから外れやすいのだけど、「大難を小難に変えたから外れたように見えるだけ」とか言っていたな。

 それはそうと、小鳥姉さんも日本と同じ雲の上の幼稚園を取り上げたのは驚いた。地域や民族による特色を知りたかった身としては、少々残念だったというのが本音だ。

 それはさて置き、おさらいを兼ねた小鳥姉さんの説明に母さんは満足したらしい。母さんの力でこの三人だけ時間が引き延ばされているけど、早く復帰するに越したことはない。かくして母さんは、小鳥姉さんの子の個人情報を明かした。


「その子は、昇の前世の妻です。その子は亡くなったさい、夫がこの星に再転生する可能性を知りました。その場合は自分もすぐ転生できるよう、卒業時に星務員を選んでいたのです。小鳥、その子をよろしくお願いします」


 腰を折った母さんに、小鳥姉さんは深々と腰を折って応じた。母親の小鳥姉さんより俺は頭を下げねばならぬと思い上体を直角に折ったのは、正解だったみたいだ。「小鳥、翔、質問があったら遠慮しないでね」のように、俺も質問を許されたんだね。小鳥姉さんに顔を向けたところ、満ち足りた表情でお腹に手を添え首を横に振るだけだった。母は強しなのだろうが、俺はヘタレ者。へなちょこの俺には、可能なら確認しておきたい事があったのである。


「母さん、質問させてください。生まれて来るお子さんの個人情報を、夫の達也さんと親友の深森夫妻に話すか否かの選択権を託されるのは、小鳥姉さんです。また小鳥姉さんの選択権には、お子さんと昇の両方と縁の深い翼さんも含まれると思います。そして翼さんに限ってのみ、俺にも選択権が譲渡されると感じるのは、間違っていますか?」


 きっと予想していたのだろう、翼さんの名が出ても小鳥姉さんは少しも動じず姿勢を正しただけだった。予想には母さんの返答も含まれるはずで、つまり解っていないのは俺だけで心苦しいのだけど、ヘタレを改善するなら質問しない手はない。俺は全身を耳にした。


「訂正箇所はありません。小鳥、翼に限ってのみ翔にも選択権を譲渡していい?」「異存ございません。我が師のお心のままに」「ありがとう小鳥」


 小鳥姉さんへの感謝の言葉をもって、三人の時間速度を母さんは通常に戻した。講義開始まで、残り数秒といったところかな? との読みは当たり俺達は十秒を待たず、母さんのオウムを聴く僥倖に恵まれたのだった。


 ――――――


 翌日の昼食時、小松さんと若林さんのメールを受け取った。翼さんが「通常の休日と強制休日の入れ替えを人類軍に許可されました。銀騎士隊の教導班を2月1日から務められます」と、二人に連絡してきたそうなのである。二人は続けて「翼さんはその連絡を翔さんにしていないそうですが、何かありましたか?」と訊いてきて、返答に困った。翼さんのプライバシーと母さんの組織の両方が、この件に絡んでいるからだ。小松さんは母さんの組織に何となく入らない気がしていたけど、入ってもらったら意思疎通が楽になるのは事実。だが銀騎士隊の隊員は非組織人が圧倒的に多いのだから、幹部にも非組織人がいないとバランスを欠いてしまうと俺は考えていた。しかし翼さんが組織に入り、小松さんがたった一人の非組織幹部になると事情は変ってくる。疎外感に類する感情を、本能的に察知してしまう虞があるのだ。板挟みになった若林さんは苦しむことになり、するとそれも小松さんは察知して、友情に罅が入るかもしれない。俺は路線変更し、小松さんが組織に入る未来を思い描いていく。それに基づき、返信を綴った。


『去年の今ごろ、翼さんはたった一人の肉親を失いました。その直後、俺に依存していることに気づいた翼さんは、依存を断ち切る決意をしたと俺は聞いています。それ以降の翼さんの行動にはその決意が度々見られ、教導班を務める件にもそれを感じました。翼さんが教導班として働くことに、俺は賛成します』


 そのメールを二人に同時送信し、次いで若林さんのみに送るメールを綴ってゆく。


『翼さんは来月から、若林さんの講義仲間になります。ひ孫弟子候補生になる覚悟の一環として、他者の成長を助ける仕事に自ら就こうと翼さんは思ったのかもしれません。話は変わりますが、白銀騎士団の幹部で小松さんだけが非組織メンバーになったら・・・』


 このメールは美雪に頼み、若林さんが一人でいる時に送信してもらうようにした。二人の友情に罅が入るかもしれないことは、なるべく避けねばならないからさ。

「今回で地球を卒業する人の特徴」系の動画を、しばしば見かけるようになりました。


私が確認したものに限りますが、同意する動画に出会ったことは一度ありません。14万4千人も、同意したことは一度もないですね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