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「功、どうした?」「・・・」「もしも~し」「・・・」「オイこら、聞こえてるなら返事しろ」「す、スマン。自分でも混乱しているのだが、教壇に立つ女性に目を奪われたんだよ」「あ~、その人は人妻だから諦めろ」「違うんだって、恋愛感情なら混乱なんてしない。それとは異なるのに目を離せなかったから、混乱してるんだよ」「ふむ、辻褄は合ってる。そうだな、何か閃くかもしれない。当たり障りのない情報限定でこちらの女性を紹介するね」


 名前と、俺の孤児院時代の保育士さんだったという、当たり障りのない情報限定で俺は鈴姉さんを紹介した。当初はこの二つのみに留めるつもりだったのだけど、鈴姉さんが保育士としても人としても講師としてもついでに女性としてもいかに素晴らしいかを知ってもらいたくなり、気づくと饒舌の見本のようになっていた。褒めちぎったんだし功がストーカーになるなどあり得ないから、どうか許してください鈴姉さん。

 と姉に心の中で詫びた俺はさて置き聞き手はどうしていたかと言うと、深森鈴音という名を告げた途端、功は胸を両手で強く押さえたのだ。続いて功の周囲に、感情の竜巻が出現した。莫大な量の感情が、功を中心に渦巻いたんだね。そのお陰で功の感情が目視可能になり、本人の主張どおり恋愛感情皆無を確認できたことも、多数の情報を口にした理由だったのだと思う。人妻への横恋慕じゃないなら、問題ないしさ。

 そんな功を見ていたら、小鳥姉さんも紹介した方が良い気がしてきた。よって実行したところ、功は小鳥姉さんにも特別な何かを感じたみたいだった。もちろんこちらも恋愛ではなく、また意味不明の衝撃も鈴姉さんより遥かに少なかったみたいだけどね。

 功には伏せたが、この件では俺にも不思議現象が起きていた。二人が妊娠していることを、確信をもって伏せたのである。確信はもう一つあり、それは妊娠という語彙を心の中に極力思い浮かべてはならないという事だった。今は意識投射中で胸中を察知されやすくなっているから、極力避けねばならなかったんだね。そのせいで「なぜ避けたのか?」も、考察できなかったけどさ。

 それはいいとして、俺は功の手を引き天風一族の本拠地に戻った。正確には、本拠地にテレポーテーションした。心ここにあらずが酷すぎテレポーテーションしたことすら功は気づかなかったのだから、これで正解だったのだろう。

 功を自室に送り届け、そのまま別れた。次の授業内容を決めておらず、希望があったら参考にしたかったのだが、「お~い功~」「・・・」が再発して訊けずじまいだったのだ。教える側として、次回までに考えておかないとな。

 と思いつつ就寝したら、


「翔、やっほ~」「やっほ~って軽いですね。母さんに会えて、そりゃ嬉しいですけど」


 母さんが突如、俺の夢を訪ねて来たのである。

 訪問は突然でも、やって来たワケなら容易に推測できる。俺はそれを口にした。


「功が鈴姉さんに不可解な衝撃を受けた仕組みを、俺なりに考えてみました。聞いてくださいますか?」


 教えてくださいと頼むだけで叶えてくれるような、母さんはそんな甘い人ではない。自分なりに考えて正誤を問うのが、最低条件なのだ。正しい考察が望ましいけど、自信が無いから口にしないのは超絶厳禁。俺には考察可能、もしくは考察させることが俺に役立つと判断したから母さんはこうして来てくれたのに、口にしない選択をしたら、母さんの判断を俺が否定することになってしまうからだ。そんなの神が許しても、俺が許さないのである。かくなる理由により「聞いてくださいますか?」と尋ねたところ、母さんはたいそう機嫌よく頷いた。それだけで尻尾ブンブンが止まらなくなる14歳の自分に一抹の不安を抱きつつ、俺は考察を発表した。


「地球では、来世の能力と容姿と出生環境の選択自由度は、地球卒業の進捗度に比例します。進捗度の高い人は選択自由度も高く、低い人は自由度も低いのです。これは『己の成長は、己の可能性の拡大と同義』という法則に則っています。成長したら出来ることが増えるのは、日常生活にそのまま当て嵌る至極当然のことですから」


 例えば、料理。人生初の料理では目玉焼きにすら苦労するけど、上達するにつれレパートリーは増えていく。こんな当たり前の法則が、転生にも働くのだ。「凡者は知る人の少ない知識を追い求め、賢者は誰もが見過ごしている日常の中に真理を見いだそうとする」や「賢者は草一本に悟る」は、こういう意味なんだね。


「母さんのような大聖者になると、選択自由度は『自由設定』という、根本的に異なるものになります。選ぶのではなく『来世はこんな能力でこんな容姿で』のように、自由な設定が可能になるのです。俺や功は母さんに遠く及ばすとも、選択自由度は上がったはずです。上がったお陰で功が選択可能な来世の母親に、鈴姉さんが加わった。しかし来世関連の法則をまだ習っていないため、功は不可解な衝撃を感じるに留まった。これが俺なりの、考察です」


 出生前記憶を持つ子供によると、来世の母親に選びたくとも選べない女性がいるという。母親候補として人気のある女性をジャンケンで決めたことや、性別を自分で決めたことを覚えている子供もいるようだ。ジャンケンや性別決定は「本人を納得させるための手段」であり、特に性別は毎回自由に決められるものではない。多数の転生前記憶に触れた俺は、あの子たちの成長度を普通と判定している。前世で偉大な努力をして偉大な能力を獲得した特別に優れた子供達では、決してないのだ。睡眠中に雲の上に行って未来を見るのも、覚えていないだけで全員に与えられている能力でしかない。かくいう俺も、覚えていないんだけどね。ただし、覚えているせいでカンニングになる時は、強制的に忘れさせられるんだけどさ。

 でもまあそれは脇に置き、母さんは俺の考察を「訂正箇所はない」と評した。未熟者の俺にとって、それは事実上の最高評価。志が低かろうと、それが俺の本音なのだ。

 それでも宇宙一優しいこの母神様は、地球における「落第点ではない」に過ぎない俺の考察へ、補足説明をしてくれた。いやはや、ありがたいの一言に尽きる。俺は姿勢を正し全身を耳にして、補足説明を拝聴した。

 それによると夢の中の授業が生じなかった分岐では、功さんは綾乃さんか茜さんの子供として生まれたらしい。その分岐でもトップ55に入ったが、組織の一員には高確率でならなかったという。一方鈴姉さんの子供になった分岐では、トップ55と組織の一員の両方を叶えるのだそうだ。


「星母の存在を知っていた功は、翔を星母の組織の一員と確信していたの。夢を訪れて授業をする提案を翔にされたさい、翼に『うるさいバカ猿』と叱られるほど喜んだ主理由は、来世で自分も一員になれるかもしれないと思ったからなのね」

「睡眠中に雲の上に行って未来を見るのも、覚えていないだけで全員に与えられている能力でしかない」


上記は事実です。世の中には「何となく予定を変えたら大事故を回避できた」系の体験談が、山ほどあります。偽霊能力者や詐欺宗教家達がそれらの体験談を守護霊や御先祖の導きなどとほざいているから、上記が世に知られていないんですね。

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