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 翠玉市に着いた勇は公園に行かず、バス停留所のベンチに座って終バスの発車時刻を待っていた。午後6時半過ぎ、勇のメディカルバンドがメールの着信音を奏でる。着信音を統一しているのに、好印象で綴られたことが音を聞くだけで伝わってくるそのメールを開いたところ、鈴姉さんからの感謝のメールだった。


「鈴音さんによると舞さんは、人生の節目を通過した表情で帰って来たという。また料理の楽しさに目覚めたらしく、小鳥さんの隣で晩ご飯の最後の仕上げを嬉々として手伝ったそうだ。その最中に隙を見つけて、鈴音さんは俺に連絡してくれたんだな。『ありがとう』って、メールに幾度も書いてもらえたよ」


 それは良かったと胸を撫でおろしたところ、勇が急に姿勢を正した。正座と土下座の理由の二つ目だな、とピンと来た俺も背筋を伸ばす。しかしその十秒後、俺は面食らっていた。正座と土下座の理由の二つ目なのは当たっていたけど、勇の口から出たのは想定外の言葉だったからだ。

 ここから暫く、後になって判明したことを組み込んで回想を進める。この回想は、俺の気持ちを整理するためにしているんだからね。

 勇が正座と土下座をした理由の二つ目は、どうか信じて欲しい、と俺に頼むための所作だったという。そして信じて欲しいこととは、舞ちゃんの失意に付け入り自分の彼女にしようなんて卑怯なことは死んでもしない、という事だった。勇がそんな人間ではないのは、俺が誰よりも知っている。よって普段なら「アホ、信じるに決まってるじゃんか」と即答したはずだが、今回に限って口ごもってしまった。「信じるに決まっているのに土下座してまで頼むからには、俺は何かを見落としているのか?」などと、不要な深読みをしてしまったのだ。そのせいで信じて欲しいと頼む勇に、信じてるに決まってるじゃないかと、俺は即答できなかったんだね。

 すると即答されなかったことへ、なんと勇も不要な深読みをしてしまった。いや正直言うと深読みではなく、ただのトンチンカンだった。「即答されないのは、翔が俺を誤解しているからだ。誤解を解くには、洗いざらい白状するしかない」と、勇は決意したそうなのである。そして愛すべきこの親友は、洗いざらい白状した。


「6月1日の翠玉市観光の最中、舞さんが恋する少女の瞳を翔に向けていることに気づいても、自分でも不思議なほど嫉妬や怒りが湧いてこなかった。翔を誰かとくっ付けることで舞さんを自分のものにしようなどの卑怯な考えも、不思議なほど湧いてこなかった。この二つを翔ならすんなり信じると確信しているのに、正座と土下座でしっかり伝えなければならないと、自分でも不思議なほど強く思ったんだよ」


 という計三つを、勇は俺に明かしたのである。それへ耳を傾けているうち、理解した。おそらく勇自身も気づいていないが、『これは愛を育む余地の友情版なのだ』と。

 計三つの白状の発端は、勇の誤解にある。俺は不要な深読みのせいで即答しなかっただけなのに、勇がトンチンカンに誤解したのが今回の件の発端なのだ。そして俺がそれへ、こんな感情を抱いたら俺と勇はどうなっただろうか?


『友達なら、誤解なんてしないはず。誤解するということは、友達じゃないんだ』


 もし俺がこんなふうに考える人間だったら、俺達の友情は消滅していただろう。俺はそんなの、絶対に嫌だ。ならば逆をすれば良いわけで具体的には、


『人間は誤解して当然なのだから、誤解を解けばそれでいいんだ』


 と考えることだね。よくよく考えたら、勇もまさしくそう思ってくれた。「洗いざらい白状すれば、翔の誤解を解ける。ならばそれをするのみ!」と、決意してくれたんだからね。ここで大切なのは、


『翔との友情を失いたくない』


 と勇が願っていること。それは俺もピッタリ同じだから、それを共通の軸にして行動すれば道は開けるはず。今回のことがきっかけで友情を益々深めた未来に続く道が、俺達の前に開けるはずなのだ。

