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 赤ちゃんの超マジ半端なさはその後も留まることを知らず、気づくと翌々日の朝ご飯を食べ終えていた。競い合って「べろべろば~」等をしていただけで、1日半がいつの間にか過ぎていたのだ。俺と勇はこの事実に驚愕したが、そこはやはり男女の違いなのだろう。舞ちゃんは1日半が矢のように過ぎたことを、至極当然としか考えていないようだった。昇も舞ちゃんが大好きらしく、舞ちゃんに抱っこされると俺や勇の時より上機嫌な気がする。そんな舞ちゃんと昇に勇がある決定をしたと感じたので訊いてみたところ、推測どおり「俺一人で剣持家の合宿所に行こうと思う」と返された。勇と舞ちゃんは冬も剣持家の合宿所に行く予定だったが、舞ちゃんと昇を引き離すのは忍びないと勇は思ったんだね。俺も同意し、二人で鈴姉さんと小鳥姉さんにその旨を伝えたところ、軽く叱られてしまった。


「舞は、逆を考えている」

「まずは何より、舞ちゃんの気持ちを聴きなさい」


 小鳥姉さんの「舞ちゃんの気持ちを聴きなさい」は俺らアホ二人でも正しさを瞬時に確信できたが、鈴姉さんの「逆を考えている」は推測の域を出なかった。よって二人で話し合い、アホ二人のアホっぷりを正直に明かした上で舞ちゃんの気持ちを聴くことにしたところ、百点満点だったらしい。舞ちゃんは昇を抱っこしつつ、こう答えたのである。


「勇と翔君と鈴姉さんと小鳥姉さんは、全員正しいよ。冬休みを昇と一緒に過ごしたいという気持ちも、私の中にある。でもこうしてこの子を抱いていると、それ以上に思うの。もっともっと強くなって、絶対この子を守ってみせるぞってね」


 そうだった、これがアトランティスの女なのだった、と今更ながらアホ二人は気づいた。そんな俺と勇の背中を、達也さんと雄哉さんが豪快に叩いた。「「お前ら油断していると舞ちゃんにあっさり抜かれて、大差を付けられるぞ」」 その未来を、舞ちゃんの放つ神々しい輝力越しにはっきり見たアホ二人が、闘志をかつてないほど燃え上がらせたのは言うまでもない。しかもその闘志に反応し、昇が手足を楽しげに動かして、


「あぶあぶ~~」


 と笑顔を振りまいたとくれば、やる気は天井知らずになるというもの。それは舞ちゃんも変わらず俺達三人は大急ぎで支度し、それぞれの訓練場所へ去って行ったのだった。

 行かないで~という気持ちを全身で表現して泣く昇に手を振り深森家を後にするのは、命が縮む想いだったけどさ。


 勇と舞ちゃんを乗せ、霧島家の飛行車が遠ざかっていく。二人は剣持家の合宿所を目指すが、俺はほんの数分で着く翠玉市の駐車場に向かっているだけだからね。大急ぎで支度して深森家をお暇したから、予定より10分ほど早く駐車場に着くはず。その十数分を使い、昇が功さんの生まれ変わりなことを翼さんにいつ伝えるかを、俺は考えることにした。

 アトランティス星の新生児の本体は、出生から二カ月間を休眠に充てる。地球人の休眠はもう少し長く、また出生後に本体を数カ月休眠させるのは全宇宙の共通事項だ。地球のネット小説でしばしば見かけた出生直後から前世の知能を有するのは、まさしくファンタジーなんだね。

 それを裏付けるオーラを、俺も昇で確認した。生後4日の昇も生後一カ月の昇も本体由来の知恵のオーラを感じなかったが、生後二カ月の昇は眠っていてもそれを微量に放っていたのである。深森夫妻と霧島夫妻はそれを俺より明瞭に知覚し、とりわけ鈴姉さんの鋭敏さは、やはり母親と感嘆せざるをえなかった。


「この星を卒業できたのに、再度の誕生を選んだ子のようだな」


 と、昇の特異性を正確に看破してみせたんだね。母さんに託された課題の半分を果たすのは今と確信した俺は、前世の昇と交流があったことを四人に明かした。人の転生を微塵も疑っていない四人は当然の事としてそれを受け入れ、かつ心のこもった感謝の言葉を俺に述べてくれた。それについてはダメ人間の俺でもどうにか対応できたけど、鈴姉さんがより深い愛を昇に注ぐようになったのは無理だった。「よくぞ私のもとに生まれてくれた」と昇に頬ずりした鈴姉さんに、母親の核心を見せてもらった気がしたのである。俺は泣けに泣け、涙をどうしても止められないでいたら、小鳥姉さんと小鳥姉さんのお腹の子に助けてもらった。昇を雄哉さんに預けて俺を抱き締めようとした鈴姉さんを、小鳥姉さんが体を張って止めたんだね。いかなる心理状態にあろうと、小鳥姉さんのお腹に子供がいることを鈴姉さんが忘れるなどあり得ない。小鳥姉さんと体が触れ合う前に鈴姉さんは身を乗り出すのを止め、そんな鈴姉さんを小鳥姉さんは抱き締め、親友の背中をポンポンしていた。その隙に事態を把握した俺は正気を取り戻し、達也さんに頭を下げた。下げた理由を口にしたら鈴姉さんに罪悪感を覚えさせるかもしれないので黙って頭を下げていたら、達也さんと雄哉さんに頭をポンポンされてしまった。何とも気恥ずかしく、俺は頬をポリポリ掻く。すると達也さんと雄哉さんが、いたずら小僧の笑みを俺に向けた。雄哉さんが昇を鈴姉さんに預けたのを合図に、二人で俺に跳びかかろうとする。だがその寸前、


「すべて見ていましたよ」


 母さんが部屋に突如現れた。しかし突如だったのは猿化しかけていた男組だけで、鈴姉さんと小鳥姉さんは出現を直前に知らされていたようだった。悄然とする男組を放置し、母さんが体を実体化させて昇を抱かせて欲しいと鈴姉さんに請うた。鈴姉さんは喜んで昇を母さんに託す。本体が目覚めていたからか母さんに抱かれた昇は目を覚まし、笑顔を振りまいた。女性三人は揃って歓声を上げ、華やいだ空気が部屋に満ちる。その様子に悄然を吹き飛ばした男組が目尻を下げまくっていたところ、母さんに手招きされた。俺のみならず計三本の尻尾がプロペラ化したのは脇に置き、母さんは昇について説明した。

 それによるとやはり昇は、健康スキルしか持っていないという。その代わり等級は神話級なため、80年組最強の戦士としてトップ55に名を連ねるそうだ。80年組の僅差の二位は小鳥姉さんのお腹にいる女の子で、神話級の健康スキルを同じく有するその子が昇の伴侶になる。「ただしそれは当人同士に任せ、親と言えども口出ししてはなりませんよ」と母さんは母神として四人を諭した。親が子の結婚相手に口を出す風習などこの星では廃れて久しいためうたぐる気持ちが多少あったようだが、四人は了承の意をすぐ伝えていた。しかし俺は母さんの言葉に意味があると思えてならず、来るべき時に備えて七人で過ごしたこの時間を心に深く刻んだのだった。

 という回想が、血縁者のいない俺には甘美だったのだろう。功さんの転生を翼さんに話すか否かの判断材料として1分程度を割くつもりだった回想が終わったのは、翠玉市の駐車場に着く数秒前だった。家族を求める子供のようで、なんとも恥ずかしい。俺は頬をペシペシ叩きつつ飛行車を降りた。そのとたん、


「翔さ~~ん!」

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