表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
313/682

4

 鳥肌を鎮めるべく、回想を先へ進めることとする。

 その後あることが発覚し、俺は皆の怒声を浴びることになった。「ハメを外せる1分間をさっき使い切ったから、くすぐれないじゃないか!」がそれだ。ちなみに発覚したのは、第二回合宿の超山脈縦断の成功例は一つもないと、俺が知らなかったことだった。


「なんで知らねえんだよ!」「えっと、初合宿で第五山脈登頂を果たす人はそこそこいるそうだから、それくらい誰かが達成済なんだろうなって思ってたんだよ」「テメエいい加減にしろ!」「おい落ち着け。この変人を一般常識で計ってはならないって、この四カ月で俺達は学習したじゃないか」「むっ、確かにそうだ。悪かった落ち着くよ」「ちょっと待って、その変人って俺のことだよね。さすがに酷くない?」「「「「テメエは黙ってろ!」」」」「はいゴメンナサイ黙っています」「・・・スマン悪かった。翔、少し話さないか?」「うん、いいよ」「・・・ダメだ、コイツのこういう素直さを見ていると、自分が悪人に思えてくる。勇、説明を任せていいか?」「仕方ないな。最も付き合いが長くて耐性のある俺が、引き受けるよ」「耐性? 何それ??」「「「「変人耐性に決まっているだろうが!!」」」」「ヒエエごめんなさい、静かにしてます許して~~!!」


 こうして勇に説明してもらい、俺は見落としに初めて気づいた。初合宿で第五高原を10分以内に走破した人は俺を含めて二十人近くいるけど、その人達は俺以外全員、戦闘順位一位の生徒だった。したがってその人達は一人も漏れず8月2日に第二合宿が始まり、当日の超山脈の気候を北半球に当てはめると2月2日になるため、人類軍に縦断を許可された人は誰もいなかった。これが俺の、見落としていたことだったのである。己のバカさ加減に頭を抱える俺の姿に、皆は友人として罪の一種を感じたのかもしれない。定番ネタの一つと今回の見落としを結び付け、皆は反省会を始めた。


「初合宿でコイツが打ち立てた100年に1人の偉業も」「コイツがこれまでの記録をしっかり調べておけば」「歴代最短記録を容易に出せたんだよな」「コイツはそういう奴だから俺らもあまり追求せず」「お笑いの定番ネタにするだけだったが」「二回連続で調べていないとなると」「話は違ってくる」「うむ、違ってくる」「コイツにはいろいろ恩もあるし」「恩に報いるためにも」「心を鬼にして強烈な罰を執行すべきではないだろうか?」「そうだな、心を鬼にして伝説の」「「「「伝説の、メド大瀑・・・」」」」「ちょっ、ちょっと待ってみんな! 次はしっかり調べるから、同じことは繰り返さないから、どうか許してください~~!!」


 幸い皆は、二度と繰り返さないという条件付きで許してくれた。九死に一生を得た俺は約束を果たすべく過去の記録を丹念に調べ、縦断計画を改訂していった。その結果、人類初となる第二回合宿中の縦断達成だけでなく、初縦断時の最短記録を塗り替えられるかもしれないことが判明したのだ。戦士養成学校の一年時に超山脈縦断を達成したのは、これまでで10人。最短記録は約1千年前の第三回合宿で学年一位が出した、二日と8時間17分。第一渓谷宿泊所を午前7時半に出発し、同日午後3時47分に縦断を完了させたのが、最短記録だった。この「第一渓谷宿泊所を午前7時半に出発し」というのは10人全員に共通し、興味を覚えて調べてみたところ、それを強いる規則はなかった。疲労によって10人全員が普段より1時間以上遅い午前7時に起床し、野戦食を摂り7時半に出発していただけだったのである。ちなみにこの10人における第一渓谷宿泊所の最速到着記録は、前日の午後7時10分。最も遅い記録は、午後8時20分だった。全員が日没後に到着しているけど、二十歳の試験も含み夜間はドローンが地表をライトで照らしてくれるという。超山脈縦断は戦争と直接関係ないので、当然なのだろう。

 さあ次は、俺の到着時刻の算出だ。と意気込み5月の記録を基に計算したところ、一日目の宿泊所の到着予定時刻は午後4時半だった。二日目は不確定要素が多いけど、午後5時までには高確率で到着するはず。俺を10年以上見てきた美雪の試算によると、第一渓谷宿泊所に着いた俺は午後6時半に寝て翌午前2時半に起き、同3時には元気な声で「よし出発だ!」と宣っているという。いかにもありそうで噴き出してしまい、釣られて美雪も笑い出し、二人でしばしニコニコ過ごしたのは良い思い出だな・・・

 などとノロケるのは後回しにして、また回想も追いついたのでこっちも止めにして、今現在。

 本日10月5日の超山脈縦断の実測と照らし合わせるに、一日目の宿泊所の到着予定時刻が午後4時半というのは、計算が少々甘かったのかもしれない。どういうことかと言うと、


「翔、第五高原北端の休憩所到着まで、残り30秒。やはり休憩はいらない?」

「うんいらない。疲労は皆無だし、このまま突っ走るよ」

「はあ。冴子がギャーギャー騒がないよう押さえつけるのが大変だわ」


 との会話のとおり、計算を超えるペースで走っていたんだね。疲れを微塵も感じないので並列思考の訓練も兼ね頭の隅でこの二か月間の回想をしているうち、第五山脈登頂と第五高原縦走をほぼ終わらせてしまったのである。現在時刻は、午前9時40分。高山病対策のため登山速度を前回と等しくしたが、高山病の兆候が全く表れなかったので6千メートル地点の休憩所を素通りした。高原南端の休憩所も同じく素通りし、第五高原を秒速25メートルで駆け抜けてきた。そう実は前回より6分以上早い、3分20秒で第五高原を走破しようとしているのでした。ははは・・・・

 ちなみに美雪の言った「冴子がギャーギャー騒がないよう押さえつける」というのは、ただの冗談。前回の登山でギャーギャー騒いだことを深く反省している冴子ちゃんが、同じ間違いを繰り返すなどあり得ないんだね。俺を心から応援しているにも拘わらず美雪に真逆のことを言われて「美雪ったら酷い!」「ふふん、前回の罰の一環よ」のようにギャーギャー喧嘩することなら、ありそうだけどさ。

 そうこうするうち、高原北端休憩所を通りすぎた。さあここからは、俺の未踏領域だ。俺は気持ちを新たにして、第五山脈北壁に繋がる斜面を駆けあがって行った。

 その「気持ちを新たにして」が、役に立った。斜面を駆け上がり峰に到着した際、眼前の絶景に目を奪われず、下り斜面の安全性を落ち着いて確認できたのである。渓谷まで約13キロの下り斜面を視力20で確認し終えた後は10秒間だけ、大パノラマにうっとりさせてもらったけどさ。

 眼下に広がる峡谷は、学術的には峡谷ではない。山脈と山脈の間に事実上広がっているのは、奥行き90キロ幅5500キロの広大な()()()だからだ。盆地は山や山脈に挟まれた平らな土地を指し、そして超山脈にあるのも平らな土地で、しかし東西二方向が開けているから地学的には半盆地なんだね。とはいうものの、「第四半盆地走破!」や「第一半盆地宿泊所」では正直カッコ悪い。このカッコ悪いという理由により、渓谷というカッコイイ語彙が使われているだけなのだとちまたでは考えられている。

 話を戻そう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