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 とはいえそれをそのまま顔に出したら、気味悪がられ距離を取られるのは必定。よって普段と変わらぬ自分を心がけたところ、


「ふふふ、勇君ってつくづく紳士よね」


 舞ちゃんが良い方に過大評価してくれたと勇は述べた。「いや過大評価じゃないから」「お願いだ止めてくれ、舞さんの前で慢心だけはすまいと俺は決めているんだ」「その決意は正しいし応援もするけど、舞ちゃんにそう言ってもらった時のお前、何してたの?」「四人分のお弁当と飲み物が入った重いバッグを、舞ちゃんの代わりに持っていたよ」「やっぱ紳士じゃん。舞ちゃんも喜んだろう」「そりゃ喜んでくれたけど・・・エヘヘ」 盛大に目尻を下げる勇にカロリーバーを握らせ、「とにかく食え」と命じる。勢いに呑まれたのか勇は素直に従い、嚥下用にジュースを一口飲んだ。それ以降は話の妨げにならぬ範囲で口をモギュモギュ動かしていたから、一先ず良しとしよう。俺も妨げにならぬよう心掛けて口をモギュモギュしつつ、話に耳を傾けた。

 舞ちゃんが持ってきてくれたお弁当は料理の神が拵えたとしか思えないほど美味しく、勇は幾度も窒息しかけた。そんな勇を案じつつも舞ちゃんは笑顔を振りまき、その嬉しさも加わった勇は、自分のために作られた三人分のお弁当を綺麗に完食した。鈴姉さんと小鳥姉さんが手伝ってくれたのだろうとの予想は当たり、舞ちゃんはそれから暫く、鈴姉さんと小鳥姉さんの料理技術の素晴らしさについて熱心に語ったそうだ。料理技術のみならず小鳥姉さんの人柄も絶賛し、達也さんと雄哉さんへも好印象を抱いた舞ちゃんは、深森家に泊まり皆と親交を持てたのは幸せだったと幾度も呟いたという。勇によると、その時の舞ちゃんには元気に振舞おうとする努力を少しも感じなかったらしい。ここで急に勇は背筋を伸ばし、真剣な表情で俺に問うた。


「鈴音さんと小鳥さんと雄哉さんにいつかお会いしたとき、好印象を抱いてもらうにはどうすればいいだろうか?」

「月並みだが『聴いていたとおりの人だ』と思われるのが最善だと思う。三人に勇の情報を伝えるのは、教官の達也さんと舞ちゃんと俺。俺は度外視するとして達也さんは、教官を長年務めてきたプロとして勇を常に見ている。舞ちゃんは・・・・そうだそれについて、勇に伝えておかねばならぬ事があるな」


 伝えておかねばならぬ事とは、色眼鏡を外して他者と関わる重要性についてだ。かれこれ三年前、俺は舞ちゃんと一緒に意識投射をした。そのさい、いわゆる超能力の習得時の注意点を俺は舞ちゃんにテレパシーで一気に送り、その中に「色眼鏡を外して他者と関わる重要性」があった。それ以来ずっと舞ちゃんは注意点を順守する生活を心がけてくれて、特に努力しているのが色眼鏡を外すことだと俺は感じていた。日常生活を介する訓練法としてそれは最上位にあり、最上位を一番熱心にしているのは、注意する根拠をきちんと理解している証拠。つまり舞ちゃんには、十全に理解した上で三年間熱心に訓練した実績があり、そのような場合人は往々にして、「それを他者の評価基準にする」ということをしがちになる。「あの人の色眼鏡は酷い」や「この人は色眼鏡の害を理解して外す努力をし、それが確実に実っている」のような感じだね。それ自体も一種の色眼鏡なのだけど長い目で見たらそれも貴重な学びとなるため、目に余るレベルでないなら強制的に止めさせるのは避けるべきと俺は教わった。幸い舞ちゃんはそんな状態になく、それでも色眼鏡の有無を他者の評価基準にしているのは間違いないと俺は感じている。その上で勇を高評価しているのだから問題ないと考えていたが、『この女性と夫婦になってこそ自分の人生は完結する』と宣言されたとくれば話は別。夫婦で共有する価値観の一つになっておいた方が、断然いいからね。よって伝えておかねばならぬ事として説明したところ、


