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 ザッッ


 400超えの挙手が一斉になされた。俺と裁判長以外の全員が、賛成してくれたのだ。俺は四方へ体を向け、ペコペコお辞儀する。そして大声で、


「夏休みの最後を飾るイベント、楽しかったよ~!」


 と呼びかけた。メール無視を水に流されさっきのお相子が成立しなくなったから、「この集まりはイベント」とゴリ押しする必要があったんだね。幸運にも、これ系の阿吽の呼吸を楽々こなす友人が俺には大勢いる。そいつらが「「「「だよな~~」」」」とすぐさま返し、続いて自分の夏の想い出を、周囲の奴らと面白おかしく話し始めた。その話題はたちまち場を席巻し、こんな事もあったあんな事もあったと各自が盛んに発表し合っている。ああ良かった誤魔化せた、この二日間のアレコレを根掘り葉掘り訊かれたらたまったものじゃないからな、と密かに胸を撫でおろしたのは、油断だったのだろうか? いつの間にか俺の傍らにやって来ていた某カップルに問いかけられ、こんな言葉を交わしたのである。


「そんでお前、翼さんのご家族や親戚とどんなやり取りをして、好印象を稼いだの?」「それ訊く? 何もかも台無しにして振り出しに戻しちゃうそれを、訊くの??」「翔君ごめんなさい、私達にも切実な問題があるの。どうか力を貸してください」「貸せるならもちろん貸すよ。それで切実な問題って、何かあったの?」「ありがとう翔君。えっとね・・・」「無理するな、俺が話すよ。戦士養成学校には『彼女の父親が娘を溺愛しているなら、彼女の家族への初挨拶は、一年の夏休みではなく二年の夏休みにせよ』という格言があるのを、知っているか?」「あはは、彼女がいないから初めて知ったよ。けど俺は気にせず先を続けて」「うむ、その格言はだな・・・・」


 そいつによると、溺愛する娘が中学一年生になったとたん「将来の夫」を家に連れて来たら、父親はほぼ間違いなく深刻なダメージを心に負うのだそうだ。俺は前世も前前世も独身だったけど、前世の弟達がお嫁さんをもらう時の状況を思い出すや父親に同情を覚えた。小学校を卒業して四か月ちょいしか経っていない娘が将来の夫を連れて来て、そして目の前で男とイチャイチャしたら、回復困難なダメージを父親が負って当然と思ったんだね。

 俺のその感覚は正しかったらしい。この格言は現在、「父親のいる全女子生徒に適用すべし」に変更されているそうだ。この星では子供が3歳になると、85%の親が夏と冬の長期休暇しか子供を可愛がれなくなる。父親が娘を可愛がれる期間は更に短いため、よほどの変人でない限りこの星の父親は娘を溺愛するようになるという。しかし娘が中一になると、つまり戦士養成学校の生徒になると、今までと同じ可愛がり方が不可能になったと父親は自ずと悟るようになる。この「自ずと悟る」を完了させるのが、超重要とのことだった。完了以降なら娘が将来の夫を連れて来ても、仕方ないこととして受け入れやすい。だが葛藤中に男とイチャつく娘を無理やり見せられたら深く傷ついたり、男に強い恨みを抱いたりという不幸な状況を、高確率で招いてしまうらしいのだ。「あ~、娘はいないけど何となくわかるよ」「翔もそうか。実は俺も何となくわかるんだよ」「だよな」「だな」 俺とそいつは合意し、しばし無言になった。すると気を利かせて、彼女さんが話を引き継いでくれた。

 それによると彼女は昔、大のお父さん子だったという。理由は父親が、大層な人格者だったからだ。人格者の父親を彼女はとても尊敬し、父親に恥じぬ娘でいられるよう戦士の訓練も懸命にしていたら、父方母方の両方で数世代ぶりの戦士養成学校の生徒になれた。言うまでもなく両親は喜んだが、母親がこっそり教えてくれたところによると、入学してすぐの5月1日に生涯の伴侶と出会うことは父親を苦悩させたらしい。そして遂にその日を迎えて娘から「私も出会ったよ」との連絡が来たとき、父親はショックのあまり三日間寝込んだそうだ。でも母親は続けて「あなたの前では今までと変わらぬ人格者の父親として懸命に振舞うはずだから、夏休みは父さんに合わせてあげてね」と頼まれ、事実この十日間そのとおりだった。しかし別れ際の眼差しは初めて見る哀しみに満ちていて、思い出しただけで胸に痛みが走るという。それでも自分はこの人と必ず結婚し、よって来年夏の初顔合わせは避けられないが、和やかな顔合わせにする努力をできる限りしたい。つい数時間前に見た父親のあの眼差しが瞼に蘇るたび、彼女は狂おしいほどそう思うのだそうだ。