 かくなる次第で『これは愛を育む余地の友情版なのだ』と、俺は考えたんだね。

 という俺の胸中を、今度は俺が洗いざらい白状した。お前が白状したのだから俺にも白状させろ的な、男子特有のアホっぽいノリで俺はしたのだ。勇にとってそれは想定外すぎたらしく、二の句が継げないでいた。すかさず「今こうして勇が面食らっているように、俺もさっき面食らっていただけなんだよ。勇は舞ちゃんに卑怯なことを決してしないって、きっちり理解しているから安心しろ」と、俺は親指をグイッと立てた。その途端、


「翔ッ、お前は最高の親友だッッ!!!」


 と、勇に抱き着かれてしまった。今夜は熱帯夜でこそないもののやはり暑く、暑苦しいのは勘弁願いたいのだけど、コイツは俺の親友だから仕方ない。よって、


「わかったわかった、とりあえずお前の好物のコレを食え。夕飯を逃した俺達はちゃんと食わないと、明日からの訓練に支障が出ちまうぞ」「だよな、夏休みは今日で終わりだもんな。よ~し食うぞ!」


 のように俺らは猛然と食った。成長期の体育会系腹ペコ男子は、好物を一緒に食べるだけで良好な空気を作ることが出来る。その単純さに感謝しつつ、カロリーバーとカロリージュースを俺らは竜巻のように食べ続けたのだった。


 20セットのカロリーバーとカロリージュースも、残り4セットになった。各々が8日分の8セットを胃に詰め込んだんだね。そのお陰で、空腹はもう感じない。となると、さほど間を置かず睡魔に襲われてしまうのが俺という人間。幸い目の前にいるのは、俺をめちゃくちゃ理解している親友。「翔、活動限界はあと何分ぐらいか?」「風呂も入りたいし、ここで過ごす上限は10分かなあ」「わかった。片付け込みで5分を目指そう」という、的確この上ない会話を俺達はした。そうここまではスンナリ理解できたのだけど、次は首を捻った。勇がベンチの上に、正座したのである。それを数秒間ボンヤリ眺めてようやく、そういえば正座と土下座の意味が一つ残ってたっけ、と思い出した俺に残された時間は、予想より少ないと考えるべきなのだろう。俺は頬をビシバシ叩いて気合いを入れ、背筋を伸ばした。そんな俺の瞳に、俺の何倍も気合を入れた勇が映る。こりゃ少しでも気を抜いたらまた面食らってしまうな、と危惧した俺は自分の太ももを思いっきりつねった。それが功を奏し、ボンヤリが脳から一掃される。と同時に、意味不明も甚だしい言葉が聴覚野に届いた。 


「翔、舞さんを俺にください!」


 ・・・・俺と勇に誤解が生じても友情を深めるきっかけに出来ると、俺らはさっき確認し合ったと思ったけど、早計だったかな? 

 みたいな感じの、友情の根幹を揺るがすようなことを俺は考えていた。勇がテーブルに額をくっ付けていたお陰で、バレなかったけどさ。

 いや、違うかな? さっきと同じく今回も意表を十分突く発言なため、こうしてあえて視線を切り、考察時間を俺にくれたのかもしれない。その正誤を見極めるためにも、「舞さんを俺にください!」について考察してみますか。

 と軽い気持ちで始めたら、正解らしきモノにあっさり辿り着いてしまった。よって、それを披露してみる。

『適切な人数の移民を適切な方法で受け入れ、移民と国民の両方を幸福にするのは、直弟子級以上のみに可能な極めて優れた政治です』


これを言い換えると、以下になります。


『不適切な人数の移民を不適切な方法で受け入れ、移民と国民の両方を不幸にするのは、バカでもできます』


上記をブラックマスター達の組織、略して黒化組織は好んでします。実力は乏しいのに自己評価の高い政治家に、「適切な人数の移民を適切な方法で」の箇所を伏せて紹介し、あなたなら出来ると煽てて実行させる。そうすることで地球卒業を遠のかせる「移民は排除一択」系の潮流を、国内に生じさせるんですね。


黒化組織が仕掛けたこの罠にまんまと嵌ったのが、欧州と米国ということ。早急すぎるLGBT政策も、同様と言えるでしょう。


しかし、頑張っている勇君に申し訳ないので、この話題はお休みします。

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