「ありがとう翔、本当にありがとう~」


 勇にマジ泣きされてしまった。しかしマジ泣きより説明の最中、勇の頂眼址から白銀の光が一瞬漏れ出たことを俺は気に掛けた。あの白銀光は、勇の本体の光に他ならない。ならばそれが漏れ出た瞬間に勇が閃きを得ていたなら、勇は今回の件で本体に助けられていることになる。その正誤を見極めるべく勇に尋ねたところ、閃きを得た瞬間で間違いないみたいだった。これはつまり「勇にとって最高の人生の伴侶は舞ちゃんだと、勇の本体も考えている」という事。う~むこれは親友として、俺も全力で助力せねばな!

 ちなみに勇の得た閃きを俺風に表現するなら、「因果の連なり」になるだろう。色眼鏡を外す努力を続けた先に舞ちゃんと仲睦まじくしている未来が待っていることを、勇は俯瞰して見たのだそうだ。こりゃマジもんだ俺も張り切って助けるぞ、と闘志を燃え上がらせたところ、ピンと来た。よってそのピンに従い、行動してみる。


「俺と舞ちゃんの孤児院の院長をしていた鈴姉さんに、恋愛や夫婦愛を育むとても素晴らしい方法を教えてもらったことがある。勇と舞ちゃんにも当てはまる気がするんだけど、聞いてみる?」「聴く聴く聴きます、ぜひ聴かせてください!」


 勇は全身を一瞬で耳にした。そんな親友の姿に「ひょっとするとあのとき鈴姉さんの心の目には、俺とコイツの両方が映っていたのかもしれないな」と感心しつつ話した。


「人生で最も大切にしていることはピッタリ同じでも、それ以外は全然違う。という恋人や伴侶を持つ場合、違いを『愛を育む余地』にできれば・・・・」


 何もかもピッタリ同じ人を、創造主は創らない。人は違いがあって当然なのだから、その違いを「愛を育む余地」にすることを創造主は望んでいる。けれどもそれは、現実として非常に難しい。然るにまずはそれを、夫婦間で行う。夫婦間で行い技術を磨いて、周囲の人ともそれができる自分を自ら育てていく。それが最善であり、そしてその見地に立てば、「人生で最も大切にしていることはピッタリ同じでもそれ以外は全然違う人」は、最高の伴侶になると言える。なぜならその人は、愛を育む余地が最も多い人だからだ。

 という話を、創造主という語彙を使わず勇に話した。使わずとも、本体が閃きで勇に教える気がしていたのだ。実際、漏れ出た白銀光を話の最中に幾度も見ることが出来たから、きっと大丈夫だろう。との予想は、見事当たった。マジ泣きする勇に、繰り返しお礼を言われたのである。


「翔、ありがとう。実は俺、舞さんと異なる考え方をしていたらどうしようって、いつもビクビクしてたんだ。でも翔のお陰で、それが解消した。違いはあって当然なのだから、その違いを『愛を育む余地』にする。今の俺に、これ以上の教えはない。俺は約束する。俺は必ず、必ず・・・・」


 感極まったのかマジ泣きが一段強化された勇は、言葉を紡げなくなってしまった。けど、それでいい。俺達は親友なのだから尚更いい。ふと見上げた夏の夜空に「青春じゃのう」と嬉しげに呟く存在がいたような、そんな気がした。

善行は幸福を招き、悪行は不幸を招く。


上記を疑問視する人は、きっと大勢いるでしょう。「南米の麻薬カルテルのボスは、なぜ長期に渡り大金持ちでいられるのか?」等がそれです。


その説明は長大になりこの後書きでは足りませんから、本編で扱います。といっても主人公が3年生の2月になって、ようやく書けるんですけどね。よって、今は以下だけ。


「ディープステート等の巨悪の奥にいる存在達は、人を支配したりお金儲けをしたいのではない」

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