 ここまで話すのが限界だったのだろう、彼女はハンカチを取り出し目を押さえた。そんな彼女を、彼氏が抱き寄せる。そしてそいつは、男の鑑になった。


「一族総出で歓迎された翔の体験談が、参考になるかもしれない。できれば、教えてくれ」


 そいつは、ビシッと頭を下げたんだね。彼女さんも目元からハンカチを離し、彼と並んで粛々と腰を折った。二人には悪いが、俺は困ってしまった。俺と二人では状況がまったく違うじゃん、というのが本音だったからだ。よって腕を組みウンウン唸っていたところ、彼氏の方が追加情報をよこした。


「彼女と同じく俺も、父方母方の両方で戦士養成学校の数世代ぶりの合格者なんだよ」「そうだったんだ・・・なるほど、だから『一族』なのか?」「そう、まさしくそれだ。俺の合格を親戚中が祝ってくれたのは、素直に感謝している。だが5月1日の夜は、うんざりしてな。それは今回の帰省も同じで、初めて会う遠縁の親戚が大勢やって来て、どんな娘なんだ早く会わせろってしつこかったんだよ。それを彼女に話したら、私のとこも似たようなものって溜息を付いてな。夏休みが終わったら対策を考えようってことになって、そして夏休みが終わる前日、翔が翼さんの一族に大歓迎されたことを知った。翔の人となりを知る俺はさもありなんと納得すると同時に、閃いた。翔にすぐ相談でき、かつこの目で直接見て手本にできる現在の環境を、決して無駄にしてはならないってな。翔、俺達とお前の状況が異なるのは、この会合で理解できた。しかし、初対面の人達に好印象を抱かれやすいお前の人柄は、有用な参考になると俺達は考えている。翔、ほんの些細なことでもいいから、思い付いたことを俺達に教えてくれ」


 二人に確たる事情があることを理解したとなれば、無下にはできない。役に立つか否かを度外視し、この二日間で注意したことと関連する出来事を話していった。


「あくまで個人的意見だけど、『生意気なガキ』と『自信過剰なバカ』と『卑屈な気弱者』が、彼女の父親に抱かせてはならない三大マイナス評価だと思う。これを回避する最も簡単な方法は、『年長者へ敬意を示すこと』と『巨大な目標を達成すべく努力し続けること』と『胸襟を開くタイミングを外さないこと』だね。それに関連する、この二日間の出来事を挙げると・・・」


 思いのほか二人が真剣に聴いてくれたのでアレやコレやを気負いなく挙げていたら、いつの間にか公園にいる全員が俺の話に耳を傾けていた。「ちょっと待って、何でみんなも聴いてるの?!」「そりゃ俺達にとっても、切実な問題だからな」「いやお前と彼女はどちらも、俺と同じ戦災孤児じゃん!」「翔、視野が狭いぞ。俺達は、将来持つことになる息子や娘たちの手助けを、したいんだ」「翔君、そうなの。戦災孤児の私は、両親にアドバイスを貰えない。でも息子や娘たちには、役に立つアドバイスをしてあげたいのよ」「むむ、指摘のとおり俺が浅慮だったよ。戦士を目指す者が、子供達の未来を失念しちゃいけないよね。うん解った、みんな自由に聞いてね」 結局それから終バスの15分前まで、俺は公園でアレやコレやを話した。野郎共の合いの手が絶妙だったり女子達がたいそう感心してくれたりして、気分が良かったのである。もちろん決定的なことはしっかり伏せたし、皆の役にも立てたみたいだから、乗せられた気は多々するけどまあいいかなと俺は考えている。

トランプさん、勝利おめでとうございます。


トランプさんが実力を発揮すれば、日本は80年ぶりに主権を取り戻します。すると日本は、中国共産党と高確率で戦争になるでしょう。


間違ってはならないのは、戦う相手は中共ということ。これを間違わない限り、敗北はないと私は考えています。

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